第48話

 順番が回ってくると、次は俺の班が高尾山の登山口から山道を登り始める番になる。


 体内のみに限定して生体エネルギーを循環させて身体能力を強化している為、それほど苦にもならずに整備されている山を登るが、俺以外の班員たちは拙いが生体エネルギーで身体強化を行なえる牧田以外の登るスピードは遅い。


 特に俺の班のメンバーたちは運動関係が得意な生徒ではない。だから、ここまで登るのが遅くなっても仕方ない事なのだろう。


 このままのスピードで登っていると俺1人でどんどん進んでしまいそうになり、仕方なく1番登るのが遅い班員に合わせて登る事にした。


 周りと合わせて進んでいる為、かなり余裕のある登山をしている俺は辺りの景色を眺めながら登っていると、そこら中に怪異が登山をしている子供が珍しいのか眺めていた。


 「(嫌な感じのする怪異は居なさそうだ。このまま何事もなければ良いんだけどな。でも、厄介事は向こうから来そうだ。)」


 先に進んでいたはずの時田たちの班がいつの間にか、俺が居る班と近い距離まで居たからだ。


 時田の班と俺の班の間に一組の班があったはずだが、時田の班を追い抜いて先に進んだのだろうか?


 そんな疑問を思っていると、時田が俺の居る班の牧田に話し掛けていた。


 「牧田、俺たちと一緒に登ろうぜ!!」


 「嫌よ、それにアンタの班は私たちの班よりも前にあったはずよ!どうしているの!!」


 何を話しているのか聞こえてくるが、俺は時田に絡まれたくないから関わらない様に視線を向けない様にする。


 時田と牧田の2人が立ち止まって話しているせいで、時田の班と俺の班のメンバーは進めずに立ち往生してしまう。


 それに後ろから後続の班がやって来ているのが後ろを振り向いた俺には見えており、牧田が相手をしているのが時田じゃなければ、俺は先に進む様に言えたのにと思っていると班員の1人が俺に話し掛けて来た。


 「上代くん、あの2人に先に行く様に言ってよ。上代くんなら言えるでしょ。時田くんは怖いからさ。」


 「時田と関わるのは面倒だから嫌なんだけど。アイツに関わるとろくな事ないしさ。」


 「そんなこと言わないで。」


 「そうだよ。」


 班員2人に懇願されてしまうが、本当にあの言い合いしている2人に話し掛けるのは面倒臭い。


 だが、後ろから後続の班も来ている事だし、俺も良い加減に先に進みたい事もあり、仕方なく頷くと周囲が見えている様子のない時田と牧田の元へと向かった。


 「はぁ、二人共さ。良い加減言い合ってないで先に進まないと後続だって来ているんでぞ。」


 「あ゛あ゛!!うるせぇよ、上代!!俺は牧田と話したんだ!口挟んで来るんじゃねぇ!!!」


 耳障りな声で時田が怒鳴る。だけど良い加減周りを見てほしいものだ。その点、まだ牧田は周囲が見えているのか、班員2人からの早く行こうと言う懇願の視線を感じた様子を見せていた。


 「ごめんなさい、上代くん。2人もごめんね、時田は置いておいて行きましょう。」


 「な、おい!牧田!!ちっ、上代!お前のせいだぞ!!」


 「はぁ、何がだよ。」


 溜め息を吐くと、俺は時田から距離を取って他の班員たちと共に移動を開始した。


 本当になんで俺がこんな面倒くさい事をする羽目になったのかと、気落ちしながら山道を登って行く。


 そんな俺の班が移動を開始すると、後ろから時田が時田の班のメンバーたちに「早く行くぞ!!」と怒鳴っている声が聞こえて来る。


 今日はこれ以上時田関連の煩わしいことが起こらない事を祈るが、すぐに後ろから生体エネルギーが荒れ狂うのを感じ取った。


 あれほど目立つ量の生体エネルギーを撒き散らせば、怪異に自分は普通の子供よりも多い生体エネルギーを蓄えていますよ、と伝えている様なものだ。


 身体強化を行なってこちらへと向かって来ている時田を感じながら、俺に時田が向かって来ない事を祈るのだった。

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