パメラの頼み
「正直に、とおっしゃっても申し上げることがありません。何もないことをどう申し上げられますか?」
「……そうですか」
パメラは肩を落とした。
しかし皇女のパメラが許可しなければ、アレクシスも退場できない。それを知っていたので、パメラはわざと失望した感情を露わにした。
少しでも感情を刺激できる方法を研究し、最も効果的な姿を演じる。相手から望む反応を引き出すために。以前から自分自身が年齢に相応しくない早熟だという自覚はあったが、今はその〝記憶〟が関連があるのではないかという気もした。
「率直に言うってことでしたので、もう少し話してみましょう。貴方を初めて見た瞬間、私の頭の中で急にわけの分からない記憶が溢れました。明らかに私自身とは関係ない記憶が……。あまりにも断片的なだけでなく、ほとんどが曖昧な記憶でしたので、つなげることも不可能でした。ですがその中でたった一つ、鮮明なものがありました」
パメラはアレクシスをじっと見つめた。哀愁に満ちた眼差しは演技ではなく本物だった。だがその感情が完全に自分のものなのか、それとも突然押し寄せてきた記憶からの勘違いなのかは彼女自身もわからなかった。
ただ一つ、〝記憶の主〟が悲しい気持ちを抱いたということだけは確実にわかった。
「アルラザール・テルヴァ。いつも傍で私を守ってくれた、私の騎士でした。最後の瞬間にも私のために本来守らなければいけなかった人に反旗を翻してしまいました。……という記憶が私にありますけれど、これが何を意味するのか私にはわかりません。それで知りたいですの。最後まで私のために存在してくれた彼がどんな存在で……どうして私のために動いて死んだのか。何がそこまでさせたのかを」
「恐縮ですが殿下。アルラザール・テルヴァが亡くなった当時、自分はたった二歳でした。そもそも彼と関係がなかった自分が特に事情を知るはずもありませんし、たとえそのような位置だったとしても記憶に残る年齢ではありませんでした」
「むぅ……本当に頑固ですね、貴方」
パメラは小さく頬を膨らませた。心からそうしたいほど不満でもあったが、周りから可愛いという評判を聞いたのでわざとやったのでもあった。
しかしアレクシスは固い態度でそれを受け流した。
「パメラ第一皇女殿下。殿下はずっと自分がアルラザール・テルヴァと関係があることを前提におっしゃっているのですね。なぜそう思われるのですか? ただ顔が似ているだけなら、たまたまそういう人が存在することは珍しくても不可能なことではありません。たとえ本当に自分がアルラザール・テルヴァの血肉だとしても覚えるはずがありません」
「貴方の立場じゃ納得できないでしょう。理解していますわ。私自身も実はよく分かりませんから。ただ……貴方を見た瞬間感じた何かが、記憶の中でアルラザール・テルヴァから感じたことと似ていましたの。それが何なのかはわかりませんけれど、だからこそ貴方を通じて知りたいんですの」
その瞬間。とても短い刹那の一瞬、アレクシスの眼差しが冷たく鋭くなった。
普通は錯覚と感じるどころか、最初からそれ自体を認知することさえできないほど短い瞬間だった。だがパメラは見た。そして思った。その眼差しはパメラ自身の推測を肯定する反応かもしれないと。
でもその刹那の眼差しが消えた後もアレクシスの気配は変だった。表情は相変わらず無表情だったが、なぜかパメラをじっと見つめていたのだ。ただやり取り相手を見つめるだけの目とは明らかに違う視線。その中にどんな感情があるのか分からないのでなおさら、パメラとしても気になった。
「いいですわ。今日はこれ以上聞きません。ですが一つお願いしたいです」
「何ですか?」
「貴方を私の傍に置きたいですわ。騎士の貴方を私の護衛として」
アレクシスは我慢できず小さくため息をついた。
いや、我慢できなかったのではなく、わざと感情を表わしたのだ。露骨にパメラの発言を嫌う無礼さを見せれば、パメラが発言を撤回するかもしれないと思ったから。
だがパメラはただ平穏な目でアレクシスを眺めるだけだった。アレクシスはそれがもっと嫌いだった。
「殿下。自分をずっと傍に置いておいて、今日のように追及されるということがとても丸見えです」
「あら。否定はしませんけれど、それだけじゃありませんよ。貴方の才能と能力に興味があるのも事実ですの。貴方は騎士見習いとしても新入ですけど、実力だけはもう現役騎士のレベルだと聞いたんですわ」
「どこでそんなことを聞いたのかわかりませんが、誇張です。そして皇族の傍で護衛するほどの重要な役割を騎士見習いに任せるのは前例のないことです」
「でも別にダメだと法律で決まったわけじゃありませんでしょう」
「法律で定める必要さえないほど当然のことだからです」
パメラはアレクシスの手を両手で引き寄せ握った。
「お願いです。優秀な騎士を傍に置きたいというのは本気ですの。必要なんですわよ」
「優秀な騎士が必要ならば近衛騎士団にお問い合わせください。自分などよりはるかに優れた騎士が多いです」
「私がしようとしていることには年齢の近い騎士が必要ですわよ」
「なぜそんなものが必要なのですか? 訳もなく変な噂ばかりするかもしれません」
「……むぅ」
パメラは眉をひそめ、頬を膨らませた。
こんな強要が迷惑であることは自覚しているが、これは譲歩したくなかった。突然の記憶の手がかりを諦めたくなかったから。これだけは年相応のワガママかもしれない。
アレクシスはパメラの表情と態度から彼女の意志を感じてため息をついた。
ここで最後まで受け入れなくてもパメラは諦めないだろう。これからますます面倒になるだけだ。それを直感したのだ。
だからといって素直に受け入れたくはなかった。
「……殿下から命令されるなら自分は従うしかありません。自分は騎士になる身ですから」
「少し面倒になるかもしれませんけれど、良くないことは決してさせません。誓います。だから私の頼みを聞いてください」
「……はぁ。かしこまりました。一応受け入れます」
「ありがとうございます!」
パメラは花のように笑ったが、アレクシスはただこれからのことを考えてため息をついただけだった。
―――――
小説のタイトルを少し変更しました。
連載を始めたばかりなのに急に変更することになって申し訳ありません。
そして読んでくださってありがとうございます!
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