第11話 クリア条件
「はぁ。アラギはどれだけ平和な世界にいたのだか。空白の玉座から我を引き離すには……この首を断つしかない」
リーディアは拳を作った手を首元に持っていくと、親指を立てて首を断つそぶりをするように横一文字に振り動かした。
俺は一つの疑問が浮かんだ。王女とカエザルが対立しているのなら、俺が今死ねばこの目の前の王女は、不毛な争いから解放され、この小さい部屋からも解放され、王女として君臨することができるのではないかと。
「カエザルを潰すだけなら俺の首で十分では?」
「そなたが死んだところで別のカエザルのような汚れた野心を持った奴が出てくるだけだし」
「腐りきった部分はまとめて切り落とす必要が?」
「そうね。よってアラギよ。リーディア・アンス・エルタニアの名のもとに。命じます、我の代わりにこの国を、民を救ってほしい」
「は?俺が?」
いきなり転生してから国を救えって……しかも正義のヒーローで国を救うとかならまだしも、カエザルという悪役非道の人物がこの国を救うって、どういった立ち回りをすればリーディアの願いが叶うのか、思考を巡らそうと思うだけでも頭が痛い。
「民の命を守るその姿勢と、自分の信念のためなら強大な勢力にも立ち向かえる度胸。アラギならできると信じておる。褒美と言っては厚かましいかもしれないが、我は”ジュンケツ”じゃぞ?」
言葉の途中で急に照れ隠しのような恥じらいを見せ始めるリーディア。自分の王族という権力をひけらかすのが恥ずかしい人なのかと勘繰ってしまう。
「王族なのだから純血で当たり前でしょうに」
「いや、その……血の色ではなくてな。我の体は穢れのない純潔だという……ことだから……な」
急にドレスの肩の片方のストラップを外し始め、ドレスを着崩し始めるリーディア。
「我を、我の体と契りを交わしてよいと申しておる!!」
――十四歳か、さすがに女子中学生と同じ年頃の子と相違打った関係はさすがにまずいだろ。
俺は冷静にリーディアの餌を下から上まで観察し、平静を保ちながらアンサーを出した。
「年端のいかない少女に興味ないんだが?」
「…………」
リーディアは下を向くように自分の緩やかな起伏の少ない胸元と相談するように見つめあうと、面食らった表情で気の抜けたアホヅラで肩を落としていた。彼女が想定していた俺の回答があまりに逸脱してしまっていたせいか、恥じらいを見せていた緊張が一気に解け、今にも口から魂が抜けるような廃人になりかけていた。
まぁ俺は、リーディアにああいう言い方をしたが、本心はこうだ。
――あと五年、五年後ならなあああああああああああああああああああ
俺の野心はここから始まる。
――冗談はさておき、どうせ元の世界に戻る方法なんてないんだし、ストラテジーゲームと思ってやってみるか。
「おーい、リーディアさん?生きてます?うまくできるかどうかわからないけど、救ってみせるよ。あとアラギって名前とは今日でお別れ。レルス・カエザルとしてこの世界を生き抜いてみせる!」
「じゃあレルス?今すぐテーブルの上の食器を片付けなさい!!」
「はい?」
王女、リーディアと交わしたエルタニア王国を救うという約束。何もかも思い通りになる権力が今の俺にはある。地位はあってもゲームとは違う。目の前で簡単にやり取りされる命や、一人一人の思い、感情。ステータスやパラメーターなんてもので表すには、あまりにも粗末すぎるし、俺が今、地に足をついているこの世界にはきちんと感情をもつ生きた人間しかいない。
背負うものが大きすぎるし、リスタートという便利な機能も存在しない。
ゲームオーバーは死を意味する。
セーブなんていう自分に都合のいいものもあるはずもない。
クリア条件は三つ
一つ、命のやり取りがない平和な世界にすること。
二つ、すべての人が衣食住に困らず、”生きる”という当たり前のことを放棄しないようにすること。
三つ、リーディアの平穏と自由
俺は心の中で、この異世界の悪役王女補佐官、レルス・カエザルとして生きることを心に決めたのだった。
そして、今はまだ知らない。血で血を洗うということが決して避けれないということも――
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