第8話

 そうして自室で俺は生体エネルギーの感知をしながら操作を試みていると、自室のドアが叩かれる。


 「ハジメちゃん。藤堂さんが来てくれたわ。雷珠ちゃんを連れて行くわよ。」


 「分かった!雷珠、行くよ。」


 「おう!」


 雷珠はジャンプすると俺の肩の上に着地する。雷珠の大きさからすると凄い高さまで飛んだ事になるが、ほんの少しの間だけで慣れて来たのだろうか?


 「ん?どうした?」


 「いや、肩までジャンプしたからさ。凄いと思って。」


 「この身体での生体エネルギーの操作にも慣れたからな。妖力に変えれば、あそこまで出来るさ!」


 生体エネルギーを妖力に変換したのか。本に書かれていた内容を思い出す。確か、妖怪系怪異は妖力に生体エネルギーを変換して力を使う事が出来て、人間は霊力に変換する事が出来るんだったな。


 「これならあの野郎にだった負けねぇ!」


 「あの野郎じゃなくてクロノワールだよ。


 雷珠に訂正しながら俺は自室を出てると、待っているだろうリビングに向かった。


 「それでどうだったの、お母さん。」


 「いま藤堂さんにクロちゃんの事を見て貰ったんだけど。やっぱりクロちゃんは怪異になったんだって。」


 「ほらな!」


 雷珠の言った通り、クロは怪異になってしまった様だ。肩の雷珠は小ぶりな胸を張っていた。


 「うん。それで式神にする事は出来るんですか?藤堂さん。」


 「家族に懐いている様だし問題ないわ。式神契約をする時は設定を見せてね。」


 「うん、分かりました。」


 腰に巻いたベルトからデバイスを取り出して式神契約の設定を表示させると、藤堂討滅士にデバイスを見せる。


 「やっぱり設定を弄ってるね。」


 「そうなの!?ハジメちゃん!弄っちゃ駄目でしょ!!」


 藤堂討滅士には気付かれた様だ。雷珠が自分の意思で話しているのも見て聞いていた為、そのせいもあるのだろうが。


 「まあまあ、お母さん。設定を見た感じ問題はないですよ。」


 「そうなんですか?分かりました。ハジメちゃん、あとでお説教はあるからね!」


 「う、うん。」


 そして、俺は雷珠をテーブルの上に下ろすと、「うにゃうにゃ」と鳴きながらまたたびに戯れ付くクロの元へと向かった。


 「うにゃん?」


 見上げるクロを抱き上げると、俺のデバイスを見て考えている藤堂討滅士の元に向かう。


 「設定のこことここの項目は変えた方が良いわ。生き物から怪異になった式神との契約は少し特殊だからね。」


 「分かりました。」


 言われた項目を変更すると、いよいよクロノワールとの式神契約を行なっていく。


 「クロ、そこから動くなよ。」


 「うにゃ〜?」


 ゴロンゴロンとお腹を出しながらクネクネとしているクロに向かって、俺は式神契約の契約陣を映したデバイスの画面をクロノワールへと向ける。


 デバイスから契約陣が現れると、契約陣はクロノワールを覆っていく。


 「にゃ!?」


 「クロ、動かない。」


 いきなり自身の周りに現れた契約陣に驚いて飛び起きたクロに止まる様に言うと、クロは言う事を聞いてくれてその場から動きを止める。


 こう言うのを見ると、クロと式神契約する前から無意識での生体エネルギーのやり取りの影響なのかと思ってしまう。


 大人しくなったクロの身体に契約陣が縮まり入って行くと、クロとの間にしっかりと繋がった感覚を覚える。


 「にゃーん!」


 これでクロとの契約が終わると、契約陣が消えた事で自由になったクロが足に身体を擦り付けてくる。


 「式神契約は終わりましたね。あとはこの書類をお願いします。」


 「これですね。」


 クロを抱き上げて撫でながら書類を書いていくお母さんの姿を後ろから眺めていると、肩に重みを感じた。


 「契約できたな!」


 「うん、雷珠。」


 「しゃー!!」


 抱っこしているクロが肩の上の雷珠を威嚇する。式神契約をする事で何か変わるかと思ったが、縄張りに入った気に入らない存在として威嚇しているのだろう。


 ちなみに雷珠の身体を構成しているのが俺の生体エネルギーだったからこの程度で済んでいるが、これが全く知らない生体エネルギーで身体を構成していたら、徹底的にクロノワールは排除に動いていた。


 「それでは私はこれで。ハジメくん。これからしっかり練習して良い討滅士になってね。」


 「はい!」


 お母さんと一緒に俺は藤堂討滅士を玄関まで見送った。


 「お母さんは夕食を作るわ。お姉ちゃんにもう帰った事を伝えてくれる?」


 「うん、分かった。」


 2階に向かい姉さんの部屋のドアを叩いて藤堂討滅士が帰った事を伝えると、俺はクロと雷珠と三人で俺の自室に戻る。


 「クロ、仲良くしろとは言わないけど、雷珠の事を攻撃しない様にな。」


 威嚇は止めたが雷珠の事を敵意剥き出しで睨み付けるクロに言う。そんなクロは雷珠の事を見てから惚けた声で鳴く。


 「うにゃーん?」


 「ふん!ここはどっちが強いかを確かめないとな?舐めやがって!!」


 それを受けて喧嘩を売られたと雷珠が全身に妖力と思われる赤いオーラが溢れ出る。


 「にゃっ!?」


 妖力の赤いオーラが溢れ出た雷珠を見てクロは驚いている。尻尾が狸の尻尾の様にボワッと大きくなってクロがしがみ付いた。


 「雷珠、クロが怖がってるから、それを止めてくれ。俺もゾワッとするから。」


 「ん?そうか、まあ分かったよ。おい、これでどっちが格上なのか分かったか?」


 ギロリとクロを雷珠が睨むと、クロのしがみ付く力が強くなり、爪を切っているが皮膚に爪が刺さって痛い。


 それからのどちらが上なのかの格付けが終わると、クロは威嚇しなくはなったが、雷珠をかなり警戒している。


 「それで雷珠。クロにどうやって生体エネルギーの操作とか強くなる方法を教えれば良いんだ?」


 「あ?あーそうだな。とりあえずオレが直接教えてやるよ。ご主人はその間に生体エネルギーの操作の練習をしておきな!」


 「お願い、雷珠。ほら、クロ。今よりも強くなってクロが俺を守れるくらい強くなってくれよ。」


 うりうりと頭を撫で回し、クロを膝の上から下ろした。が、クロは膝の上に戻ろうとする。


 「ほら、お前はこっちだ!お前に叩かれた事を忘れた訳じゃないからな!」


 「うにゃ……。」


 睨まれたクロは動きを止めると、雷珠に連れられて離れて行く。


 俺はそれを見送ると自身の身体の内に意識を送って生体エネルギーの感知から始めて行った。

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