第36話
妖力の守りを突破して雷撃を食らう顔のない男は、その身体を先ほどから雷珠が雷撃を終えても痙攣させており、ビクンビクンと身体を震わせていた。
そんな顔のない男に向かって容赦なく雷珠は、顔のない男を真上に向かって蹴り上げる。
未だに痙攣している妖力を纏う事も出来ていない顔のない男に向かって、吹き飛ばさない様にしながら、雷珠は拳や蹴りを絶え間なく連続で顔のない男を攻撃し続けていく。
「これでトドメだぁあ!!!!!」
拳に最大限の雷撃を込めて、雷珠は顔のない男に向かって打ち込んだ。
振り下ろす様に繰り出された雷撃を纏った拳が、顔のない男を地面に叩き付けると、雷撃が顔のない男の身体を消し炭にして行った。
「これで終わりましたね。ハジメ様、向かいましょう。」
「うん。頑張った雷珠を労わないとね。」
肩まで動くほどに荒く息をしている雷珠の元へと俺と葉月は向かう。
「雷珠、お疲れさま。」
「はぁ、はぁ……ふぅ。ご主人、倒したぞ!!」
「ちゃんと見てたぞ。凄かった。」
「あはは、オレは凄かった、か。」
満足そうな笑みを浮かべる雷珠の隣で、葉月は懐から取り出した札を使って、顔のない男の亡骸を浄化し始めた。
「これで問題なく瘴気を祓えましたね。雷珠さんも、一応浄化しますよ。」
「ああ、頼む。葉月。」
殺した顔のない男の身体から漏れ出していた生体エネルギーと瘴気を雷珠が吸ってしまったのだろう。
葉月はまだ身体に吸収され切っていない雷珠の中にある瘴気を浄化していく。
「これで生体エネルギーのみになりましたね。雷珠さん、もう大丈夫ですよ。」
「助かったよ。体内に入った瘴気の浄化をオレだけで浄化しようと思うと時間が掛かったからな。それじゃあご主人も生体エネルギーを吸収するぞ!」
「ありがとう。」
流石に生体エネルギーを送っていたが、顔のない男と雷珠1人で戦った様なものだから遠慮する気持ちもあるが、それよりも俺が強くなる方が雷珠に取っては良いだろうと、俺は顔のない男の亡骸から漏れ出している生体エネルギーを雷珠と一緒に吸収して行った。
そして、顔のない男から漏れ出した全ての生体エネルギーを雷珠と一緒に吸収し終わると、顔のない男が倒れていた場所には子供の片手で収まるくらいの緑色の結晶が落ちていた。
この生体エネルギーの結晶は怪異が身体を維持しておく為の核の様な物なのだと葉月から教えられる。
「葉月。異界で現れた怪異は倒しても、これを落とさないの?」
今年の夏休みにお婆ちゃんの家にある裏山の結界の要石のある部屋に出来た異界で、遭遇した怪異たちからは、この生体エネルギーの結晶を落としていなかった。
だから俺はその疑問を葉月に質問していると、突如空間が揺らぎ始める。
「な、なんだ!?」
「顔のない男を倒した事で空間が維持出来なくなったみたいです。」
「それって大丈夫なの?!」
この空間と一緒に俺たちも消えるのではないかと焦って葉月の方を向くと、葉月は安心する様に俺に言う。
「問題ないです。一応、手立ては打っていますからね。ハジメ様、雷珠さん。私の近くに来てください。」
「ご主人、葉月の側に寄るよ。」
雷珠に手を引かれて、俺と雷珠は葉月の側に寄ると、葉月は取り出した札を使って何らかの術を発動する。
すると、俺たち3人の周りに結界が生み出される。そして結界が生成されてからそれほど時間が経たずに顔のない男が生み出した空間は消滅するのだった。
そうして空間の外へと出ることになった俺たちだったが、葉月の結界のお陰なのか、何事もなく顔のない男に空間へと連れ去られる前と同じ場所にいた。
「無事に元いた場所に戻った様ですね。ハジメ様、先ほどの質問ですが、それは帰りながらにしましょう。」
「うん、分かった。とりあえず、これは仕舞っておくよ。」
手に持っていた生体エネルギーの結晶を俺はランドセルの中に無理矢理に入れてから、一応の用心として3人で帰路に着くのだった。
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