159 後半戦
残るは四人。旗守り係のベルとタツがまだ動く様子は無く、赤チーム側の陣地で発生しているリョウとガンの争いが勝敗に大きな影響を与えそうだった。塹壕として掘った一人分の穴の上にリョウが落ちて来た為、狭い穴に二人とも嵌まり見苦しくずっと格闘を続けている。
「ッとに、ひとまず出ろッて! 狭い! クソ重い!」
「出たら即撃つでしょおおお!? このまま決めるからねガンさんッ!」
互いが互いの水鉄砲の銃口を握り撃たせまいとしつつ、何とか有利を取ろうと押し合っていた。下で潰されているガンがどうにかリョウを押し退けようと反対の手を滅茶苦茶突っ張る。リョウが顔を押されて変顔を晒しつつも、振り解かれまいと反対の手で掴みかかっているという状態だ。
「カーチャン……ッ! 手伝う気は無いのかよッ!」
「わたくしに野蛮な事をさせないでガンナー! 強い子だってカーチャンはガンナーを信じていますからねっ!」
まあまあ近くにベルが居るので援護してくれれば良いものを、まったく動く気配が無い。カーチャンは声援だけ送ってくれている。
「ベルさんの加勢が無いなら僕の方が有利だね……ッ! マウント取ってるしッ! 力だって強いし……ッ!」
「煩え馬鹿が! 遊びのゲームだから手加減してやッてんだよ! これが実戦だッたらとっくに急所潰しておまえをブッ殺してるつうの!」
「暴力反対! 暴力反対ッ!」
流石に遊びのゲームなので、目を潰したり股間を潰したり等の暴力が振るえないのが辛い所だった。そうなると確かにポジションとパワーに優れるリョウの方が有利なのだが、此処で自分が負けてしまうと運動が苦手なカーチャンとリョウと対峙させる事になってしまう。穴から抜け出す事さえ出来れば、此方は無傷であちらは負傷状態なので距離を取って仕留める事が出来る。なので何とか抜け出したいのだがそれがままならぬ。中々の拮抗状態だった。
「ガンナー! 押して駄目なら引くのよ! 柔よく剛を制しなさいな!」
「手伝わねえ癖にカーチャンめっちゃアドバイスくれる……!」
「手を出さないベルさんに僕今めちゃくちゃ救われてる……!」
カーチャンがアドバイスだけくれるので、大変顰めッ面になりながらもガンが勝負に出た。リョウに変顔をさせていた片手を引っ込め、違う場所へと伸ばす。抵抗が失せると同時にリョウが握られた銃口を取り戻すべく空いた手を使う。だが、リョウが銃口を取り戻す前に異変が起こった。
「ひゃ、あひゃひゃひゃっ! ちょ、それずるいって……!」
「効いてる! カーチャン柔ッてかくすぐりめっちゃ効いてる!」
「そう、それで良いのよガンナー!」
「けどリョウが上で暴れるから滅茶苦茶痛え!」
「我慢なさいな!」
くすぐり攻撃により上でリョウが身悶えるので肘などガスガス当たって中々痛い。が、このチャンスを逃してはならなかった。銃口を握られている自分の水鉄砲を離し、空いた手を無理矢理背中側へ突っ込む。其処には本来ジラフに投げて寄越す予定だった銃があった。握り、引き抜き。
「往生しろリョウ……ッ!」
「グワーッ!」
リョウのドテッ腹へと銃口を押し付け思い切り引き金を引いた。身悶えていたリョウも握った銃の引き金を引くが狙いは定まっていない。
「や、やった……!」
「やられた……!」
やられた感満載のリョウが穴から転がり、しんどそうにガンも這い出てきた。そこで審判のホイッスルが鳴る。
「リョウ様、ガンナー様共に死亡判定です!」
「ああ!?」
「おや?」
慌ててガンが自身のゼッケンを見ると、超至近距離でブッパしたので返り血ならぬ返り水で自身のゼッケンも黒く染まっていた。
「あー…………すまん、カーチャン。後は任せた……」
「ちょっと……!」
「相討ちならまだ……! まだ……!」
「えっ、あと儂とベル殿だけかの!?」
神妙な顔でガンも砂に横たわる。ついに旗守り係の二人だけが残されてしまった。
「これは予想外の面子が残ったな! タツさん一騎打ちだ! 負けるでないぞ!」
「ベルちゃん! 後はタッちゃんだけよ! やっちゃいなさいッ!」
「タツ! 頑張って下さい……!」
「ベルどん! ベルどんの水鉄砲は最強だ! 頑張るんだ……!」
「タツさん! 頼みますよォ~!」
「カーチャンおれの仇討ってくれや……!」
砂に転がった面々が思い思いにエールを送る。生き残りの二人は『ええ……』という顔を隠さず遠距離で見つめ合った。
「………………」
「……ベ、ベル殿……! 痛い思いをする前に負けを認めてしまった方が良いのではなかろうか~!?」
「…………仕方ないわね……」
「!?」
ベルが動いた。ガトリング砲のような最強の水鉄砲をよいしょと持ち上げ、よたよたと歩き出す。
「んもう! これ重いのよ! わたくし杖より重い物なんて持ちたくないのに!」
「ベルちゃん……! 後で霜降りいっぱい食べましょうッッ!」
「ベルどん流石だぁ……! かっこいいぞぉ……!」
「カーチャン……!」
「ベ、ベル殿ぉ~! 来てはならん! 来てはならんぞ……!」
「だったらあなたが来れば良いでしょう! これ重いんだからっ!」
ベルが途中小休止を何度も挟みつつ、タツが守る旗の方へと近寄っていく。
「タツさん分かっているな!?」
「タツあいつマジでちょっとも動かねえな。サボるにも程があんだろ」
「持ち前の気性――いえ、何か策が……?」
他の面々は砂に転がるまま観戦している。やいやい声援や野次が飛ぶ中、ついにベルがタツの目の前まで辿り着いた。
「ひい……! 来よった……!」
「あなたを殺すか、旗を取れば勝ちよね? 頂くわ」
「させんっ! させんぞおお!」
タツがケンの言いつけ通り、旗に被さるようにして守る。右手に握った小さい水鉄砲はまだ撃たれていない。
「旗を守った所で――!」
「ひいいいい!」
ガトリング砲の形状に相応しく、連射で盛大な水が放たれタツを襲った。が、一滴も当たらない。
「おいあいつ能力使ってッだろ! 卑怯!」
「いいぞタツさん作戦通りだ! そこで撃ち返せッ!」
タツが水を操る能力で自身に向けられる水を弾いている。気付いてベルも舌打ちした。ひいひいしながらタツがベルへと銃口を向ける。その時――――。
「アラヤダ! メイちゃんビキニずれてるわヨッ! たわわが零れちゃう! 早く直さないとッ!」
「!?」
急いたようなジラフの大声が響き渡った。その瞬間タツとリョウがコンマでメイの方を見る。
「ベルちゃん今よ――ッ!」
「ええ!」
気を取られた瞬間のベルの再びの連射。たわわに気を取られていたタツは能力の使用どころではなかった。今度は水を弾かず、盛大に水がタツを叩いていく。
「グワーッ! 水の量が多い! 水圧が痛い! たわわが見えんのじゃあ!」
「嘘に決まっているでしょう! わたくし達の勝利よッ!」
「嘘か! 吃驚した……!」
「やったぜ」
「くう……! 負けましたか……!」
「クッ、何という卑怯な……ッ!」
「ウフ! お互い様よねェ~!」
「おらのビキニは無事だぁ! ベルどんやったなぁ!」
審判のホイッスルが高らかに響き渡り、赤チームの勝利が宣言された。起き上がって喜ぶ赤チームと対照に、悔しがる青チームのコントラストを夕陽色の混ざった日差しが照らす。
「つうか、お互いまあまあ卑怯だッたな。お互い様だわ」
「そうね、どちらも卑怯だったわ」
「お互い卑怯は同意だが、俺とタツさんのミスは己の心の弱さが招いたものだ……反省しようぞタツさん……」
「えっ、嫌じゃが!?」
「ウフフ、ケンちゃんとタッちゃんの男心を弄んじゃってゴメンなさいネッ」
「私は終始盾でしたので責められる事は無いと思うので安心しております」
「僕もケンさんがミスをした事で責められる事は無いと思うので安心しております」
「青チーム恐怖政治じゃねえかよ」
口々に感想を言い合い。勝敗の悔しさはあれど、ともあれ楽しかったのは事実だった。何となく全員で笑って、じきに夕方が訪れる。夕食は念願のBBQだ。
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