第9話

 夕食になる前に父親の上代一郎かみしろいちろうが帰った来ると、お母さんに聞いたのだろう。俺が討滅士の才能があった事を。2階の俺の部屋にお父さんがおれの様子を見に来た。


 「おかえり。お父さん!」


 身体に精神が引き寄せられるからか、違和感なく父親の事をお父さんと呼べる。


 「ああ、それでどうだ?才能があったみたいだが?」


 「うん、問題ないよ。クロも雷珠も居るしね!」


 クロに特訓を付けている雷珠の方へと指を指す。今はクロの上に乗って雷珠が生体エネルギーを感じさせているところだ。


 「その子が桃子が言っていた雷珠ちゃんか。強いのかい?」


 「うん、強いと思うよ。雷珠!お父さんを紹介するから来て!」


 クロに特訓を付けている雷珠を呼ぶと、俺はお父さんに雷珠を紹介する。


 「オレは雷珠だ。ご主人の父上さん。」


 「ああ、ハジメをよろしく頼む。」


 雷珠の紹介が終わると、雷珠はクロの元へと戻って特訓を再開していた。その時、雷珠が戻って来るのをクロは嫌そうな顔をしていた。


 「討滅士……目指せそうかい。」


 「うん……頑張ってみるよ。」


 「そうか……頑張れよ。」


 「うん。」


 「あと10分くらいで夕食だから忘れない様にな。」


 夕食の時間を知らせてから、お父さんはおれの部屋を出て行った。


 「もうそろそろ夕食なんだ。雷珠、もうそろそろ夕食だから、特訓は止めてくれ。」


 「ん?おお!夕食か、分かったぞ!クロ助、行くぞ!」


 クロに跨った雷珠がそう言うと、クロは渋々と言った様子で雷珠を背中に乗せながら俺の元までやって来る。


 「雷珠、クロ助ってなんだ?」


 「クロノワールって名前なんだろ?長いからな。オレはクロ助って呼ぶ事にしたんだよ!」


 「そうなんだ。ちょっと早いけど行こうか。」


 「ああ!」


 「にゃ〜……。」


 クロと雷珠を連れて俺は1階のリビングのドアを開くと、唐揚げの良い匂いがして来た。


 「美味そうな匂いだな!」


 「お母さんの唐揚げは美味しいんだよ、雷珠。」


 「それは楽しみだ!」


 俺は早く唐揚げ食べたさにお母さんの手伝いをしていく。箸や取り皿を並べたり、ご飯をよそった茶碗を置いて行った。


 「ハジメちゃん、お姉ちゃんを呼んで来てくれる?」


 「うん!」


 早く唐揚げが食べたいと2階に上がって姉さんの部屋のドアを叩く。


 「姉さん!ご飯だよ!!」


 「今行くよ!」


 それから少しして姉さんがドアを開けて出て来ると、2人でリビングに向かった。


 「いただきます!!」


 全員でテーブル席に着くと、箸を持って唐揚げを挟んで口に入れる。口の中に熱い肉汁が飛び散るが、ハフハフしながら食べていく。


 「美味しい!」


 「まだまだあるから落ち着いて食べなさい。」


 「うん!」


 前世も今世も好物の唐揚げを前にしてはしゃいでしまう。


 俺は落ち着く為に、テーブルにちょこんと座って食べている雷珠に話し掛けた。


 「雷珠、美味しいだろ?」


 「ああ!美味いなこれ!酒が欲しくなるぞ!!」


 熱々の唐揚げを小さな身体で噛み千切って雷珠は食べている。そんな雷珠が美味しそうに食べる姿にお母さんが嬉しそうに見つめているのが視界に入るなか、俺は唐揚げに箸を伸ばした。


 大盛りに乗られた唐揚げの数も少なくなった頃に、誕生日ケーキのホールケーキをお母さんが持って来てくれた。


 「ハジメちゃん、誕生日の歌を歌うかな?」


 「ううん、それより早く食べたいな!」


 俺の要望を聞いて誕生日の歌は歌わない事になる。流石に前世の記憶があるせいで恥ずかしいからだ。


 切り分けられたケーキを食べていると、雷珠が無言でバクバク食べている姿が視界に入る。


 「雷珠、そんなに美味しい?」


 「美味いぞ!幾らでも食べれそうだ!」


 そんな雷珠の姿にお母さんと姉さんの女性2人は雷珠を見て「女の子ね」など言っている。


 そうして夕食を終えた俺は両親から誕生日プレゼントとして図鑑一式を貰った。動物、植物、昆虫とあるなか妖怪図鑑も図鑑一式の中にはあった。


 「ありがとう!」


 お礼を言うと、全部合わせると重い図鑑一式を持って自室へと戻って早速貰った図鑑を読んでいく。


 ベットに横になりながら図鑑一式から1冊抜き取って読み始める俺の横には、左隣はクロが右隣には雷珠がおり、一緒に図鑑を眺めて行った。


 それから1時間くらい経っただろうか、お風呂が沸いた事をお母さんが伝えて来た。


 「雷珠もお風呂に入る?」


 「ん?ああ、入りたいぞ!」


 雷珠もお風呂に入りたい様だ。それなら桶にお湯を入れて小さなお風呂にでもするか。


 「それなら雷珠も行こうか。クロは……逃げたな。」


 隣のクロに目を向けると、そこにはクロは居なかった。何処に行ったのかを部屋を見回してみると、ドアノブを器用に開けている姿が見える。そのままクロは部屋を出て行った。


 クロが出て行くのを見送った俺は雷珠を肩に乗せて着替えを持って自室を出る。


 「お風呂入って来るねー!」


 「あら、雷珠ちゃんも入るの?」


 「うん!」


 「着替えどうしようかしら?」


 お母さんに言われて雷珠の着替えがない事に気が付いた。雷珠の方を見ると、雷珠は答える。


 「今着ている服は生体エネルギーで出来ているからな。生体エネルギーで服だけを作り出せば良いだけだよ。」


 「だって、お母さん。」


 「そうなのね。」


 これで雷珠に必要なのは水気を取るタオルだけだと分かり、俺はお風呂場へと向かった。


 洗濯籠に脱いだ衣服を入れると、小鬼サイズだと大きな胸をプルプルと揺らしている雷珠の胸に目線が行くと、それに気が付いた雷珠がニヤリと笑う。


 「ほれほれ身体が小さいから分からないだろうが、オレの胸は大きいだろ?」


 自分の胸を揺らして雷珠が揶揄ってくる。それに視線を逸らしてお風呂場に入る俺に雷珠はニヤニヤしているのだった。


 その後、お風呂に入る前に頭と身体を洗うと、小さな桶に浴槽のお湯を入れて小さな湯船を作ると雷珠はその中に飛び込んだ。


 それから俺と雷珠は身体が温まるまで湯船に浸かってからお風呂を上がった。


 寝る前にトイレですると、リビングでテレビを見ている両親に寝る前の挨拶をして俺は部屋に戻って行った。


 「おやすみ、クロ、雷珠。」


 「にゃん。」


 「おやすみ、ご主人、クロ助。」


 デバイスに雷珠を戻すと、俺は敷いた布団の中にクロと一緒に入り、明日の学校の事を考えながら眠りに付くのだった。

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