第12話 王国の現状

 王女はあいかわらず自身の部屋でぐーたらを演じ、何かあるたびに「レルス~~」というお呼びがかかり、いい加減にこの名前にも慣れた頃。


 城門で懇願されたケイル村の件を解決するために、暇さえあれば宮殿の書庫に通う日々を送っていた。


 今更気づいたことだけど、異国もとより異世界のはずなのに、相手が喋っている言葉がすべて聞き取れるし、自分が話す言葉も相手に理解されている。さらに驚くことに、この書庫にある本に開いてある文字すべて読み取ることができていた。


 試しにケイル村の人達に手紙を書いて送ってみることにした。頭で書きたい文章が呼吸をするようにスラスラと筆が進んでいく。

 手紙には、しっかり食べているか、蹴り飛ばしてしまった長老のケガの具合だったり、村の状況だったりを聞く内容を書いていった。


 一通り手紙を書き終わると、俺を監視するかのように立ちっぱなしでいる、緑色の背広を着た男に渡す。


 この男、王国議会の一件以降、しつこいくらいに俺の後ろを付きまとって、寝ても覚めてもこいつから監視されているような状態だった。プライベートも何もありゃしない。


 リーディアに助けを求めるように尋ねると、俺の専属の男メイドみたいなようなもので、王国議員なのにも関わらず、俺の身の回りの雑務をこなす側付きも兼任しているとのことだった。


 こいつの唯一の取柄は、相手を包み込んでしまうほどの包容力絶大な横に大きく柔らかそうなメタボ体形……ではなく、俺に降りかかるありとあらゆる雑務を、何一つ文句も言わずに処理していくということである。


 本当に何でもこなすので、俺は雑用ネコ型ロボットと心の中で呼んでいる。

 本当の名前は、”ドッス・コイジャー”らしい。


 俺は雑用ネコ型ロボットにサロシー村に宛て手紙を渡し、送るよう言いつけた。

 緑色の背広がパツパツな背中を見送ると、俺は逃げるようにしてリーディアの部屋に戻った。


 王女の部屋に戻ると、いつもどおりお姫様はぐ~たらしている様子だった。

 外に出ることなく、一日中菓子を食べて、一日の半分以上を睡眠で過ごしている。よくもカロリーの摂取と消費のバランスが崩壊しまくった生活習慣で、どこに行っても恥ずかしくない綺麗でスラリとした体形を維持できるものだと。


 彼にも見習ってほしいものだ。今にもはち切れそうな緑の背広を着ているドッス・コイジャーに。


 リーディアは口の周りについているお菓子の粉を腕でぬぐって、飲み込み切れていないお菓子を口に頬張ったまま、俺に話しかけてきた。


「なぁレルス、農民が領主相手にクワやカマを手に取って、領主の屋敷を攻撃しようとした話、もう聞いておるか?最近特に多いな」

「えぇ、もう聞いています。はぁ、こんなにも民衆の反乱を買うって、今までどれほどの税を取ってきて、腐った政治をしていたのですかね。」

「非常に申し訳ない。我が至らぬばかりに」

「リーディア王女のせいじゃない。政治や権力っていうのは、戦争のようにパワーバランスで勝ち負けが決まるものじゃないですよ」


 以前あった事のように、農民が声を上げているという話はよく耳にしていたが、領主相手に直接武器を取ったという目立ったことは初めて聞く。


 リーディアは自分の責を責めているようだったが、すべてカエザルがやった所業。誰もが自分の命は惜しいものだし、今までリーディアが声を上げずにいて、殺されていないという事実と彼女の存在は、今後を立ち回っていくためにもかなり大きい。


「我がいうのはおこがましいと思うが、腐ったこの国を変えられるのか?」

「敵は神でも悪魔でもない。きちんと考える頭を持った人間で、誰しも自分本位の思惑がある。要は、誰を敵とみなして誰を敵とするのか。交渉の上で大切なのは、相手の思惑や本心をいかに引き出して見極める、これが権力戦争の勝利パターン。現にリーディアは私を味方とみなしていますよね?この繰り返しに過ぎませんし、国という大きな敵も所詮、人間の塊ですよ」


 俺はこんな偉そうなことを言っておきながら、出たセリフはすべて、色々なドラマやアニメのセリフをつなぎ合わせただけという。

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