第4話

 「これで終わりですが、何か質問はありますか?」


 市役所職員が質問はないかと聞くと、お母さんは今日あった市役所まで怪異に追い掛けられた事を伝える。


 「そうでしたか。それではこれを持たせてください。それとこれを、市役所近くにある呪具などが売られている店です。隠蔽系の呪具もあるので購入をオススメします。」


 「分かりました。これから寄ります。ハジメちゃん、これを持っていてね。」


 何かを感じる数珠を受け取ると、手首に通して持っておく事にした。


 それからお母さんが市役所職員と話をしている間、俺は先ほど式神にした小鬼を人差し指で突いてみた。すると、人肌と同じくらいの温かい感触が小鬼からする。


 触っているのに表情一つ変えないで動かないな。術士に危険が及ばない限り命令しないと基本は動かないって契約設定には書かれていたけど、これはなぁ。


 「ハジメちゃん、行くわよ。」


 「あ、うん!おいで。」


 そうこうしていると、お母さんは聞きたい事を聞き終えた様だ。俺のデバイスはお母さんのカバンに仕舞われており、手ぶらな俺は小鬼を呼ぶと手のひらに乗せて部屋から出る。


 それから市役所で行なう手続きが済むまでの間、俺はデバイスを操作して討滅師専用の起動可能なアプリを起動すると、そのアプリのヘルプを眺めて時間を潰す。


 「終わったわよ、ハジメちゃん。予約したケーキを買いに行くわよ。」


 「うん!ショートケーキ!!」


 子供の身体に引っ張られてケーキが楽しみで顔がニヤけてテンションが上がってしまう。


 片手にデバイス、片手に小鬼を持って俺はお母さんの後を付いて車に向かい、市役所から出て車に乗ると、車は動き出発した。


 「ハジメちゃん、ケーキ屋に行く前にここでお買い物よ。」


 車が市役所を出てから5分ほどしてたどり着いたのは呪具屋・青い鳥と言う店だった。


 「ここ?」


 「そうよ。ここでお買い物。色々ハジメちゃんに必要な物があるからね。」


 「ん、分かった。」


 デバイスを操作して膝の上に乗せていた小鬼をデバイスの中へと戻す操作を行なう。


 操作したデバイスの画面を小鬼に向けると、デバイスが光を放ち、小鬼の身体は緑色の靄へと変換されてデバイスの中へと消えていく。


 デバイスの式神一覧を確認すると、そこにはキチンと小鬼が仕舞われている事が表示されていた。


 「終わったかしら?」


 「うん、終わったよ。行こ!」


 デバイスを片手に持って俺はお母さんと一緒に呪具屋・青い鳥へと入店する。


 この呪具屋・青い鳥では呪具だけじゃなく、呪具を作る為の素材や加工の道具が売られている。


 そんな呪具屋・青い鳥の店員にお母さんは話し掛けて、討滅師の子供用に購入する物を選んで貰っていた。


 その間、俺は呪具屋・青い鳥の店内を見て回っていた。


 うわ、デカい水晶だな。あっちの木材は何に使うんだろう?炭や和紙、習字道具も売られてるな。ん?これは本か。小鬼に教えて貰えるみたいだけど、こう言う本も売られてるんだな。


 店内を見て回っていると、購入する物を選び終わった様でお母さんがお金を払っている姿が見えた。


 もう買い物が終わったのかと思い向かうと、ビニール袋に商品を詰めているところだった。


 「何買ったの?」


 「ハジメちゃんが使う物よ。説明はお母さんが聞いたから、家に帰ったら教えてあげるね。」


 「うん。」


 呪具屋・青い鳥を出て出発する車はその後ケーキ屋に寄ってから帰宅する。家に帰ると昼食を食べてからお母さんから呪具屋・青い鳥で購入した物の説明を受けた。


 購入した物は討滅師に必要な技術を身に付けるのに使用する道具や呪符を作る道具などの説明された。


 「あの小鬼ちゃんに教えて貰って頑張ってね。ハジメちゃん」


 「ん、そうする。」


 「今日の夜は唐揚げだから頑張ってね!」


 夕食は好物の唐揚げだと聞いて口角が上がるのを感じる中、俺は2階の自室へと向かった。


 「にゃ〜ん!」


 「ん、今から忙しいからクロはあっちに行ってね。」


 自室に入ろうとしたタイミングでクロがぬるりと足の隙間を通って部屋に入ろうとしたのを抱き上げて妨害する。


 クロを廊下に下ろすと、また部屋に入ろうとして、また抱き上げ、廊下に下ろすと、また部屋に入ろうとする。


 「はぁ、仕方ない。入って良いけど邪魔しないでね。」


 「にゃ!」


 その繰り返しに疲れた俺は諦めてクロを部屋に入れると、俺も部屋に入って学習机の上に呪具屋・青い鳥で購入した物を置いた。


 そして、デバイスから式神契約を行なった小鬼を召喚する為にデバイスを操作すると、デバイスを机に向けて小鬼を召喚する。


 「うっ、2回目だけど慣れない。」


 生体エネルギーをデバイスに吸われると、吸われた生体エネルギーで身体を構築した小鬼が召喚された。


 視覚で映る緑色の靄である生体エネルギーが集まって小鬼になった時、学習机に乗って何をしているのかを見ていたクロが小鬼に飛び掛かった。


 「にゃあ!!!」


 いきなり襲い掛かってきたクロに驚いている間に、小鬼は猫パンチを食らって弾き飛ばされた。


 学習机の上から落下するタイミングで手を伸ばしてキャッチすると、これ以上クロに攻撃されない様に懐に入れて庇う。


 「どうしたんだ?クロ。」


 「ふしゃー!!」


 威嚇音を出してクロは小鬼の事を怖い目付きで睨み付ける。


 「本当に一体どうしたんだ。」


 未だに懐の小鬼を睨み付けるクロを落ち着かせようと撫でているが、クロは落ち着くそぶりを見せない。


 これは小鬼が居るからだと判断した俺はデバイスを操作して、懐の小鬼をデバイスの中に避難された。


 そうするとクロは落ち着いて行き、クロは俺の身体に自身の身体を擦り付けながらゴロゴロと喉を鳴らす。


 「これじゃ何も出来ないなぁ。はぁ、小鬼に教えて貰える状況じゃないし、お母さんが買った本に書いてある練習方法で練習してみるか。」


 今日から貴方も討滅師!!と言う本を読み始めると、最初の項目は生体エネルギーを感じようと言うものだった。


 この生体エネルギーは怪異の身体を構成するエネルギーなのだと書かれており、小鬼を召喚する時に身体から抜き取られる物が生体エネルギーなのだろう。


 本には瞑想をしながら身体の奥に意識を向けると、自身の身体にある生体エネルギーを感じ取れると書かれている。


 あの時の身体から抜かれる感覚を思い出しながら、俺は意識を身体の奥へと向けた。

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