第50話

 班ごとに分かれて昼食を食べる事になったが、俺は話し掛けられれば会話をするが基本的に食べる事に集中して昼食を食べていく。


 「ごちそうさまでした。」


 お弁当を全て食べ終えると、俺は空になった弁当箱をリュックサックの中に仕舞ってトイレに向かった。


 もちろんリュックサックは何かされる可能性があるから背負ってトイレに向かうと、トイレまでの道中で視線を感じた。


 視線の方を俺の事を見ている何かに気が付かれない様に伺うと、俺の事を見ていたのは時田だった。それも睨み付ける様な目付きでだ。


 なんであんな目付きで睨まれているのか理由はなんとなく分かるが、本当に面倒くさい奴だと心の中で思っていると話し掛けられる。


 「リュックを背負ってどうしたの?」


 話し掛けられた方を確認すると、俺のクラスの担任の教師だった。


 「トイレです。リュックは一応何かされない為です、先生。」


 嫌がらせの為に俺のリュックサックに何かをして来る可能性のある奴が居るんだから、用心に越したことはないだろう。


 それに俺が何かをされない為だと言った時に視線を時田の方向に向ければ、低学年の頃から俺に嫌がらせをしている時田の事が担任の教師の視界にも入ったのか納得した様だ。


 苦笑いしながらトイレが終わったら真っ直ぐに帰ってくる様に担任の教師から言われると、俺も素直に頷いてトイレに向かった。


 トイレに向かうその道中で、なんで先生は苦笑いしていたのだろうと思い考えれば、その答えもなんとなく理解する。


 時田の班(ほぼ100%時田)と俺が行動している班が問題を起こしたから担任の先生にも話が行ったのだろう。


 トイレに入って用を足すしていると、トイレの中でも視線を感じた。


 これは流石に時田じゃないだろう事はすぐに分かり、十中八九なんらかの怪異だと判断すると、この視線に気付かないそぶりをして手を洗っていく。


 手を洗い終わり洗面台から視線を鏡に向けると、そこには俺の事をじっと見つめる目玉がある場所が黒い穴になっている女性が立っていた。


 その姿を見て身体が硬直しそうになるのを耐えながら手を拭いてトイレから出ようとした時、背後から「見えてなかった。」と言う声が聞こえてくる。


 あの怪異は俺が怪異を見る事が出来るのではと思っていた様だ。


 一体いつあの怪異は俺が見える側の人間だと思ったのだろうか?


 それに隠蔽可能範囲で生体エネルギーを使った身体強化をしているのに、それには気が付かなかったのは、俺の隠蔽が見破られた訳ではなさそうだし。


 あの怪異がどうして俺が見える側の人間だと思ったのかは分からないままだが、それでもあの怪異は俺に憑いて来る様子はない為、とりあえずは問題はなさそうだ。


 そうして昼食を食べていた席に戻ってから下山での間に事件は起きる。


 「ぎゃぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 男子トイレの方から悲鳴が上がると、その悲鳴を聞いて周りの生徒たちはビックッと身体をビクつかせ、教師たちも何事だとトイレの方に男の教師たちが駆け寄った。


 それに釣られる様に何人かの男子生徒も向かって行くのを眺めながら、俺はトイレの時のあの怪異が何かしたのではと思った。


 そして実際それはあっていた。悲鳴を上げたと思われる男子生徒を教師たちが引っ張る様にしながら抱えてこちらに向かって来ている。


 「(うわ、あんなの張り付いてるのかよ。)」


 悲鳴を上げたと思われる男子生徒の身体にベッタリと張り付いている女の怪異の姿がそこにはあった。


 この場で怪異を視認できるのは3人。俺と時田と牧田だ。俺が視認できるのなら2人も出来るはずだが、2人の反応であの怪異がどんな反応するのか気になるところだ。


 「なんだあれ!?女が張り付いてやがるぜ!!気持ち悪りぃ目してやがる!!」


 そして案の定、怪異を見れる時田は大きな声でそんな事を叫んだ。

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