入学式での驚き
「あ、パメラ様。その間ご無沙汰しておりましたでしょうか」
「私はいつもと同じですわ。レイナさんは今回三席で合格しましたわね? すごいですわ。もともとは入学試験を受ける必要もなかったはずなのに」
アルトナイス帝国学園は将来が有望な人材、あるいは将来の領地や国家運営に関与する貴族たちを教える所だ。すなわち、レイナのような高位貴族は条件なしに入学できる。だが入学試験が禁止されたわけではなく、自分の実力を証明するためにわざと試験を受ける貴族の生徒も多い。レイナもその一人だった。
それはパメラも同じだった。
「パメラ様。同じ立場で首席を獲得した御方にそんなこと言われても嬉しいというよりは腹が立ちますわよ?」
「あら、ごめんなさい。故意ではありませんでしたわ」
二人の少女は隔てなく笑いながら話した。
パメラと親密な感じを見せる彼女は、レイナ・エルフェルト・アイナリド侯爵令嬢。金髪緑眼が美しい少女であり、魔法と学問の両方に長けた才女だ。そしてパメラには以前からの知り合いでもあった。
「パメラ様は今回演説もされるそうですが、準備はよくできましたか?」
「長くしたら面白くないでしょう。適当にやるつもりですわ」
「また心にもないことを。適当という言葉が世界で一番大嫌いな御方でしょう」
「本当ですわ。私が首席になったおかげで演説が減ったのも純粋に嬉しいですわよ」
「そういえば皇族はもともと壇上に立つ立場でしたわね。パメラ様が首席になったおかげで皇女の演説と首席の演説が一つに統合されましたわね」
そんな話をしながら待っていると、入学式が始まっていろいろな手続きが流れた。アルトナイス帝国学園はアルトヴィア帝国最高の学園だが、入学式が無駄に長く退屈なことで悪名高い。緊張が歴然としていた新入生たちの雰囲気もいつの間にかあくびをしたり、隣の人と密かに雑談をしたりすることに次第に変わっていった。
学園長――壇上に立っていた若い男が苦笑いした。
「皆さん疲れているようですね。遠くからいらっしゃった方も多いでしょうから、つまらない学園長の順番なんかはすぐ終わらせるのが皆さんにとっても嬉しいことでしょう」
学園長から伝染したかのように苦笑いが広がった。もっと格式のない席だったら、いたずらなブーイングが出たような空気だった。
学園長の視線がパメラに向けられた。
「今日この場にどんな御方がいらっしゃるのか、その御方が入学試験で何を成し遂げたのか、すでに噂が広がっているようです。それではこの辺でその御方を紹介したいと思います。この国の第一皇女で今年の首席入学者、そして偉大な『万能』の適性を持って生まれた御方。パメラ・ハリス・アルトヴィア第一皇女殿下です」
学園長の微笑みは明らかにパメラに向けられていた。パメラとレイナはその意味に気づいた。
「あら、学園長が呼んでるんですわね。いってらっしゃい、首席の姫様」
「行ってきますわ」
パメラは壇上に上がって講堂の中を見下ろした。大勢の生徒がいた。すでに在学中の生徒はもっと多いだろう。今後アルトヴィアの未来を担う子どもたちと共に切磋琢磨することが期待された。
「学園長に呼ばれた、この国の第一皇女パメラ・ハリス・アルトヴィアです。運良く首席の栄光を得てこの場に立つことになりました」
適当に格式があってもあまり長くはないように。この国の皇女で皇位継承者候補として、この学園の生徒の一部はこれからも長く会うことになるだろう。だから良い印象を残さなければならないという気持ちと、純粋に学園生活を期待する気持ちが半分ずつ混ざっていた。それなりの魅力アピールの時間だった。
だが新入生一人一人と視線を合わせる感じで彼らの面々を見ていたところ、パメラは意外な顔を発見して慌てた。
「えっ……!?」
パメラと同じ赤髪赤眼を持った少年だった。赤髪赤眼は皇族の象徴だが、それ以上に少年の顔が見慣れた。しかしパメラがこの場で会うとは思わなかった顔でもあった。
ベイン・ティヘリブ・アルトヴィア第一皇子。パメラの一年下の弟だ。
壇上のパメラを眺める眼差しには敵意が満ちていた。それがパメラとしては悲しかったが、慣れたことなのでそれでは慌てない。驚くべき点はベインが新入生としてここにいるということそのものだった。
アルトナイス帝国学園中等部の正規入学年齢は十一。他の年齢でも可能ではあるが、十一未満は別途入学試験を申請しなければならない。つまりベインがこの場にいるということは別に試験を受けたということだろう。できないことはないが、一般的ではないことだった。
それでも表向きはなんとか平静を保ちながら演説を終えたが、さらに驚くべきことはその後ろにあった。次にベインが壇上に上がってきたのだ。皇子であり〝次席入学者〟として。
レイナは席に戻ったパメラに話しかけた。
「次席がどんな御方かは知られていませんでしたけれど、ベイン第一皇子殿下ですわね」
「そう……でしたわね」
「パメラ様も知らなかったんですの? ……やっぱりベイン第一皇子殿下とはまだ……?」
「そういうことですわね」
レイナは悲しそうな顔でパメラの手を握った。
「ご安心ください。いつかはベイン第一皇子殿下もパメラ様に心を開くでしょうから」
「そうなるならいいんですけれど」
演説している間もパメラへだけ敵意に満ちた視線を注ぐ彼が、自分に笑ってくれる日が来るだろうか。パメラとしては懐疑的だった。
レイナはその姿が気に入らないように眉をひそめた。
「露骨ですわね。以前よりもっとひどくなったようですけれども」
「そうかもしれませんね」
「どうしたんでしょうか? 昔から理由もなく」
パメラにも見当がつく理由はなかった。ただいつからかそんな視線で見えただけ。ベインと話をしてみたくてもそちらが受け入れてくれなくて進展がなかった。
しかし一緒に入学するということは、結局同級生という意味。同級生だからといって無条件に同じ空間にいられるという保証はないが、チャンスはあるだろう。
パメラは今後のことを考えながら決意を固めた。なんとかベインに自分を振り返らせることに。
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