第12話 神の試練! 神の恵み!
ソシャゲの推しキャラであるレーナたん(の姿をした、世界を管理してるという偉い人)が、レーナたん限定式服バージョン装備一式をワイにくれるんだって! 意味が分からないね!
いやなんで??
「装備の効果や使い方は、だいたい知っておろう?」
「いやいや」
「装備の仕方や詳しい情報は、コンソールで確認するが良いぞ。操作説明を読めばバッチリじゃ」
「いやいやいやいや」
「……さっきからなんじゃ。『いやいや、いやいや』言うてからに。感謝の言葉の一つも言えぬのか?」
感謝の言葉が出る状況ですかね、これ?!
「いやいや、おっかしいでしょ! なにゆえ?!」
「やかましいのう」
心底めんどくさそうに、嫌そうにこちらを見る。 うわ、そういう表情のレーナたん見るの初めてじゃない? 超レアだな!
「理由はちゃんとある」
「あるんだ」
ぜったい無いと思った。
「さっきも言うたように、お主は異世界に半分だけ引っ張られている中途半端な状態じゃ。そのせいで、その体に備わった能力をじゅうぶん使えておらん」
「へー」
あー…。そう言えばアリスが、魔力が小さ過ぎるとか何とか言ってたなあ。魔王なのにレベル1になっちゃってるし。それかあ。
「そこでこの装備じゃ。これはワシが自ら作り出したものじゃからな。そなたの魂の力不足を、うまく補ってくれようて」
「ほー」
それっぽい話で言いくるめられた感すごいな。まあいいか……。
「以上じゃ! ──では先ほどの場所に戻してやるとす」
「あああ! 待ったあ!」
話は終わったとばかりに、とっととものと場所……つまりフィルじいの家へ戻すつもりらしいレーナたんの肩を掴む。
「なんじゃ」
「大事な……それはもう、たいへん大事な用事があるので、いったん現代世界に帰りたいです」
「うん? 大事な用じゃと? ワシの使命よりも重要なのか、それは?」
「重要です」
そう。忘れるわけにはいかない。
私にはレーナたんに授けられた使命よりも、もっと根源に関わる重大なことがある。
ミルフィリアの魂や、アリスのことや、なぜかあんな場所に現れた勇者アルのことも気になるけど……。
その前に! まず神本!
私にはあの神本を読み切る重大なミッションが! ……あとついでに編集さんとの打ち合わせが!
「命に関わるんで」
真顔で詰め寄る私の様子に、レーナたんがたじろぐ。若干ひいている。
「う、うむ。分かったのじゃ。命では仕方あるまいな。よし、──では後は任せた。いい感じに何とかしてみせるが良いぞ!」
レーナたんの言葉の語尾が大きく響き渡ったかと思うと、ゴウっと突風が巻き起こる。
視界が真っ白になり、体が台風の目にでも引っ張り込まれたように揉みくちゃになる。
「あぶっ! うぶっ! だからっ! 丁寧にって! あがっ……!」
* * *
「お客様! 大丈夫ですか?!」
「はえ?」
目を開けると、女性がこっちを心配そうに見下ろしている。
お客様とは? 大丈夫とは? ──なにが?
「はい、だいじょうぶです?? たぶん??」
質問の意味が分からない時は、とりあえず『はい』と言っておけばいいんだ。
分かんないが、だいじょうぶです! 知らんけど!!
「立てますか?」
どうやら、お店のエレベーターの中でへたり込んでいるらしい。なかなか立ちあがろうとしない私に、女性店員さんが手を差し出してくれる。
天使か?
しかし合法とはいえ、初対面の人といきなり握手とか無理なので、なんとか自力で立ち上がる。
「ど、どうも…… あざます」
キョドりながら店員さんがつけているエプロンを見る。お腹の辺りにプリントされているマスコットキャラクターに、目を合わせてお礼を言った。
* * *
店を出たところでジーンズのポケットに違和感に気づく。探ってみると例のコンソールだった。
──マジかあ。
「ああー、訳が分からん……でもまあ」
とりあえず戻って来れた。異世界だの、使命だのはいったん置こう!
そんなことより神の本だ! 倒れ込んでるあいだも、しっかりと握りしめてたこの袋に……。
「うん?」
右手に握りしめたままの黒いショップ袋が、やけに軽い。まるで空気しか入って無いかのように、カサカサふわふわ揺れている。
「──いや、中身無いじゃん!!」
バカな?!
「いや? えっ? 待って待って??」
おごごごご!! 命より大事と言えるワイの神本が!! 無いじゃんんん!!!!
* * *
そのあとは死んだ目をして、編集さんとの打ち合わせに向かった。
ちゃんと話したと思うけど、正直、自信は無い。精神的な死でゾンビだった。
気がつけば我が家だ。
なんとなく持って帰ってきた、例の空っぽのショップ袋をもう一度のぞき込む。
当たり前だが、中身は無い。
「はあああああ……」
クソデカため息をつかずにはいられない。──あの本は本当に最後の一冊だったようで、もうどこの店舗にも在庫が無い。店の在庫情報を確認した。
2回も手元から本が消えるとか。あの本、呪われてんの? ── いやいや、神の本が呪われる訳ないわ。どう考えても、呪われてるのはコッチだわ。
「これ神の試練……? ワイはこのまま、あの本を読まずに死ぬんか……? そんな! 神よどうかもう一度、あの本を手にする機会を……!」
機会を……機会? ──あっ!
「そうじゃん!!」
玄関すぐの廊下で、瀕死のナメクジのように伸び縮みして悶えていたが、飛び起きる。
スマホを手に取り、SNSの検索欄に消えた神本のタイトルを打ち込む。
「あっっっっ……たあああ!」
ヒットした結果の一番上に表示されて、あの本の表紙画像が目に飛び込んでくる。
「おおお! 神のアカウント!!」
すぐさまそのアカウントに飛ぶと、最新の投稿が目に入る。15分前にあがったばかりだ。
>明日のイベントのお品書きです!
明日開催される同人誌即売会向けの告知らしい。
そこに添えられた画像には、サークル名やスペース番号とともに、求めてやまないあの!
あの神本の画像も並んでいる!
これこそ神の恵み! ワイはこのために帰ってきた!
「うおおおお! 神よー!」
ゆまてんるーぷ ~勇者♀と魔王♀が現代でオタ活を楽しんでいたら、元の世界に転移しました~ トタカ四方 @totaka_yomo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゆまてんるーぷ ~勇者♀と魔王♀が現代でオタ活を楽しんでいたら、元の世界に転移しました~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます