第12話

 「で、どうする?これに封魔管の解き方も書いてある。今すぐに解放して式神にするのがオレは良いと思う。」


 「雷珠はそう言うけど、どうすれば良いかな?ここお婆ちゃんの家だし。」


 集まっていた家族を見回してから、お婆ちゃんに顔を向けて聞いた。


 この封魔管に封じられている怪異は、上代家に伝わる技術も持っているらしいし、俺としては是非式神になって貰いたい。


 何か考え込んでいる家族たちは話し合いを行なってから決める様で、その間に俺と雷珠は大人しく待っている事にした。


 「にゃ?」


 「クロも来たのか。」


 「にゃん!」


 足に纏わり付いて来るクロを抱き上げて撫でている間に、話し合いは終わった様だ。


 「解放するのなら庭する様にね。私たちも見学するわ。」


 「式神契約をして良いって事?」


 「そうよ。上代の家に伝わる式神なのだからね。」


 「どうやら決まった様だな。ご主人、契約するなら、それを着てからだ。品質の良い防具だからな。」


 そう言って雷珠が指を指すのは長持の中に入っている着物だった。


 「でも着物なんて着た事ないよ?」


 「それなら私たちが着させますよ。桃子手伝いなさい。」


 「ええ、そうね。母さん。ハジメちゃん、行くわよ。」


 お婆ちゃんが着物を手に取り、お母さんが俺の手を取って長持の中に入っていた着物を着替えさせられる。


 子供用の着物に着替えた俺は慣れない着物に身体が動かしにくい。これならすぐに動ける様な普段の格好の方が良い気がして来る。


 「これ、動かずらいよ。」


 「ご主人、本当は霊力の方が良いんだが生体エネルギーでも強化可能なはずだ。着物に生体エネルギーを流してみてくれ。」


 「生体エネルギーを?分かった。」


 自身の生体エネルギーを操作して体内から体外へと出して行き、身体の外に出した生体エネルギーを着物に流し始める。


 すると、着物にすんなりと生体エネルギーが流れ込み始めていく。これで着物が強化された様だが着物が硬くなる訳ではないらしい。


 そして準備が出来た俺は封魔管を片手に持つと、雷珠を肩に乗せて、庭へと移動をして行き、その後ろをクロを先頭にして家族が付いて行く。


 「ここなら広さも問題ないだろ。ご主人、オレの言う手順で封魔管に生体エネルギーを流してくれ。それでご主人の生体エネルギーで身体を構築した怪異が現れる。」


 「うん。何かあったら守ってくれよ、雷珠。」


 「ああ、オレはご主人の式神だからな。任せておけ!」


 雷珠の身体は小さいが頼もしく感じる。


 俺は手の中にある封魔管に手順通りに生体エネルギーを流して行き、封魔管の開く様になると封魔管の蓋を開いた。


 開いた封魔管から俺が先ほど流した生体エネルギーが緑色の靄として流れて行き、生体エネルギーの靄が一ヶ所に集まり出して人型に変わって行く。


 一瞬光を発した後に現れたのは巫女服を着た白い尻尾を生やした少女が立っていた。


 閉じていた瞼を開くと赤い目が俺の方に向くと、狐耳と尻尾を生やした少女が膝を突いて話し始める。


 「お初にお目にかかります。私の名は葉月。貴方様にお仕えする妖狐でございます。」


 「あ、うん。俺は上代一かみしろはじめ、これからよろしく。」


 「はい、よろしくお願いします。」


 真っ直ぐに俺を見てくる葉月に若干たじろいでしまうが、差し伸ばした手を握り返される。


 柔らかい手だな、と思っていると肩の雷珠が葉月に話しかける。


 「オレはご主人の式神だぞ?先輩のオレへの挨拶はないのか?」


 話しかけられた葉月はチラリと雷珠を一瞥して「ふっ」と鼻で笑い雷珠を無視した。


 「ハジメ様。式神の契約を行ないましょう。」


 「お、おお。」


 雷珠を無視して式神契約を始めようとする葉月。そんな葉月に対して雷珠はプルプルと怒りで震えているのを肩で感じる。


 「オレに喧嘩売ってるんだなあ!!」


 「ふっ、貴女に喧嘩なんて売るわけないでしょ。貴女、弱いもの。」


 妖力を纏っている雷珠に対して、葉月はただ雷珠を見つめながら挑発する。


 これを俺が止めるのかと思うが、今後もこんな事は起こるだろう。最初が肝心だと2人の会話に割り込んだ。


 「お互いに今後は俺の式神になるんだから仲良くしてくれ。葉月も雷珠に挑発するのは止めてくれよ。雷珠も喧嘩売るのは止める様に。」


 「かしこまりました。ハジメ様。(ハジメ様に助けられたわね。)」


 「ッ!?(これは念話か!!)」


 言わないといけない事は言った俺は、次に葉月との式神契約を行なっていく。だがここで問題になったのは昔と怪異を式神にする方法が違う事だった。


 「ん?これは?」


 「私を式神にする為の符です。知らないのですか?」


 「ふん!古いな。今はそんな物使わなくても式神契約は出来るんだよ。ご主人、コイツに教えて上げると良いよ。」


 「うん。」


 デバイスを取り出して葉月に今の式神契約のやり方を話し出した。


 「なるほど。そんな物があるのですね。では、それを使って式神契約を始めましょう、ハジメ様。」


 式神契約の設定を葉月と雷珠の2人と話し合って決めると、葉月との式神契約が始まった。


 デバイスから現れた契約陣が葉月の身体を包むと、契約陣が縮まり、葉月の身体に契約陣が入って行く。


 そうして契約陣が葉月の身体に完全に収まると、俺と葉月の間に目に見えない何かが繋がった。


 「改めて、私は葉月です。今後ともよろしくお願いします。」


 「うん、よろしく葉月。」


 葉月との式神契約が終わると、葉月との式神契約を見守っていた家族と同じ式神のクロの紹介を行なった。


 お互いに自己紹介をするなかでクロは葉月を見て震えていた。


 「どうした?クロ。」


 「にゃ!」


 クロに近付きしゃがみ込むと、クロはピョンとジャンプして俺の懐に飛び込んでくる。


 俺はしゃがんだ膝の上に飛び乗ったクロを抱き上げていると、葉月の興味を引いた様だ。


 「その子がハジメ様の式神ですか。怪異に成り立ての様ですね。」


 「俺の生体エネルギーで少しずつ怪異になったみたい。雷珠が俺とクロを鍛えてるんだよ。」


 雷珠が俺とクロを鍛えている事を知ると、葉月は俺の肩の上の雷珠を見始めた。


 「ふむ、そうなんですか。」


 「文句あるのかよ。」


 「いえ、これからは私がハジメ様を鍛えるので雷珠さんはお役御免です。お疲れ様でした。」


 胸を張った葉月は雷珠に喧嘩を売るのだった。

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