第三話 結婚相談所

 

 まず私は、お金をあまり使わずに済む、金沢市の婚活支援サービスに興味を持った。スマホで見つけたパーティーの写真を見ると、たくさんの人が参加していた。

 それは、豪華なホテルのラウンジで行われていたが、まるで大人数のお見合いのようだった。いつまでも、続けて男性と話をしなければならなかった。


「うわぁ……無理、無理」


 写真を見ているだけで、つい呟いてしまった。私なんかがこんなところに行ったら、緊張して顔が固まって、口もきけないだろう。



 ✻


 その後、私は幼なじみの美香の幸せそうな笑顔を思い出しながら、自分にぴったりの結婚相談所を探した。比較サイトを見て、ようやくA社、B社、C社の三つに絞り込んだ。

 それぞれの会社にメリットやデメリットがあり、まずは、どんなサービスを提供しているのかを比べてみた。



 ❶A社:データマッチング型。コンピューターが会員のプロフィールや希望条件から相性の良い人を紹介してくれる。自分で選ぶのが得意な人や、たくさんの人と出会いたい人に向いている。

 ❷B社:仲人型。専任のカウンセラーが一対一で相談に乗ってくれて、自分に合った人を紹介してくれる。自分で選ぶのが苦手な人や、信頼できる人にサポートしてもらいたい人に向いている。

 ❸C社:オンライン完結型。実店舗を持たずに、二十四時間いつでもネット上で全ての手続きができる。費用が安くて、時間や場所にとらわれない人に向いている。


 私はどれを選べばいいのか分からずに、考え込んでいた。でも、直感的にだが、私にはB社が一番心配なく利用できると感じた。次に費用面の入会金や月会費、そして成婚料から比較してみた。


 入会金は、❶A社が三万円❷B社が十万円❸C社が十二万円の順。

 月会費は、❷B社が一万五千円❸C社が二万円❶A社が三万円の順。

 成婚料は、❶A社が三万円❸C社が十五万円❷B社が二十万円の順。

 合計料金は、一年目に結婚した場合で、❶A社が四十二万円❷B社が四十八万円❸C社が五十一万円の順。


 費用を比べてみると、十万円もの大きな開きがあった。しかし、どのプランも私にとっては手が届かないほど高かった。こんなにお金がかかるなんて、夢にも思わなかった。私は一瞬、躊躇したが、美香の意見が聞きたくて電話をした。


「美香、結婚相談所に入ろうとしてるんだけど、分からなくて」


「え、ゆり子、本気なの……。私はB社で結婚出来たよ。カウンセラーが親身になって、自分に合った人を紹介してくれたんだ」


「そうなんだ。私も、仲人型に興味があるんだ。けど、成婚料が高いよね」


「そうだね。でも、旦那とは、カウンセラーの紹介で初めて会ったの。だけど、すぐに意気投合できたよ。趣味や価値観が似ていて、話が尽きなかった」


「へえ……すごい」


「私の好きな花束と指輪を用意し、金沢城でプロポーズしてくれた。すごく感動したよ。私は、B社に入って本当に良かったの」


 美香は声を弾ませて、B社を熱心に薦めてきた。


「うらやましい。やっぱり仲人型だと、自分に合った人を見つけられるんだね。私は、自分で選ぶのが苦手だから、そういうサポートがあると心強いと思う」


「そうだね。それに、成婚料は結婚が決まった際に払うだけなので、今は気にしなくていいよ」


 美香は、B社の成婚料について、ポジティブに捉えていた。成婚料を払うことで、自分の結婚に対する意志を強めたとも言った。私は、彼女の考え方に驚くとともに感心した。


「えっ、良いこと聞いた。B社は、いいところなんだろうね。でも、私にはA社も気になるけど……。自分のペースで好きな人を選べるし、もし三ヶ月で結婚が決まれば、一番お得だから」


 私は、美香が結婚したのを聞いて、胸が高鳴った。彼女は幸せそうに話していたが、自分は少し焦りも感じた。美香には申し訳ないと思いながら、笑ってごまかした。

 ところが、結婚相手を選ぶのに少しぐらい打算があっても良いだろう。これまで、散々苦しい恋に悩まされてきたのだから。


「ゆり子、聞いてくれる。A社はね、自分で選ぶのが下手な私には向かなかったの。それに、積極的にアプローチしないといけないでしょう。そういうのが苦手だったから、B社で良かったと思うよ」


「うんうん、分かる気がする。私も同じだからね」


 結婚相談所と聞いて、モヤモヤした気持ちが続いていたけれど、美香の説明を聞いて、少しずつスッキリしてきた。

 私は多少の貯金はあったが、花嫁修業中の名目で現在仕事を離れて実質ニートの立場だった。なおさら、お金は大切だろう。無駄にしないように、もう少し考えて決めることにした。彼女に感謝しながら、電話を切った。


 

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