第38話

 俺たちが(主に雷珠)顔のない男を討伐してから翌日の放課後、俺の部屋で顔のない男を倒す為にこの町に来ていた討滅士の女性と話し合いを行なっていた。


 「これがその生体結晶なのね。」


 「はい。倒した顔のない男から出て来た物です。」


 テーブルの上に乗っている生体結晶を討滅士の稲生さんが手に取って確認している。


 生体結晶を見るだけで、それが顔のない男の物だと分かるのか分からないが、稲生さんには分かるのだろうか?


 「あの、それを見て分かるんですか?」


 「ん?ああ、分かるよ。と言っても、そこまで詳しく分かる訳じゃないけどね。今確認しているのは、私たちが倒した怪異の顔のない男と同一の存在かを確認しているだけだから。」


 「そうなんですか。」


 自分たちが倒したはずの顔のない男を取り逃したのか、それとも別の個体だったのかを調べる為に確認していたのかと、なるほどと思いながら稲生さんが確認を終わるのを待つ。


 「とりあえず言えるのは、私たちが戦い倒した顔のない男とは違う別の個体だと言うことね。もしかしたら、最初にハジメくんが遭遇した顔のない男はこちらかも知れないわ。」


 「そうなんですか?!」


 あの顔のない男が最初に俺を襲って来た個体だとしたら、あの時狙われたのは必然だったと言う事だろう。


 それにきっと、狙いを俺にしたのは俺の生体エネルギーが目的に違いないが、それにしても付け狙われていたのは驚きだった。


 「可能性の話よ。それでどう言う状況で戦ったのかを話してくれる?」


 「分かりました。雷珠と葉月に詳しく聞いてください。」


 今まで黙って稲生さんの様子を見ながら確認していた雷珠と葉月が2人から見た顔のない男の事を話し出す。


 それを側で聞きながら、俺は雷珠と葉月の2人から見て感じた顔のない男の話を聞いていく。


 雷珠からの話では、やはり最初に自分が戦った顔のない男と同一の存在だと2度目の戦闘で戦っていて気が付いたそうだ。


 だが、強さは2回目に戦った時の方が増しており、最初から全力で戦ったから、そこまで苦戦しなかったが、これが様子見をしていた場合は隙を付かれていた可能性もあると雷珠は話していた。


 戦った雷珠とは違い戦っていない葉月は、離れて観察した顔のない男の事を話し出した。


 感じ取った妖力操作や妖力制御が1度目と2度目の違い、顔のない男が行なった転移系の術や空間生成の術の事などを葉月は話していく。


 そして2人の話を聞いた稲生さんは、自分たちが戦った顔のない男の事を話し出した。


 雷珠と葉月の話と稲生さんが話す顔のない男の話に違いがある事に気が付いた。


 どうやら稲生さんたち討滅士の集団が戦った顔のない男は、そこまで強い相手ではなかった様なのだ。


 発見するまで大変だっただけで、遭遇すれば背中から触手を出したりはしていたが、短距離転移などの転移能力はなく、相手を閉じ込める空間を作ったりもしていない。


 そうして出された結論としては、俺たちが遭遇した顔のない男が1番力を持っていた個体なのではないかと言う話になった。


 「やっぱり他にも顔のない男は居るんですか?」


 「その可能性はあるだろうけど、私たち討滅士が倒したと知らせたから噂自体も収まって生まれなくなると思います。もし、現れたとしてもそこまで強い力を持ってはいないでしょうね。」


 俺たちが戦った顔のない男が、実は1番強い個体ではなかったとしたら、まだ強い顔のない男と遭遇する可能性があるんじゃないかと思ってしまう。


 だが、次に稲生さんが話した事が事実ならば、もうこの町には顔のない男はいない可能性が高い。


 それは顔のない男が自身とは違う別個体を吸収して強くなったパターンで、これなら急激な成長を見せた事に疑問が少ないからだ。


 稲生さんとの話し合いが終わって稲生さんが帰ると、俺が体験したこの町を騒がせていた噂話の怪異顔のない男の騒動はようやく終わるのだった。

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