第11話 チート能力クレクレするぞ!

 世界のすべてを管理する大きな存在が、私に使命を授けるらしいよ!

 もう、面倒に巻き込まれる予感しかしないね! ハハッ!


ルールはきちんと守らせねばならん。とはいえ、ワシが直接かかわる訳にもいかん。そこでお主の出番というわけじゃ!」

 レーナたんは、どうだ、名案だろう、とでも言いたげな表情だ。

「頼んでるような言い方だけど、それ、こっちに拒否権ある??」

「無いな! お主、抜けているようで、さといところもあるのお! 結構なことじゃ!」

 うええええ……。


「はあ……。具体的に、何をすればいいんスか……」

 もう観念した。どうせ拒否権が無いなら、サクッと話を聞いた方がいい。

「まず行方不明の、お主の魂の一部を探すこと。次に、こんなことをしでかしたやからを突き止めること。この2つじゃ」


「ミルフィリアの魂がどこにあるかと、この事件の犯人ね……。で、何か手がかりは?」

「そうじゃなあ。──ミルフィリアの魂はこの辺りには……つまり『境界』には立ち入っておらん」

「ふむふむ」


「さらにお主が元いた現代世界や、他の世界にも立ち入っておらん。つまり……」

「つまり?」

「ミルフィリアの魂のおるべき世界……異世界のどこかにおるということじゃ!」

「具体的にはどの辺?」

「そこまでは知らん」

「……」

 何の手がかりにもならねええええ!


「じゃ、じゃあ、犯人の心当たりは……」

「異世界の者であるのは確かじゃ!」

「それだけ?」

「それだけじゃ」

 何の役にも立たねええええ!


 ノーヒントで異世界のどこかにあるミルフィリアの魂を探せって?! 地上のどこかか、ダンジョンの奥深くか、海の底か、空の上かも分からないのに?!


 その上、犯人も探せって?! 魔国の誰かか、他の国の手のものか、はたまた全く思いもよらない黒幕がいるのかもしれないのに?!


 無理ゲーすぎる状況に頭を抱える。無理だろ!!


「あー、いや。待て待て。もう少し分かるかもしれん」

 レーナたんはステッキをひとふりして、私の体を床に放り投げる。

「あぶっ! ……頼み事する相手は、もうちょっと丁寧に扱っても良いのでは?」

「細かいことを気にするでない。──どこにやったかのう……。おお、あったあった! これじゃ!」

 壁際の積まれていた木箱を探っていたレーナたんの右手に、古いゲーム機のようなものが握られている。


「携帯ゲーム機?」

「の真似をして作った管理端末コンソールじゃ。プロトタイプだがの」

「こんそーる」

「お主の世界風に紹介してやった方が良いか? コホン」


 レーナたんは咳払いを一つすると、端末を高々と掲げる。そして意気揚々と声を上げる。

「テッテレー! 異世界コンソール〜!」


 だいじょうぶか、この子。


「ワシの管理の仕事は、それはもう大変なのじゃ。それで効率化のために、お主の世界で流行っておる『携帯ゲーム機』とやらを真似て作ってみたのじゃ!」

「その割に、ガラクタ入れに仕舞われてなかった? 仕事してないの?」

「失礼な! 仕事はしておる! ……この端末の使い勝手が、あまり良くなかったんじゃ。機能を詰め込み過ぎてな……」


 機能をあれもこれも欲張って詰め込んだはいいけど、肝心の操作感がイマイチってやつ? あるあるだな……。


「いいのじゃ! これは所詮、プロトタイプなんじゃ! 次はもっと良いのを作るんじゃよ! ……そのうちな」

「それ、永遠に完成しないフラグ……あいた!」

 ステッキの先で背中をはたかれる。いてぇ! ……痛かったり、痛くなかったりの基準はなんなんだ?


「それをお主に授ける。あとは何とかするが良い」

「──えっ? 使い方の説明は?」

「ちゃんと、ちゅーとりあるを入れてあるから安心せい」

 世界の管理にチュートリアルとか!


「いやいや、これだけ?! チート能力とか、くれないの?!」

「すぐにクレクレ言う奴は、周りから好かれぬぞ?」

「いま人間性の説教を受けてる場合じゃないから!」


 レーナたんのスカートの裾に、必死にしがみつく。

「最近の異世界転移では、チート能力が貰えるって相場が決まってるんだよ?! まさか『境界を司る原初』のレーナたんともあろうものが、使命を授けた相手に与えるのが、プロトタイプの端末だけとか……ええっ?! まさか、そんな事するはずが無いですよねえ?!」


「むう……」

 これは悩んでいる表情だ。悩んでいるということは、いけるんでは?!

 チート能力とか、すごい武器とか、何でもいい! 少しでもこの無理ゲーを有利に進められるなら、多少みっともなくてもクレクレするのが正しいでしょおおおお!


「仕方ないのお……」

 レーナたんがため息をつく。

 キタ! よし! よし!


「お主に授ける能力は3つじゃ」

「おお!」

 なんと3つも! これは期待できるぞ!

 正直このままだと、異世界に来て何の活躍しない主人公みたくなりそうで、ヒヤヒヤしてたんだよ……!


「まず1つ目。訪れた異世界で、お主と繋がる魂の記憶を辿れるようにしてやろう」

「ほう」


 まあ、なるほど? 必要なことではある。

 こっちの世界は、私の小説の設定といろいろ違うからなあ。こちらのミルフィリア自身の記憶があれば、何かと動きやすくなりそうだ。


 ……チート能力かっていうと、違う気がするけど。普通はデフォで、そうなってるもんじゃね?


「2つ目。異世界との行き来を、ある程度はコントロールできるようにしてやろう」

「ある程度……」


 ある程度って何だよ! 自分の好きな時に、いつでも、じゃなく?

 今までみたいに、何がきっかけで、いつ転移するのか、全く分からないよりはマシだけど……マシだけどさあ……。


「3つ目。みっつめ……うーん、どうしようかの?」

「ねえ、いま考えてるの? どんな能力を与えるか決める前に、3つて言った?」

「そんなことはない」

「そんなことあるでしょ」

「そんなことはない。ある訳ないのじゃ」

 本当か? 適当すぎるだろ、この子。こんないい加減なのが世界を管理してるとか、だいじょうぶ?


「よし、こうしよう! 今の2つの能力を、コンソールから簡単に使えるようにしてやるぞ!」

「ええ……」

「どうじゃ? すごかろう? 便利じゃろう? 驚いたか? 嬉しかろう?」


 ドヤ顔レーナたん可愛い! ……可愛いが、クレームはきちんと入れねばなるまい。

「──ショボい」

「何?! ショボいじゃと?! これだけの力を与えられて何が不満か!」

「不満しかない。最初の2つは能力っていうほどじゃ無いし。デフォで出来てて当たり前な感じだし。最後の1つにいたっては、全くもって能力と呼べない。ただのコンソールの便利機能じゃん!」


 レーナたんは小さい声でボソッと

「バレたか」

と呟く。やっぱり! 最後のは苦しまぎれで、適当につけたな?!


「コホン……ううむ。ワシの気付かぬ間に、いまどきの異世界転移で与えるチート能力とやらは、ずいぶんインフレしておるのじゃのう」

 ぜんぜんそんな事ないけどね。レーナたんの与える能力がデフレし過ぎてるんですわ。


「いいから早く、まともな能力を与えてくれさい」

「……仕方ない、4つ目じゃ」


 レーナたんは手に持っていたステッキを、そっと私に握らせる。

「ワシがいま身につけている装備一式を、お主に授けよう」


 ──は?

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