第6話 レベイチ魔王?とは??
私はどうやら、異世界転移してしまったらしい。ここは自分が書いていたラノベ『ゆるまお記』の世界だ。そしてなぜか主人公の魔王ミルフィリアになっている…… 。
そんな荒唐無稽な説明を、アリスは割とすんなり信じてくれた。正直、こんなにあっさり信じてくれたことが、こっちとしては信じられない。
魔王への忠誠心のなせる技か?魔王様のいうことだからって、そんなホイホイ信じちゃダメだよ!アリスたん!!
世の中には悪い魔王もいっぱいいるんだよ?!
内心でおかしな心配をしている私のことなど、アリスはお構いなしだ。彼女の『思い当たる節』とやらを説明し始める。
「まず、ミルフィリア様のご様子が、かなり、おかしいです」
「うっ」
自覚はあったが、そうもハッキリ言われるとショックだ。
「そんなに変…… ?」
「そうですね。奇行が目立ちます」
「いや、奇行って!!」
そこまで酷くは、ないのでは?!
「これまでにも、ときどき、少々、変わった様子のある方でしたが…… 挙動の不審さが、より気になりますね」
「えええ…… 」
でも、前から変わってたの?ミルフィリアって、そんな子だったかな?
「不審だって思うのに、ニセモノだとは疑わないんだ?」
「それは無いです。あなた様は間違いなく、魔王ミルフィリア様です」
「なにゆえ?…… たぶん、中身違うのに…… ?あっ、『ニセモノめ!』って、手討ちにされたくないですごめんなさい!私は魔王ミルフィリアですたぶん!でも家臣の名前をぜんぶ言ってみろとか言われたら、それは無理だしすみません!ぶった斬らないで!!」
「── そういう、時に、ご自分の考えに集中するあまり、こちらの反応を置いてきぼりにして早口になられるところ…… まさにミルフィリア様、と感じますね…… 」
いや、これはオタク特有の早口であって…… ねえミルフィリアって、そんなキャラだった???
気を取り直して、と前置きし、アリスが説明を続ける。
「ニセモノだと疑わない根拠は、魔力です。魔力は、その人の魂と深く繋がっています。もし、器だけがミルフィリア様で中身は違う人物…… ということなら、魔力の質に必ず違いが生じます」
「そうはなってないんだ?」
「はい」
じゃあ、私は小井手ミチルだけど、間違いなく魔王ミルフィリア・コーデルってこと?ウソでしょ?自覚ありませんけども?
「魔力の質はいま言ったとおり、ミルフィリア様そのものです。しかしそうなると、魔力の出力に違和感があります」
魔力の出力。質は合ってるけど、力の大きさがおかしいと?
「魔力が異常に少ない、とか?」
「少ない、ではなく、小さいんです」
「少ないと小さいって、同じでは?」
アリスはあごに手をあてて、思案している。どう説明しようかと、考えているらしい。
「何と言いますか…… 。魔力の最大量は変わらないのに、実際に発揮される魔力が、小さ過ぎるんです…… 」
少ないじゃなく、小さい。で、大きいのに、小さい、と。ややこしいな!
「魔力の器の大きさは、変わっていません。それなのに、その器に見合った規模の力を発揮できていません。出力が小さすぎる。ありえません」
分かったような、分からないような。ううん、よく分からないな…… 。
「それは結局、魔力が異常に減ってるってことでは??」
アリスは納得がいかない様子だ。単に魔力が減っている、といった単純なことではないらしい。
「いちど、ステータスをチェックした方がいいですね」
「…… そんなこと、できるの?!」
ステータス見るって、何だ。画面が空中に出てきたりするのか?そんな、ゲームじゃあるまいし?
「できますよ」
当たり前じゃないですか、という顔だ。そんな設定、『ゆるまお』には無いよ?!
「── なるほど、もう一つ大きな違和感がありました」
「え、なに?」
「記憶の曖昧さ…… いえ、知識の中途半端さですね」
言われたことがよく分からず、私は目をパチパチする。
「なにそれ」
どゆこと??
* * *
まずはとにかく、ステータスチェックを。
ということで、アリスの父ヒューの部屋へやってきた。
「リアのステータスチェックを?構わないとも」
ヒューはソファに座った私の前にひざまずく。私に向けてかざされた手のひらから、淡い青色の光がはなたれていく。その光の中に、魔力うんぬん、レベルうんぬんと書かれた文字が浮かんで見えた。── これがステータスか。ほんとに空中に文字が出ちゃうんだなあ…… 。
ヒューが光ったままの手のひらを紙に押し当てる。すると光が消え、紙の上に黒い文字が書き記されていた。
「ふむ」
「これは…… 」
ヒューとアリスが、紙を覗きこむ。アリスは眉間に皺を寄せ、ヒューは困った顔をしている。
悪い知らせか?悪い知らせがあるのか??
「ど、どう?」
どう、と聞いて、説明されたとして、事態が飲み込めるとも思えないが、いちおう聞く。
「『レベル1』、ですね」
「うん、そうだねえ。『レベル1』だねぇ」
…… なんて?
「はい?── え?レベル、いち?百でも十でもなく、いち?…… ウソでしょ?」
「嘘ではありません。ミルフィリア様のレベルは、1でございます」
いやいや!仮にも私は、魔王ミルフィリアなんですよ?!
戦闘タイプは違えど、アリスより強いんだよ?勇者とニール共和国にとっての脅威なんですよ?!
それが!レベイチ魔王って!!
おかしいでしょ?!
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