最強最悪の魔王と呼ばれていた俺は異世界に転生しても最強だった~悪をもって悪を潰す快感は実に甘美な砂糖菓子のようだ~

Crosis@デレバレ三巻発売中

第1話 そっち側の人間

 

 満月が辺りを照らす深夜。


 時刻は二時を少し回ったくらいだろうか?


 そんな時間に俺は雑居ビルの裏路地で腹に風穴を開けられていた。


「俺の悪運もここまでか……。今まで好き勝手生きてきた報いだとか、正義は必ず勝つとか言うのだろう?」


 そして俺は氷魔術で俺の腹に風穴を開けた国家魔術師である氷室幸助へと問いかける。


 しかしながら俺に問いかけられた氷室幸助はくつくつと笑うだけで返事を返そうとしない。


 それどころか次第に笑い方が大きくなっていき、最終的には腹を抱えて笑い出すではないか。


「いったい何がおかしいんだ?」


 何故目の前のこいつはこんなにも笑っているのか分からずに、俺は素直に問いかける。


「あぁ、すまない。 いや、君を馬鹿にしているとかそういう訳ではないんだがな、まさか魔王とまで恐れられている君が、実に的外れな事を聞いてくるから思わず笑ってしまってねぇ……。 えっと、何だったかな? 好き勝手生きてきた報い? 正義が必ず勝つ、だったかな?」

「……それが何だというのだ?」

「そもそも、俺は好き勝手生きてきた報いだとか正義は必ず勝つだとは思ってはいない。 たまたま俺の攻撃が貴様に当たっただけであり、運が悪ければ腹に風穴をあけられたのは俺の方だった可能性もあった。 正義が勝つなどただの戯言だし報いだなんだとか馬鹿らしい。 現にこの俺がまだ生きているのだから」 そう俺に向かって話す氷室幸助の表情は、とても『正義の味方』とは言えない表情をしているではないか。


 むしろその表情はどちらかと言えば俺と同類であると言われた方がしっくりくる程である。


「何だ? 今更気付いたのか?」


 そんな俺を見て氷室は実に楽しそうに俺に話しかけてくる。


「あぁ、そうだよ。 俺もそっち側の人間だ」

「…………」

「何だ? 納得いかないと言いたげな表情だな。 そもそも、悪ってなんだ? 悪い事をする事か? 正義の魔術師様と敵対する行動を取る事か? いいや違うね。それは悪ではなく『悪とはこうあるべきだ』という固定概念にとらわれているだけであり、いうなれば『悪』という言葉に縛られているだけに過ぎない。そもそも、悪事に初めて手を染めるとき……それは本当に悪事をしたいから悪事に手を染めたのか?」

「…………」


 氷室幸助は、俺の返事が無い事もお構いなしに尚も喋り続ける。


 その間も俺の腹に開いた風穴からは血液と魔力が流れ漏れていく。


「いったい何が言いたいんだ? お前の話が終わる前に俺が先に死んでしまいそうだ……っ」

「まぁそう焦るな。 お前ほどの魔術師が腹に風穴を開けられたくらいでそう直ぐに死にはしないよ」

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