第6話 ユウコは綺麗な声
ユウコちゃんは、さっきまで元気良くタンバリンを振っていたけれど、不安そうな顔をした。
隣子が途中で帰っちゃうとは思ってなかったな。
ユウコちゃんと二人の空間。
他に誰もいないんだったら……。
「普通に喋っても平気そうだね」
私がそう言うと、ユウコちゃんは驚いていた。
「せっかく来たんだからさ、ユウコちゃんの好きな曲歌いなよ」
さらに驚くユウコちゃん。
私は、カラオケのタッチパネルをユウコちゃんの方へと向けた。
ユウコちゃんは、初めてのカラオケなんだろうね。
キョロキョロして、おっかなびっくり。
ユウコちゃんは、午後の授業でずっと持っていた『カラオケ歌本』を私に見せて、指を差した。
「これが歌いたいのかな? じゃあ、代わりに入れてあげるね」
ユウコちゃんは、嬉しそうに体全体を揺すっている。
良かった良かった。
題名だけじゃ、なんの歌か分からないけれど。
曲を入れると、懐かしいようなメロディが流れてきた。
昔のアイドルなのかな?
私にはわからないけれど。
イントロが終わって、歌い出すユウコちゃん。
初めてユウコちゃんの声を聞いた気がする。
綺麗な声。
恥ずかしがり屋かと思っていたけれど、カラオケだと歌えちゃうんだね。
なんだか、ノリノリ。
ユウコちゃんを連れて来てよかったかもだね。
とっても、楽しそう。
◇
――プルルル。
カラオケに備え付けられている電話が鳴った。
「お時間、五分前でーす」
「はーい」
ユウコちゃんが初めて歌ってから、一曲ずつ交代で歌っていったけど、終始楽しそうで良かった。
電話の声が聞こえていたのか、ユウコちゃんはもう終わってしまうのかと悲しそうな顔をしている。
店員さんからしたら、私は一人カラオケしているように見えているのに、さすがに延長してまで歌うのは恥ずかしいな……。
「ユウコちゃん、別のところに遊びに行く?」
私の問いかけに、ユウコちゃんはうんうんと頷いた。
そのあとすぐに鞄を取り出して、持ってきた『カラオケ歌本』と、タンバリン二つを鞄にしまった。
ユウコちゃんって、ちゃんとしてるんだよね。
そして、準備できたよっていう顔で、頷いて立った。
ちょっと早いけど、ユウコちゃんが乗り気だから行こう。
何も言わなくても、私についてくるユウコちゃん。
カラオケから出ると、さすがに一人言はきついかもな。
ユウコちゃんが着いてきているのかを確認するために、いちいち振り向くのも変だし。
そう思って、私はユウコちゃんに向かって手を差し出した。
「せっかくだからさ、手を繋いでいこう?」
なんだか慌てるユウコちゃん。
スカートで手を拭いてる。
別に幽霊の手汗なんて気にしないのに。
私の出した手に、ユウコちゃんの手が重なる。
見える人には、ちゃんと触れるみたい。
私が手を握ると、ユウコちゃんはびっくりしていた。
「大丈夫、私は触れるよ」
そう言うと、ユウコちゃんは顔を赤らめていた。
嬉しかったのかな。
「じゃあ、行こうか」
うんと頷くユウコちゃん。
部屋を出たら、私はユウコちゃんとは喋らない。
けど、触れているからかユウコちゃんの思考はなんとなくわかった。
嬉しい気持ち、恥ずかしい気持ち。
そういうものが私の中にも伝わってくる。
私が男の子だったら、惚れちゃうくらい可愛いな。
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