第11話

 それから夏休みになるまでの間、学校では時田とその取り巻きたちに絡まれるストレスの溜まる生活だが、それも夏休みに入った事で解放された。


 そんな俺の生活も夏休みに入った事で自由に出来る時間が増え、その分の時間を討滅士に必要な技術の特訓に費やす事が出来た。


 そのお陰で生体エネルギーの操作を拙い状態が可能になり、今の俺の身体を巡る生体エネルギーは一定のスピードで綺麗に流れている。


 そして生体エネルギーの操作が可能になった事で、俺は自身の生体エネルギーを外に漏らさない隠蔽技術も拙いが取得した。


 今後はこの3つの技術を磨く事を目標にする様に雷珠から言われて磨いている。


 そうして家の中で夏休みを過ごしていた俺たちだったが、今日はこれから母方の実家に帰省する為、車で揺られているところだ。


 半日掛けて田舎にある祖母の家に車はたどり着くと、召喚していた雷珠が何かを察したのか反応する。


 「ご主人、結界が張られてるぞ。ご主人の母方の実家に討滅士が居るのか?」


 「どうだろう?お母さん、お婆ちゃんって討滅士だったりするの?」


 「違うわよ。でも昔の上代家には討滅士が居たのは聞いた事があるわ。でも相当昔のはずよ。」


 お母さんの話を聞いて雷珠の方を見ると、難しい表情をしている。何故なのかを聞くとどうやら張られている結界は昔に張られたとしては綻びが見られないくらい綺麗なのだと言う。


 「じゃあ最近張られたって事?」


 「ご主人の母上の言う通り、この結界が張られたのは昔じゃないと思う。でも、この結界を張った奴は凄い技術の持ち主だぞ!」


 雷珠のその発言にクロ以外の車内にいる俺や家族はそんな凄い結界が張られている事に関心していると、車は母方の実家の敷地の前で停まった。


 車が停まると、車を降りて荷物をそれぞれ持つなか、先にお母さんが呼び鈴を鳴らしに向かうのが見えた。


 「雷珠、クロと雷珠は式神だけど怪異だろ?この張られている結界に入れるのか?」


 「多分だが大丈夫だろ。身体はご主人の生体エネルギーで構成されてるからな。クロ助も問題ないはずだ。」


 「そっか、それならよかった。」


 リュックを背負ってリードを付けたクロを抱き上げると、俺は肩に雷珠を乗せて祖母の家へと向かった。


 「ご主人、止まってくれ。見えるか、ご主人。これが結界だぞ。」


 「これがか?」


 目の前にあるガラスの様に透明で意識して見ないと気付かないほど透明度が高い。これで結界がある事を雷珠に言われなければ気付く事はなかっただろう。


 それに遠くからでも気付ける雷珠は凄い式神だ。雷珠を超えるには俺もこれくらいは出来る様にならないといけない。


 結界に向かって一歩踏み出すと、結界を足は素通りする。そのままクロを抱えながら結界に入ると、クロも雷珠も結界を素通りする事が出来た様だ。


 「なんともない?」


 「ああ、問題ないぞ!」


 「にゃーん!」


 クロも雷珠もこの結界に阻まれる事もなく結界内部でも悪影響はなかった様で安心するが、結界の前で足を止めていた俺は先に向かった家族の後を追って行く。


 「ハジメちゃんもクロちゃんもいらっしゃい。その子が雷珠ちゃんかい。」


 「うん、そうだよ。お婆ちゃん。」


 「ご主人の式神の雷珠だ。よろしく頼むぞ!」


 1年ぶりに会う祖母に俺は挨拶すると、肩の上の雷珠を紹介する。事前に雷珠の事はお母さんが知らせてくれていたので驚かせる事はなかった様だ。


 それから俺はお母さんの実家の家に足を踏み入れると、去年と同じ部屋に荷物を置きに向かった。


 「去年も言ったけど大人しくするんだよ、クロ。」


 「にゃん!」


 クロのリードを外すと、クロは早速探検だと部屋を出て何処かへと行ってしまった。


 「ハジメちゃん、来てくれるー!」


 「分かった!今行くよ!雷珠はどうする?」


 「オレも行くよ。」


 クロを見送った俺はお母さんに呼ばれて、肩に雷珠を乗せたままで向かう。


 呼ばれた部屋に入ると、そこには古く横に長い木箱が置かれていた。


 「それ、どうしたの?」


 「母さんがハジメちゃんに用意してくれたのよ。」


 俺は顔をお婆ちゃんに向けて聞く。


 「そうなの?」


 「ええ、そうよ。それは上代家にまた討滅士が生まれた時に渡す様に代々言われていた物なの。ハジメちゃんが久しぶりの討滅士だからね。その長持はハジメちゃんの物よ。」


 そんな代々言われて保管していた物がこの木箱なのかと、俺は改めて長持と呼ばれた木箱に視線を向けた。


 「ご主人、この長持には保存の術が掛けられているぞ。だから状態が良いんだろうよ。」


 保存の術は長持の四隅に開けられない様に貼られている札の効果なのだろうか?


 「雷珠、これって開け方があったりするのかな?」


 「少し待て確認する…………なるほどな。生体エネルギーを札に流せば良い様だぞ。やってみろ。」


 「うん。」


 俺と雷珠の動向を見られながら、俺は長持の四隅に貼られている札に触れると、その札に生体エネルギーを流し込む。


 すると、バチバチと音が鳴ったと思ったら札はボロボロになって崩れていくと、そのまま札は塵一つ残す事なく消滅した。


 それに驚いたが続けて残りの3つの札にも生体エネルギーを流し込んで行き、同じ様に札は消滅する。


 これで長持が開けられる様になると、長持の蓋を開いてその中を確認した。


 長持の中には大きな壺が3つ、刀が大小合わせて5本、着物が2着、肌触りの良さそうな生地が何枚も入っており、その上に金属製の筒が1つと紙が1枚置かれていた。


 「この中に入っている物全てがどれも呪具だな。それにあれは封魔管だな。何か怪異が封印されてるぞ。」


 「本当か!」


 この場に居る全員が長持内の封魔管と呼ばれた金属の筒に警戒を向ける。


 そんな中で雷珠はピョンッと肩から飛び降りると、封魔管の隣に置いてあった紙を開いて読み始める。


 それが気になり、俺も上から紙を覗いて見るが、その紙に書かれている文字は読めない。これは昔の文字だからだ。


 「雷珠、それで何が書いているのか読めるのか?」


 「ああ。封魔管に入っている怪異は問題ない。ご主人の式神にする為に用意された怪異らしい。紙にはそう書いてあったからな。それにご主人の一族に伝わる一子相伝の技術を教えられる怪異らしいぞ。」


 そんな怪異が封じられているのかと、雷珠の話を聞いた面々は驚いており、俺も視線を封魔管に向けた。

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