パメラの誕生祭
パメラがアレクシスと話をしてから二週間後。皇室の宴会場はかつてないほど活気づいていた。アルトヴィア帝国でとても重要な行事が行われていたからだ。
「パメラ第一皇女殿下、お誕生日おめでとうございます」
「十一歳になられたことを心よりお祝い申し上げます。この重要な日に入会できて光栄です」
パメラの十一歳誕生祭。
アルトヴィア帝国で十一歳は特別な意味を持つ。ましてそれが帝国の皇族なら申し分ない。そのため、とても特別な日として皆が期待する日であり、当事者であるパメラもその期待感を知っていた。
「ありがとうございます。私もこの日を無事に迎えることができて本当に嬉しいですわ」
「王国だったアルトヴィアを現皇帝アディオン陛下が帝国に再確立されて以来初めての皇族の十一歳誕生祭ですからね。誰もが殿下の〝結果〟を期待しております」
……知っているので耐えてはいるが、率直に言って面倒で疲れるというのがパメラの本音だった。
今日の主役だけに挨拶に来る貴族も多い。皇女として誠実に対応するだけでもかなり体力消耗が大きかった。ただでさえパメラはこのような形式的な席が好きではない方なのに、真ん中で主役として人を長時間応対しなければならないなんて。彼女としては気が狂いそうだった。
幸いなことに、彼女を救う綱が近づいていた。
「十一歳のお誕生日おめでとうございます、パメラ第一皇女殿下」
重厚な声がパメラに話しかけた。騎士団長だった。
パメラとの交流が多くはないが、それでも皇室を守護する騎士団の長である彼は無難に接することができる相手だ。少なくとも顔もよく分からないのにこんな時だけお世辞を言ってくる貴族よりは。
「あら。ありがとうございますわ、騎士団長。二週間ぶりですわね。前回申し上げた件は再考してくださいましたか?」
「挨拶してすぐに本論ですか。殿下は相変わらずですね」
騎士団長は苦笑いした。その苦笑いは愉快な感じではなかったが、パメラはわざとそれを無視して笑った。
しかし、十一歳の皇女の微笑み圧迫などでは強靭な騎士団長を臆させることができなかった。
「殿下のお願いですのでもっと検討しましたが、やはり駄目だと申し上げるしかありません。現時点ではアレクを殿下の個人護衛とすることはできません」
「むぅ……本当にダメなんですの? 騎士見習いを護衛にできないという法律はありませんでしょう」
「僭越ながら護衛は皇族のご一言だけで決まることではありません。皇族の御意と騎士の人柄と能力の両方を考慮し、騎士団を総括する私が皇帝陛下と共に決定するのです。これは団長として熟考した判断であり、陛下も同意されました」
「むぅ」
勢いよくアレクシスを追い詰めたが、思わぬ反対にぶつかった。騎士団長の立場ではパメラの主張こそ突拍子もないだろうが。
だが騎士団長はパメラを安心させようとするかのように微笑んだ。
「ただし、現時点で不可能なのは正式な護衛だけです。年齢と状況に合った制度下で似たような関係を結ぶことは別問題です」
「どういう意味ですの?」
「アルトナイス帝国学園。殿下が間もなく入学するそこは皇族と貴族、そして身分に関係なく才能のある子どもたちまで、この国の未来を担う人材を養成する所です。そこの騎士科の生徒は実習として個人の補佐や護衛など多様な役割を果たします。対象は当事者の合意で決まります。実習は中等部の三年生からですが、ちょうどアレクはもうすぐ三年生に進級します」
それだけでもパメラが理解するには十分だった。彼女は明るく笑った。
「ありがとうございます、騎士団長!」
「……これは個人的なお願いですが、あまり私の息子を困らせないでくださいませ。私は殿下がお優しくて立派な御方であることを知っていますが、私の息子はそれよりも皇族に接する負担を大きく感じています」
「善処しますわ」
今度は苦笑いするしかなかった。
騎士団長とそのようなやり取りをしている間、いつの間にか宴会場にかすかに流れていた音楽が止まった。それに従うように人々の声も静まった。
ついに来た――みんな同時にそう思った。
「アディオン・セレスト・アルトヴィア皇帝陛下のお言葉です」
布告官がそう告げて退いた後。宴会場の壇上にアディオン皇帝が現れた。
「今日は余の娘の誕生日を祝うために集まってくださったことに感謝を表する」
アディオンはそう言って、しばらく宴会場の人々を見回した。妙な緊張感が目に見えるようだった。アディオンもそれを感じて微笑んだ。
「皆の期待が大きいようなので、雑多な言葉は省く。そなたたちが望むものを見せるようにしよう。パメラ、上がってきなさい」
パメラは急激に緊張した体をなんとか動かしてアディオンの傍へ立った。宴会場の全員が彼女に拍手を送った。
「皆が楽しみにしているように、今日はパメラの十一歳の誕生日。つまり適性判別の儀式を行う日だ。このアルトヴィアが帝国に生まれ変わって以来初めて迎える皇族の適性判別であるだけに、余も期待している」
適性判別。この世の人間が生涯に一度だけ必ず経る重要な儀式だ。
この世界の魔法は理論上何でもできるが、実際には誰でも使える共用魔法は対象の特徴強化や物理的に打撃・プッシュといった影響力を与えるだけ。その他の現象を起こすためには、人によって一つだけ持つ才能が必要だ。その才能を〝適性〟と言う。その適性が何なのかを確認するのが適性判別の意識だ。
時期は国によって異なり、アルトヴィアでは十一歳で行われる。通常は特定時期に十一歳の子どもたちを集めて一度に行うが、アルトヴィアが王国だった時代にも王族だけは十一歳誕生祭の時に公開的に行われた。その伝統は帝国になった今もそのままで――帝国になって初めて十一歳を迎えた皇族がパメラだ。そのため、この場に集まった人々は様々な意味で期待しているのだ。
適性判別を担当する人と魔道具が壇上に上がってくるのを見守りながら、パメラは緊張で唾を呑んだ。
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