第3話

 検査が終わったのか、腕の締め付けが緩くなる。もう、腕を抜いて良いのかと顔を白衣の女性に向ける。


 「もう検査は終わったので穴から抜いて構わないわ。」


 どうやら抜いて良い様なので腕を穴から抜くと、先ほど締め付けられた部分を見るが、そこには締め付けられた痕は付いていなかった。


 「これは、凄いですね。」


 「ハジメちゃんは……うちの子はどうなんですか?」


 お母さんが心配そうに白衣の女性に聞く姿に俺も不安になりそうになる。


 「どの項目も高水準でしたよ。討滅師として将来期待出来るほどの才能です。」


 「そ、そうですか。」


 お母さんとしては討滅師としての才能が低い事を願っていたのだろう。才能が低ければ戦闘に赴く討滅師にならないで討滅士や一般人が使う道具の作成などの裏方の仕事を任されるとパンフレットには書かれていた。


 「手続きは別室で行ないますので、私に付いて来てください。」


 「ハジメちゃん、行くよ。」


 「うん。」


 お母さんに手を引かれながら、俺は検査を行なった部屋を出て別室に向かった。


 「お子さんは討滅師としての才能があるので、その登録も行ないます。まずはこちらからお願いします。」


 「分かりました。」


 お母さんが何を書くのかを覗き見ると、それは俺の名前や生年月日、住所などを書いている様だ。


 「出来ました。」


 「……確認しました。入力しますので、少しお待ちください。」


 待たないといけないのかと思いながら、何をするのかを確認すると、前世のスマホの様な物に線が繋がっているパソコンを市役所の職員は弄っていた。


 「これで設定は終わりました。確認してください。」


 「はい…………出来ました。」


 「では、デバイスの説明をしますね。それとこれは説明書です。」


 市役所職員は説明書を俺に渡すと、それからデバイスの説明を話し始めた。


 このデバイスと呼ばれている物は前世のマイナンバーとしての機能や怪異対策としての機能が組み込まれているらしい。


 怪異対策としての機能は結界を張ると同時に近くの討滅師のデバイスに怪異討滅依頼が行なわれるそうだ。


 これは7歳になった日本の子供に配られる代物で、肌身離さずに管理する様に言われた。


 そして、ここからは討滅師の才能が一定以上ある子供と親に行なう説明が行なわれる。


 このデバイスは本来なら討滅師専用に開発された物の様だ。


 デバイスには怪異の索敵、怪異の脅威度検索、怪異の調伏・式神化、生体エネルギー貯蓄などの機能があるそうだ。


 「式神化の機能でこれから怪異をお子さんの式神にして貰います。」


 「そ、それって!大丈夫なんですか!!」


 「もちろん大丈夫です。危険性はありません。こちらで既に調伏し縛っていますので。それでは今から見せる三匹から選んでください。」


 金属製の箱を取り出した市役所職員は、その箱を開くと何本も金属の筒が入っていた。その中から3つの筒を取り出すと、蓋は閉められる。


 取り出された3本の内の1本の筒の蓋を開くと、その中から緑色の靄が噴出すると一ヶ所に集まって形造る。そして、現れたのは細長い狐の様な怪異だった。


 それから同じ様に筒を開いて2回開いて、2匹の怪異がテーブルの上に乗る。そして、テーブルの上には狐、1本角の小鬼、烏の3匹が居る。この中から選ぶ事になるのだろう。


 「こ、この子たちが怪異なんですか?」


 「ええ、そうです。今はぬいぐるみの様な姿ですが、護衛としても使えますし、討滅師に必要な技術も教えられます。」


 こんなデフォルメされた15センチくらいのぬいぐるみみたいな怪異はそんな事が出来る様だ。


 それから職員の話を聞くと、どれを選んでも護衛としての強さも教えられる技術も変わらないそうで、好きに選んで良いそうだ。


 その中で直感的に俺が選んだのは小鬼の怪異だった。この小鬼の怪異を見た時に何か感じる物があった気がするから選ぶ事にした。


 「コイツですね。それ以外を仕舞ってから式神契約を行ないましょうか。」


 蓋が開いた筒を選ばなかった怪異を1匹ずつ筒に仕舞うと、金属の箱の中に筒を仕舞っていた。


 「まずは怪異の調伏・式神化のアプリをタップしてください。」


 言われた通りにデバイスを操作すると、怪異の調伏・式神化のアプリの画面がデバイスに開かれる。


 「次は式神契約。ここをタップしてください。」


 指を指された場所をタップして式神契約の画面が開かれる。そこから言われた通りに操作して行き、怪異との縛りや怪異の今後の待遇などの説明を聞きながら式神契約の設定を操作する。


 「これが怪異との式神契約の基本です。これで人は襲わず、術士の言う事を聞く様になります。この設定は変えられますが、するのはオススメしません。分かりましたか?」


 「ハジメちゃん、変えちゃ駄目よ。」


 「うん、わかった。」


 設定を操作していた時に内容を読んだけど、結構怪異を束縛する内容だったな。この小鬼にもかなり意識を縛られているのかも知れない。


 まあ、この設定を変えれば変わるのだろうけど、危険な行為なのだろう。縛られている意識が覚醒して俺や家族に被害が出るかも知れないし。


 「では、契約を始めましょうか。この場所をタップしてから、デバイスを小鬼に向けてください。そうすると、生体エネルギーが吸われて契約陣が現れます。力が抜ける感覚がすると思いますが、安全ですので大丈夫です。その契約陣が小鬼を包み込みます。そうして契約陣が小鬼の体内に消えれば契約完了です。では、やって見てください。」


 「うん。」


 先ほど言われた通りにデバイスを操作して式神契約の契約陣が画面に映し出された。


 そしてデバイスの画面を小鬼に向けると、手のひらからデバイスに向けて身体から何かが抜けていく感触がした後すぐに、デバイスの画面から契約陣が現れた小鬼を包む。


 言葉を発さず身動き一つしない小鬼を包んだ契約陣が縮小して行き、段々と小鬼の体内へと契約陣は消えていく。


 契約陣が小鬼の身体に完全に消えたと同時に俺と小鬼との間に何かが繋がったのを感じ取った。


 「これで式神契約は終了です。小鬼から討滅師に必要な技術を教えて貰ってください。そしてこれは忠告です。貴方は討滅師としての才能があるだけで討滅師ではありません。その事は忘れない様に。」


 「うん、分かった。」


 自身に討滅師としての才能があって式神と契約したりすれば、自分は討滅師なんだと勘違いする子供も現れるだろうな。

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