第35話

 触手と長い腕から繰り出される攻撃を雷珠が拳や蹴りを繰り出して対処しながら、顔のない男へと攻撃している姿を観戦していると、顔のない男の体内の生体エネルギーや瘴気が活発になるのを感じ取る。


 「何をする気なんだ?」


 「あの感じですと転移ですね。短距離転移でしょう。雷珠さんも気が付いていますから心配は無用ですよ。一応、こちらに来る可能性もあるので注意だけはしておいてください。」


 「うん、そうしておく。」


 顔のない男がいつ短距離転移を行なって来ても良いように警戒だけはしている俺だったが、顔のない男が転移した場所は雷珠の真後ろだった。


 その結果、顔のない男は俺と葉月に背を向ける形になったが、そこは背中に生えている触手でカバーする気なのだろう。


 ウネウネと俺と葉月の方を警戒するかの様にうねりくねっている触手の様子に、俺は警戒を現れにしているが、となりの葉月は尻尾を刀に変えていつでも攻撃可能な状態になっていた。


 そんな葉月の警戒もあって、顔のない男の触手は俺と葉月には向かって来ないが、その代わりに雷珠にはかなりの数の触手と長い腕からの攻撃が雷珠の背後から襲ってくる。


 「はぁああ!!!!!」


 だが、顔のない男が雷珠の真後ろへと短距離転移を行なった事を気付いていた雷珠の後ろ回し蹴りが、顔のない男の腹部に直撃して足がめり込むと、顔のない男はくの字になりながら吹き飛ばされて行った。


 「こっちに来る!!?」


 「はぁ、雷珠さん……仕方ありません。ハジメ様、そこに居てくださいね。」


 俺と葉月の居る方向へと蹴り飛ばされた顔のない男の姿に、俺は驚いてすぐに離れようとするが、葉月に静止されて動きを止める。


 そして以前こちらへと向かって吹き飛ばされている顔のない男に向かって、葉月は背中の触手全てを一瞬で切り落としてから、同じ様に顔のない男を雷珠に向かって蹴り返した。


 その際に葉月の蹴りが直撃した場所からメキバキッと音がしていた事から、顔のない男の背骨の部分の骨が折れた様な気がする。


 蹴り返された顔のない男は、そのまま雷珠へと向かって吹き飛ばされるが、それに対して雷珠は薙ぎ払う様に足をしならせ、向かってくる顔のない男を蹴り飛ばし、顔のない男は今度は真横に蹴り飛ばされて地面を転がって行く。


 「食らえ!!」


 地面を何度もバウンドしながら跳ね転がる顔のない男に向かって、雷珠は雷の球体をそれもかなりの大きさの雷の球体を顔のない男へと投擲した。


 「ウゴガガァアガガガ!!!!!!」


 転がっていたのが止まった顔のない男へと雷の球体が直撃すると、命中した箇所から放電を起こした雷の球体に顔のない男の絶叫が聞こえて来た。


 黒い煙が顔のない男の身体から上がる中で、雷珠はピクリともしない顔のない男へと駆け出して行く。


 俺の感知能力でも顔のない男の生体エネルギーや瘴気の量は減っている様に感じるが、それでもまだ顔のない男の全体量からすると半分をようやく切ったところで、顔のない男はまだ戦闘する事が出来るくらいの消耗しかしていない。


 それでも半分も消費した事を考えると、雷珠がここから畳み掛ければ充分に余裕を持って勝利する事が出来るだろう。


 そして倒れ身体から黒い煙を上げている顔のない男に接近した雷珠が、倒れている顔のない男を蹴り上げようとすると、顔のない男の触手が雷珠に絡み付こうと動き出す。


 「ッ!!はぁっ!!!」


 自身の足に絡み付こうとして来た触手を感じ取った雷珠が、足元を力の限り踏み付けて地面に雷撃を叩き込む。


 放たれた雷撃が絡み付こうと接近していた触手を、全て雷撃で動けなくなるほどに黒焦げにしてしまう。


 そして、触手からの感電と至近距離からの雷撃を受けた顔のない男は再び、その身体から黒い煙を上げながら全身を痙攣させていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る