第10話

 昨日の誕生日で七歳になった。これからはこれまで見えなかった怪異の存在に慣れて生きて行かないといけない。


 これまでの通学路では存在すら気付かなかった小物の怪異がそこらじゅうに居るなかをそこに怪異は居ないかの様に歩き続ける。


 居るのに居ない。そう思っての通学ははっきり言って疲れる。だが、それで怪異に気付かれて襲われる方が危険だ。だから、俺は気にしない様にして進んで行く。


 「(はぁ、やっと着いた。)これを毎日か……。」


 心の中でため息を吐いて、ボソッと呟くと僕は通学の為に集まった班から抜けて校舎へと向かった。


 学校内は定期的に学校内で生まれた怪異を倒し、外から入らない様に離れた大規模な結界が張られている為、余程の事態がない限りでは安心できる場所だ。


 こう言った定期的に怪異が倒され結界が張られている場所で一般市民が利用する場所は学校、病院、市役所などがあり、大きな怪異事件が起こった時の避難所にも使われる。


 そんな外よりも怪異が少ない小学校内に入った俺は自身の教室へと向かった。


 今世の俺は小学校では本を読んで過ごしている様で親しい友達は居ない。まあ、前世の俺と融合したせいで今世の俺と同年代の子供たちに合わせて遊ぶ事は難しいだろう。


 前世と精神の融合をする前と同じく、俺はランドセルから取り出した教科書を机の引き出しに入れると、休み時間読む本を読んでホームルームまで過ごそうとする。


 だが、そんな俺の思惑は上手く行かずにクラスメイトの男子の集団に囲まれてしまった。


 「なぁ、上代!お前昨日が誕生日だったんだろ!ならさ、お前は討滅士になれるのか?」


 そう聞いて来たのはクラスメイトの時田博ときたひろしだった。その周りに取り巻きを囲って聞いて来る。


 この時田は俺の学年で何人か居る討滅士の才能のある男子生徒だ。だが、時田は才能がある事を笠に着ている嫌な奴だ。


 それも今思えば嫌がらせにデバイスから召喚した式神を使っていると思われる。


 普通はそんな使い方をすれば怒られるものだが、この小学校には討滅士の才能のある教師は居らず、討滅士の才能が時田よりも低いがある生徒が教師に教えてもしらばっくれている。


 はっきり言ってこんな奴に絡まれたくないが、こうも囲まれてしまい、更に同じクラスのクラスメイトなせいで関わらずにはいられない相手だ。


 嫌そうな顔になるのを我慢しながらどう返事をしたものかと考えていると、痺れを切らした時田が俺の机を思いっ切り叩いて来た。


 「それでどうなんだよ!!!俺が聞いてるんだ!早く答えろ!!!」


 子ども特有の耳に付く声で騒ぐ時田に我慢出来ずに顔を顰めてしまう。


 「なんだ!?その顔は!!俺を舐めてんなぁ!?!」


 胸ぐらを掴もうと時田はして来るが、俺は反射的に時田の手を払って胸ぐらを掴ませなかった。


 そのせいで時田の顔色は真っ赤になり、まるで猿の赤い尻の様な顔を時田はしていた。


 「はぁ、時田、お前になんで教えないといけないんだ?お前は俺に取って他人だろ?」


 「うるせぇ!!この俺が聞いてるんだから答えるのは義務なんだよ!!?」


 話にならない。これだから嫌なんだ。周りの囲んでいる取り巻きに警戒していると、時田が自身のデバイスを取り出して来た。


 まさか時田の奴はここで式神を召喚する気なのだろうか?こんなに堂々と召喚すれば、いつもの様にしらばっくれる事は出来ないと思うのだが。


 一体、時田は何をする気なのかと唖然としていると、デバイスを俺の机に向けて本当に式神を召喚し始めた。


 時田の奴はここまで頭の悪い奴だとは思わなかった。あと少しでホームルームが始まり担任の教師も来る。


 その上、クラスメイトもほとんど居る状況で式神召喚なんて行動すれば嫌でも叱られるだろう。


 何が召喚されるのかを警戒しながら時田のデバイスから溢れ出る生体エネルギーの集まりを観察していると、生体エネルギーが集まり召喚されたのは俺と同じ小鬼だった。


 けれど、時田の小鬼は俺の式神の雷珠とは違って男の小鬼の様で、その小鬼の容姿も醜く感じる。


 時田の小鬼が醜く見えるのは個人差か、それとも時田の命令を聞いて悪さばかりしているからか、それは分からないが、その小鬼から感じられる強さは俺の雷珠よりも感じ取れない。


 「おい!小鬼!!上代の奴を攻撃するんだあ!!!」


 「時田さん!それは不味いって!」


 「そ、そうだよぉ。」


 他人に取り入るのが上手い溝口と気弱な赤木が止めに入るが、それよりも前に時田の式神である小鬼が俺へと向かって襲い掛かって来た。


 だが、それを見て思ったのは襲いと言う事だった。これが雷珠ならば妖力で強化して襲い掛かっている筈だ。


 けど、時田の小鬼は妖力で強化されている訳ではない。そんな小鬼を無意識に生体エネルギーを手に集中させた叩いて吹き飛ばしてしまう。


 そんな無意識での行動でも時田の小鬼は吹き飛んで行き、教室の床へと叩き付けられて生体エネルギーへと変わって行った。


 「あ、あああああ!!!!!!俺のし、式神がぁああ!!!!」


 無意識の行動だったせいで自分自身でも訳が分からなかったが、生体エネルギーへと変わった小鬼を見て弱いと思った。


 そこから時田は自身の式神が倒された事に唖然としている間に、担任の教師が教室に入って来てホームルームが始まった。


 その際に未だに唖然としながらも自分の席に座る時田は、いつも威張って嫌われているせいで先ほどまでの事をチクられて怒られる事になるのだった。


 その際に俺に式神が殺されたんだと騒ぐが、それを確認出来る方法はないし、そもそも式神は魂を破壊される攻撃をされない限りは死ぬ事はない。


 その為、時田の小鬼も時間が経てば、時田の生体エネルギーを消費して再召喚する事が可能だろう。


 朝から時田の奴に絡まれて疲れたが、それから何事もなく学校生活は続いて行き、問題が起こる事なく放課後になった。


 放課後に時田は担任に呼び出しをくらい、俺はその隙に時田に邪魔されない内に小学校を出て家に帰宅する。


 そうして帰って来ると、手洗いうがいを済ませてから雷珠を召喚し、今日あった事を話しながら時田の小鬼の事を話すと、俺が思った疑問の答えを教えてくれた。


 どうやら時田の小鬼は時田の生体エネルギーと一緒にマイナスな感情も吸収して召喚されていたから、俺からしたら小鬼は醜く感じたのだそうだ。


 そして、何故俺が無意識に叩いただけで小鬼を倒す事が出来たのかと言うと、それは小鬼を構成する生体エネルギーの質が悪かったから弱かっただけだそうだ。


 それから俺は宿題を終わらせてから、クロと雷珠と一緒に特訓を開始するのだった。

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