第2話 ユウコは盛るのが好き

 幽霊のユウコちゃんは、いつも真面目に授業を聞いている。

 世界史の授業が幽霊に何か役に立つのかな?

 今の時代は、幽霊もグローバルじゃないとやっていけないのかな?


 けど、幽霊になってまで、勉強すること無いのになーって思うんだけどね。

 いっつも真面目。



 ユウコちゃんの目元は、長い前髪で隠れている。

 ちゃんと見えているのかな?


 先生が黒板に字を書いていくと、ユウコちゃんも一緒になってノートに写していく。

 うんうんって頷きながら。


 先生がチョークの色を変えると、ユウコちゃんもペンを持ち替えている。

 ユウコちゃんって、真面目なんだよね。

 私はというと。

 そんなユウコちゃんを眺めているだけ。


 黒板に書いてあることを全部ノートに移すのって、めんどくさくて。

 先生が書いていることって、教科書に書いてあるじゃんって思っちゃう。


 先生が、教科書に載っていないことを言ってたら、それは教科書にメモしてる。

 これでも真面目に話は聞いてる方なんだよね。

 隣の席の隣子りんこは寝ちゃってるし。


 一番後ろの席だから、教室中が見える。

 世界史の授業は、特に寝ている率が高いんだよね。

 それにくらべて、ユウコちゃんは真面目だなー。


 ユウコちゃんの方を向くと、ノート全面がカラフルに書かれているのが見えた。

 見た目に似合わず、可愛い文字書いてるし。

 丸い、ギャル文字だ。


 ユウコちゃんって、ギャル好きなのかな。

 色もセンス良いし。

 今度、メイクでも教えてあげようかな。


 また、違う色のペンに持ち替えて。



 ……あ、ユウコちゃんペン落とした。

 きょろきょろして、慌ててる。


 別に誰にも見えないから、慌てなくても良いのに。

 体をかがめて、机の下に入って。

 机の下から机の前方へと手を伸ばしてる。

 ユウコちゃん、意外と背が低いんだよね。

 全然届いてないし……。


 誰にも見えてないから立っちゃえばいいのに。

 あ、手で拾うのは諦めた。

 元の姿勢に戻って、椅子に深く座って。

 今度は足を伸ばし始めた。


 机の前方へと足を伸ばして。

 ユウコちゃんって、スカートの丈も短くしてないんだよね。

 幽霊のスカートの中身なんて、全くもって見える心配はないんだけれども、スカートを抑えながら一生懸命足を伸ばしてる。


 けど、やっぱり身長低いから届いてないよ。

 ああ、それ以上足を伸ばしたら椅子から落ちちゃうよ。

 あれ?

 ユウコちゃんが慌てて元の姿勢に戻っていく。

 足を抑えて。

 あぁ、足がつっちゃったんだ。


 無理に足を伸ばすからだよ。

 まったく。


 ユウコちゃん、しょぼーんって首を傾けて。

 やる気を無くしちゃった。


 ユウコちゃんは、見た目に反してるんだよなー。

 ノートをカラフルに盛るのが、生き甲斐なのかな?

 幽霊に生き甲斐って、なんだかおかしいけれど。

 中身はギャルなんだね、ユウコちゃん。


 はぁ。

 しょうがない。

 助けてあげるか。


 私は小さくしゃがみながら、ユウコちゃんの席へ近づき、ペンを拾ってユウコちゃんの席に置いてあげた。

 先生にはバレていないようだった。

 もちろん、クラスのみんなは寝ているから誰も気づいてない。


 席に戻ってユウコちゃんの方を見ると、パーっと明るい顔をしていた。

 相変わらず目元は見えないから、口元だけだけど、とっても笑顔だった。


 一生懸命私に頭を下げてくる。

 何度も何度も。


 私も笑って返した。

(今度から、気をつけなよ! ユウコちゃん!)

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