第2話 純粋な悪

 いったい何を言いたいのか分からない上に、悦に浸っているのが見て分かるので話が長引くと感じた俺は氷室に急かすも一蹴されてしまう。


「それで、話は戻すとして初めての悪事は『悪事』を意識して行わなかったはずだ。例えば食べる物も無く空腹から食べ物を盗む、怒りの感情を抑えきれずに暴力を過度に振るう、流行の靴を欲しいけど買えないから盗むetc……。それら悪事は『悪事』だからするのではなく自分の欲求がそうしたいからという理由で行っているはずだ。これはどの犯罪者であろうとも変わらぬ。だけど、悪事を繰り返しいつしか組織化していくにつれて『したいからする』のであなく『悪事だから行う』という風に『悪事』という固定概念に振り回され始める」


 そして氷室は俺の元まで歩いてくると、顔を近づけてこう言う。


「最近お前が行ってきた悪事の数々は『本当にお前が行いたかった行為』なのか? 悪い事だと思うから悪事を働く……俺は思うんだよ。そんなのは純粋な悪ではない。ただ自分と言う存在証明の為に『悪事』を行っているだけであると。悪事と言うのは、自分のやりたいようにする事なんじゃないのか? そこに法律を破る破らないは結果論でしかないのではないか? やりたいようにやった結果法律を破っていた。この行動こそが純粋なる悪というものではないのか?」



 そして俺は氷室にそう言われてハッとさせられる。


 いつからだろう。


 自分の欲望を満たすために行動していたのが、気が付いたら悪事であるかどうか判断して行動をし始めていたのは。


 これではただの『悪事』という言葉に踊らされた単なるピエロではないか。


「しかし俺は違う。自分の欲望に忠実に生きる。富も名誉も欲しいから、人を殺したいから、好きな物を欲しいから正義のふりをしているんだよ。俺がこうして正義のふりをして国家魔術師として悪事を働く悪党たちを捕まえれば名誉は自然と付いてくる。多く悪党を始末すれば昇級して好きな物を欲しい時に買えるだけの金銭を稼げるようになる。お前のようなネームド相手ならば殺しても褒められる。でもお前は違う。金銭や売り物を盗んでも、人を殺しても褒められる事など無いどころかこうして国家魔術師に追われて日常生活も日陰に隠れながら肩身の狭い生活をしなければいけなくなる。可哀そうに」

「確かに……お前の言う通りだな。同じことをしても俺とお前でここまで世間の扱いや評価が変わって来るなんてな……」


 そうなんとか気力を振り絞って返答する。

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