第56話

 毎年の様にお盆の季節には来ているお婆ちゃんの家に遊びに来た夏休み。お盆を迎える準備を終えて、裏山を駆け回りながら修行を行なっていると、身に付けているデバイスから音が流れ出した。


 「ん?誰からだろう。」


 デバイスを確認すると、そこにはお母さんからの着信が来ている事が画面に表示されていた。


 「もしもし?」


 「あ、ハジメちゃん。ハジメちゃんにお客さんが来ているの。だから戻って来てくれる?」


 お客さんと聞いて一体誰が来たのだろうか?それが最初の疑問だった。はっきり言って、ここら辺で知り合いと呼べる様な人は居ないからだ。


 「それ誰なの?」


 「三鷹さん。近所の神社の人よ。お祭りで行った事のある神社の。」


 神社の人。そう言われてもピンと来ないが、どこの神社の人なのかは分かった。


 それにしてもどうしてそんな人が俺に用があるのか分からないが、待たせているみたいだから、急いで向かった方が良いだろう。


 「分かった。すぐに行くよ。」


 「気を付けて戻って来てね。」


 「うん。じゃあ切るね。」


 デバイスの電話機能を終了させると、俺は裏山で今も追い掛けていた葉月や雷珠にクロノワールを呼び戻してから裏山を下山する。


 「それにしても俺にどんな用事なんだろうな。」


 「予想は付きますが、聞いてみないと分かりませんね。それにまだハジメ様には早いです。本来なら10歳頃ですから。」


 それを聞いて来年の誕生日で10歳になるがまだ今年で9歳である。それなら葉月の予想である何かでは無いのかも知れない。


 「それで葉月、その予想ってのはなんだ?ご主人に危害が加わる事なら止めないといけないぞ?」


 「危険ではありますが、10歳までにはハジメ様も充分に成長しているはずですから問題はないでよ、雷珠さん。まあ、それは私の予想があっていた場合ですけどね。」


 「まあ、その話自体が分からないと意味がないか。ご主人、安心しろよ。ご主人に危ない事をさせる様なら止まるからな。」


 「ありがとう、雷珠。」


 そうして裏山から下山したハジメたちがお婆ちゃんの家に帰ると、居間にはお母さんやお父さんにお婆ちゃんと見知らぬおじさんの4人が待っていた。この人が神社の三鷹さんなのだろう。


 「君が上代ハジメくんだね。私は近くの稲荷神社で宮司をしている三鷹だ。よろしくね。」


 「はい。よろしくお願いします。」


 空いている場所に俺は座ると、その近くに雷珠と葉月が座り、クロノワールは大きなあくびをしてから日当たりの良く風通しの良い場所で横になって日向ぼっこを始めていた。


 「それで、その話ってなんですか?」


 「もうハジメくんのお母さんたちには話したのだけどね。ハジメくんには来年の豊穣祭で神楽を舞って欲しくてね。そのお願いをしに来たんだ。」


 「それを俺に?」


 「そうだよ、ハジメくん。」


 何故なんだろうと言う疑問が頭に浮かぶし、他にも豊穣祭が行なわれるのは秋の季節だ。秋になったらここに来ないと行けないが、ここまで来るのに交通手段はどうするのだろうか。


 そして、なんで俺が神楽を舞うことになるのかも分からない。だから聞くことにした。


 「それでなんで俺なんですか?」


 「そうだね。そこから話さないといけないか。」


 そうして三鷹さんが話した内容は理解できない内容だった。どうやら三鷹さんに神託が降り、稲荷神社に祀っている神であるウカノミタマと言う神様が直々に指名したのだと言う。


 それを聞いて本当なのかと疑わしく思うが、三鷹さんの表情は変わらないし、事前に葉月が意味深に言っていた事も考えると嘘ではなさそうだ。


 だが、本当になんで俺が神様直々に指名されたのか、それが本当に分からない。それに俺のことをどうやってウカノミタマ様は知ったのかも疑問に思うポイントだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る