適性判別

 適性判別の担当者は三十代ほどに見られる若い司祭だった。普通の司祭服よりは少し派手だが不必要な装飾は全くなかった。むしろ白い司祭服が輝く銀髪と青眼によく似合っていた。


「お会いできて光栄です、パメラ第一皇女殿下。本日殿下の適性判別の儀式を担当することになった、パルマ教中央大司教ラスカル・リオ・デリアードです」


「お会いできて嬉しいです。よろしくお願いしますわ」


 パメラは緊張を隠すことができず、わずかな笑みを浮かべた。


 パルマ教はこの国の国教として、この世界の主神と呼ばれる女神パルマに仕える宗教である。もともと適性判別はパルマ教で執り行う儀式なのでそれ自体は驚くことではなかったが、中央大司教が直接来たことだけは驚いた。中央大司教はパルマ教でアルトヴィア帝国の中心を統括する者であり、トップの最高司祭に次ぐ大物だから。


 しかしラスカルは気さくに笑った。


「ご緊張は要りません。娘が女神に選ばれたおかげで過分な席に上がっただけです」


 女神に選ばれたということは、女神が直接選択した者に授けると伝えられる『神聖』の適性を発現したという意味だ。その力を与えられた少女は聖女と呼ばれ、皇族と同等のレベルで扱われる。


 だがパメラは苦笑いした。


「若くして実力で中央大司教になった御方が娘さんを謙遜に利用されるとは思いませんでしたわ。娘さんが聖女に覚醒する前すでに中央大司教になったと聞いていますけれど?」


「おや。ご存知でしたか。失礼しました。ですが私にとって過分な席というのは本気です」


 ラスカルは咳払いをした。随行員が小さなテーブルを持ってきた。その上にはパメラの頭より少し小さい水晶球が置かれていた。


「それでは今からパメラ・ハリス・アルトヴィア第一皇女殿下の適性判別の儀式を行います」


 沈黙の中で無数の視線だけがパメラに集中した。しかしラスカルだけは優しく笑いながら案内するように手を伸ばした。


「水晶球に手を上げれば結果が出ます。簡単な儀式だから、あまり負担に思わないでくださいませ」


「この簡単なものを皇族という理由だけで見物のように見せびらかすのは気に入りませんよ」


 ラスカルは苦笑いした。


「お気持ちはわかります。ですが適性がどんなものが出ても、それだけで人の価値が決まるわけではありません。適性に関係なく立派な業績を残した偉人も多いんです。そしてとてもすごい適性でなければ、適性の名前自体は言わずに比喩的な表現だけを使います。ですのでご心配なく」


「特に心配しているわけじゃありませんけれど」


 パメラは自分の言葉を証明するかのように、躊躇なく水晶球に手を出した。


 体内の魔力が外部と共鳴する独特の感覚が一瞬通り過ぎた。直後、水晶球で魔力が輝き始めた。かなり派手で複雑なパターンだったが、当然パメラはそれが何を意味するのか分からなかった。


 しかし、それを見守っていたラスカルの顔色が変わった。


「これは……」


「都合の悪い適性ですの?」


「いいえ。むしろその逆です。ただし……この適性を私が発表する日が来るとは……想像もできなかったんですけれども」


 ラスカルは咳払いをして振り向いた。壇上の下の群衆に向けられた彼は両腕を上げて声を高めた。


「パメラ・ハリス・アルトヴィア第一皇女殿下の適性が判別されました」


 普通はこの後、適性の特徴を比喩する多様な美辞麗句が入る。どんな系統なのかだけ大まかに分かるように、適性が具体的にいいものか悪いものかは分からないように。


 だがラスカルの次の言葉は短くて簡潔だった。


「殿下の適性は……『万能』です」


 瞬間の静寂。その後歓声が沸き起こった。


 当事者のパメラが当惑するほどの熱狂だった。拍手したり歓呼する人もいた。普段は偉そうに威張るのが日常の貴族でさえ歓声を上げる姿は見慣れないものだった。


 しかし、その中には少し違う反応もあった。


 戸惑う人。眉をひそめる人。何かを感じたような顔で隣の人と話す人。喜びだけでなく反応も随所にあった。さらに先ほどまで歓呼していた人が突然心配そうな顔になったりもした。


 パメラはラスカルを振り返った。すると彼は彼女の視線をどう解釈したのか、少し固い顔で説明を始めた。


「『万能』とは、あらゆる適性の力を扱える適性です。除外される例外は女神から直接下賜される『神聖』の適性だけ。すなわち『万能』はただ一つの例外を除くすべての適性を扱う能力、魔法の頂点です」


「でも反応が微妙な人もいますわね。どうしてですの?」


「それは……」


 ラスカルは唇をかんだ。


 何かを知っているに違いない。だが簡単には言えないのだろうか。他の人々の微妙な反応と似ていたが、彼の場合は心配することに近い感じだったので指摘はしなかった。しかし余計に疑問が大きくなってしまった。


 ラスカルはしばらくして再び口を開いた。


「申し訳ございません、殿下。このような場で申し上げるには少し慎重な内容ですので。ふむ……そういえば殿下の歴史科目の家庭教師が〝彼〟でしたね。彼なら分かると思います」


「わかりました。今はそれで。ただ……どうしてこんな反応なのか少し不安ですわね」


「具体的なことは今申し上げることはできませんが、これだけは断言できます。殿下に誤りがあるのではありません。ただ過去の影を勝手に殿下に投影する人がいるだけです。むしろ殿下は理不尽だと怒ってもよろしいほどです」


 本気なのか、単なる慰めなのか。パメラにはわからなかったが、今はそれで十分だろう。誰に聞けばいいのかも聞いたし。


 そう思いながら宴会場を見回していたところ、パメラは〝少年〟を発見した。


 パメラと同じ赤髪赤眼で容姿も非常に似ている少年。だがパメラを眺める顔には敵意がはっきり表れていた。彼女と目を合ったら顔をそむけたりまでした。


「……」


 パメラは悲しい目で彼を見たが、彼がパメラを振り返ることはなかった。


―――――


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