第5話 ユウコとカラオケ

「授業終わったー!」


 隣の席の隣子りんこは、思いっきり伸びをした。

 隣子は、午後の授業ずっと寝てたからスッキリしたのかもしれないな。


「さてと、カラオケ、行きますか!」


 隣子の掛け声で、私とユウコちゃんはうんと頷き、席を立った。


 ◇


 そもそも、ユウコちゃんが学校から出れるのかなって不安はあったけれども。

 地縛霊的なものだったら、その場所を離れられないって聞くし。


 私の心配は無駄に終わってしまった。

 普通に学校を出て私の後ろをついて来れたからね。


 平日なので、すんなりとカラオケルームに入れた。

 ユウコちゃんは、カラオケは初めてなのか、キョロキョロとあたりを見回していた。


 なんだか、田舎から上京したての子みたいだな。

 可愛い。


 最後にカラオケルームに入ってきた隣子は、部屋の隅に鞄を放り投げてた。


「よっしゃー! 今日は歌うぞー!」


 隣子は、早速一曲目からアップテンポな歌を入れていた。

 彼氏とのことで落ち込むと、いつもこうだからね。

 もう見慣れちゃった。


 隣子が曲を歌い出すまでおずおずとしていたユウコちゃんは、部屋の端の席へと座った。

 ユウコちゃんは、端っこが好きなんだろうな。


 ユウコちゃんは席に座ると、鞄の中から『カラオケ歌本』を取り出した。


 さっき見た時と違って、なんだかカラフルな付箋がいっぱいついている。

 ユウコちゃんは、かなりカラオケを楽しみにしていたんだ。

 あんなに真面目なのに、午後の授業はずっとカラオケの本見てたからなぁ。


 そう思ってユウコちゃんを眺めていると、隣子は一曲目を歌い終えた。


見得子みえこ、次入れていいよー」


 いつも、私と隣子は順番に歌うことにしている。

 今日は、ユウコちゃんもいるから歌わせてあげたいけど、それは難しいかな。


 私が曲を入れると、すぐに音楽が流れ始めた。

 なんだか私と隣子だけ楽しんじゃっててゴメンって思って、ユウコちゃんをちらっと見る。


 そうすると、ユウコちゃんは、鞄の中からタンバリンを取り出した。


 何で持っているのかは、この際不思議に思わないけれども。

 今日は盛り上げ役に徹するっていうことかな?


 ユウコちゃんは、タンバリンをシャカシャカと振り出した。


 楽しそうだから、まあいっか。


 私の歌に合わせて、シャカシャカとタンバリンが鳴る。

 私が歌う時、隣子は携帯をいじっているし、盛り上げ役がいるって楽しいかもしれない。

 私は、ユウコちゃんの方を向いて歌う。


 ユウコちゃんは、ノリノリでタンバリンを鳴らして楽しそう。


(ありがとう!)


 私の口パクに、楽しそうに笑うユウコちゃん。

 その時、隣子の携帯電話が鳴った。


「あ、やばい。彼氏が呼んでる。今日は無理って言ってたのに」


 隣子は鞄を持って急いで立ち上がった。


「ゴメン。まだ始まったばかりだけど、抜けちゃっていい? 今度埋め合わせさせて!」


 申し訳なさそうにする隣子。

 隣子のために来たんだけど、まあ良いか。


「りょーかい。いいよ、行ってきな」

「ほんとごめん」


 隣子は、ささっと行ってしまった。



 ちょうど曲も終わって、静かになるカラオケルーム。

 はたから見れば、私一人のカラオケだけれども、ここにはユウコちゃんもいる。


 ユウコちゃんと、二人のカラオケだ。

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