第7話

 肩に雷珠を乗せて俺はリビングに向かう。自室のドアを開いて廊下を確認するがクロは居ない。それならクロは1階に居るのだろう。


 そのまま階段を降りていると、リビングのドアの隙間からクロが現れる。クロは階段の上に居る俺を、特に俺の肩の上に乗っている雷珠を敵意の籠った眼差しで睨み付ける。


 「にゃーー!!」


 「さっきはよくもやってくれたな!ボコボコにしてやるよ!」


 肩から飛び降りる雷珠。そんな雷珠を狙って階段をクロは駆け上がる。


 「うぉおおおおお!!!!!!」


 階段を登ってくるクロに向かって雷珠が階段を飛び降りてクロに殴り掛かる。


 「へぶッ!!」


 だが、クロに攻撃が命中するどころかクロの猫パンチを受けて空中から階段へと叩き落とされる。


 「クロ!ストップ!!」


 「にゃ!!」


 クロに止まる様に呼び掛けると、クロは俺の方を見て動きを止めた。その隙に俺は雷珠を回収して懐で庇う。


 「はぁ。で、雷珠。大丈夫なのか?」


 「も、問題ない。ようやく身体を動かせる様になったけど、元の身体と比べて動きずらいから負けただけだからな!本当だぞ!」


 「あーうん、分かったよ。」


 雷珠が本当に強いのかどうか疑わしいし、このままだと敵対的な怪異に襲われた時、かなり危険な事になりそうだ。


 未だに俺の懐で庇われている雷珠を睨み付けてクロは「にゃーにゃー、しゃーしゃー」言っている。


 そんなクロを雷珠を庇うのに使っている腕で捕獲すると、片手にクロを抱いて、雷珠を片手に持ってリビングに向かった。


 「ハジメちゃん、どうしたの?クロちゃん、そんなに興奮しちゃって。」


 「小鬼の雷珠を見つけると、クロはこんな感じになるんだよ。」


 「雷珠?それが小鬼の子の名前なの?」


 「うん、そうだよ。」


 今の雷珠はデバイスの式神契約の設定を弄ったお陰で討滅士の才能が低い人でも姿や声を見て聞く事が出来る状態だ。


 「よろしくな!」


 「雷珠ちゃんね。これからハジメちゃんをよろしくね。」


 「ああ!任せるた良い!」


 胸を張っている雷珠だが、さっきクロに負けたのに調子がいい事だ。だけど、そんな雷珠は俺の知らない事をいっぱい知っているのだから頼りになりはするのだろう。


 「それでお母さんに相談が2つあるんだ。聞いてくれる?」


 「良いわよ。それで何かな?ハジメちゃん。」


 まずは雷珠が出した条件の1つである雷珠の食事とお酒の件から話して行った。


 「雷珠ちゃんのご飯ね。もちろん良いわよ。でもお酒か〜、うちは誰も飲まないからねぇ。どれくらい欲しいの?雷珠ちゃん。」


 「一日コップに一杯で良いぞ!」


 「それなら良いかな。でも、雷珠ちゃん用の食器も用意しないとね。流石に雷珠ちゃんに丁度良い食器はないものね。あっ、でもあれが使えるかしら!」


 そう言ってお母さんはリビングから出て行った。それから2階に上がったお母さんは、姉さんが昔に遊びに使っていた人形用のプラスチックの食器類を持って来たのだ。


 「使えるかどうか、ちょっと見てくれるかな?雷珠ちゃん。」


 「おお、構わないぞ!」


 雷珠の前には雷珠の身体のサイズに合うオモチャの食器が並べられる。それを雷珠自身が使えるのかを確かめると、問題なく使えそうだった。


 「問題なさそうね。雷珠ちゃんにはこれを使って貰いましょう。それでハジメちゃん、他には何があるの?」


 次も問題だが、これはもっと難しい問題だ。お母さんにクロが怪異化した事を伝える。それも雷珠のクロが怪異になった予想も含めてだ。


 「なるほどね。私もクロちゃんが何もない場所を攻撃したり、追い掛けます姿を見てたけど、それは家の中に怪異が居たのかもね。」


 「それでさ、クロが怪異として狙われない様に式神にした方が良いみたいなんだ。クロを式神にしても良いかな?」


 未だに雷珠を睨み付けながら、俺の膝の上で撫でられてゴロゴロと器用な事をしているクロを見る。


 「そうね。そうじゃないとクロちゃんが危ないならそうすべきね。少し待っててね。藤堂さんに話を聞いてみるから。」


 死霊の怪異から襲われた時に助けてくれた藤堂討滅士にお母さんが連絡を取っている間に、クロを落ち着かせ様とするが、クロの興奮の原因である雷珠が居るから落ち着かない様だ。


 「クロ、これからは雷珠も家族になるみたいなもんなんだからな。仲良くするんだぞ。」


 「にゃん、ふしゃー!!」


 「オレを敵だと認識してやがるな。今のオレだと怪異成り立てにすら勝てないからな。ご主人。ご主人に教えながら、オレも鍛え直すぞ!」


 「雷珠には強くなってくれないと、今後外に出て怪異に襲われたら大変だからね。本当に早く強くなってくれよ。」


 「おう!任せとけ!!」


 そうしてクロと雷珠と過ごしていると、お母さんが戻って来た。


 「どうだった?」


 「式神にするのは問題ないそうよ。でも、危険かどうかの確認はしておいた方が良いそうだから、これから来てくれるって。」


 「そうなんだ。それじゃあ藤堂さんが来るまでの間、部屋に戻ってるね。」


 「分かったわ。来たら呼びに行くわね、ハジメちゃん。」


 「うん、お願い。クロ、大人しくな。」


 クロの頭を撫でてから、クロをお母さんに渡して抱っこするのを確認すると、俺は雷珠を連れて2階の自室に向かった。


 自室に戻ると、俺は生体エネルギー操作を雷珠から習っていく。


 「感知はともかく生体エネルギーの操作はそんな一朝一夕では行かないか。」


 「そうだぞ。生体エネルギーの感知も自分の生体エネルギーが分かるだけだろ?感知も操作も制御もどれもが一生修行を行なわないといけない技術だ。オレもこの身体になったから上手く操作や制御が出来ないからな。まずはそこから鍛え直さないといけないぜ。」


 とにかく生体エネルギーの操作のコツだけは聞いた俺は、瞑想しながら自身の身体の内側へと意識を送り、生体エネルギーの感知から始めていく。


 ぼんやりと身体に流れる生体エネルギーをより深く感知して少しずつはっきりさせると、そこから雷珠から聞いた生体エネルギー操作のコツを頼りに生体エネルギーの操作を行なって行った。


 それでもやっぱり生体エネルギーは動かせない。生体エネルギー操作が可能にならないと次へと進めない。


 だから当分の間は生体エネルギーの感知と生体エネルギーの操作の修行を行なっていく事になるだろう。

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