第4話:ある人物について。

その人物ヒト___いや、人では無いのかもしれない___に会ったのは私が初めて出社した日だった。

今から、その人物についての紹介をしようと思う。

彼は半透明だ。

彼は私に喋りかけてくる。

彼は他の人にも視える。

彼は皆に無視される。

彼も皆を無視する。

彼は私だけに話しかける。

彼は私に無視される。

彼はその度嬉しそうな顔をする。

彼は皆に踏まれる。

彼は皆の靴を齧る。

彼は靴を噛むと透明度が下がる。

彼は毎日少しずつ透明ではなくなっている。

彼はもうすぐ人間になる。

彼は今日人間になるかもしれない。

彼は今何をしているのだろう。

彼は___彼が来た。

彼がもうすぐ人となる。

彼がまだ半透明だ。

彼が私を見ている。

彼が赤を浴びている。

彼が肉塊や臓器を纏っている。

彼が鉈を握っている。

彼が彼の目に針を刺している。

彼が履いたスニーカーは真っ赤だ。

彼が近づいてくる。

彼が手をゆっくりと振り上げる。

彼が持った鉈が頭上に振り翳される。

彼が鉈を私に彼の鉈が金属の冷たさが赤い暖かさに皮膚が破れて私は何も割れた骨が彼の顔に浮かぶ笑みが私の眼球が脳髄が五臓六腑が脊椎が神経が血管が頭が顔が首が心臓が体が手が足が指が爪が


彼は人間になった。




end

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