世界最強リサイクル ～追い出された英雄達は新世界で『普通の暮らし』を目指したい～

158 前半戦

「先頭がカイちゃんなんて意外ねェッ！？」

「ジラフ、お覚悟――！」

　水鉄砲の射程圏内に入った瞬間、カイがやくざの鉄砲玉のように構える。が、撃たない。咄嗟に飛び退きながら目を瞠ったジラフが、そのまま構えた水鉄砲を発射した。

「成る程ッ！　メイちゃん気を付けなさい！」

　カイの射撃動作はフェイント。ジラフが撃った瞬間、カイの背から羽が生えて自らの胴を守った。これは“囮”だと気付いた瞬間ジラフが叫ぶ。

「へぇ！」

　ジラフが回避したせいで、メイへと一直線の道が開けている。其処にリョウとケンが踏み込んでいった。

「メイさん申し訳ないけど御覚悟――！」

「リョウどん！　掛かって来い！」

「リョウさん！」

　メイとリョウが対峙する。メイの水鉄砲は大きく強力だが、小型の物に比べて撃ち出しが遅い。小型の水鉄砲を持つリョウが先手を取って構えて撃とうとした瞬間、ケンに大きく引っ張られた。

「！？」

　今までリョウが居た位置をど真ん中でガンの狙撃が貫いていく。初撃のチャンスを逃した為、リョウを引っ掴んだままケンが大きく後方飛び退いた。カイという遮蔽物の影だ。

「ッあっぶ……！　ケンさんありがとう……！」

「いいか、メイさんはゼッケンの位置が高いから撃つ時どうしても腕が上がって胴がガラ空きになる！　見逃すガンさんでは無いぞ！　気を付けろ！」

「はいぃ……！」

「おいカイの翼ガードずりィんじゃねえの！？」

「塹壕から撃って来るガンさんに言われたくは無いわ！」

　互いに卑怯つまりイーブンの状態で早々に仕切り直しとなった。撃たずガードに集中するカイを遮蔽に、ケンとリョウがジラフを狙うというブラフを織り交ぜつつ集中的にメイを狙っていく。

「おっ、わっ……！　おっ、おら狙われてねえか！？」

「狙われてるわネェ～！　先にカイちゃんを潰さないとッ」

　避けたり叩き落としたり、中々良い動きでメイが耐えているが当たるのは時間の問題だ。ジラフが一瞬考え、無言で後方のガンへハンドサインを送った。

「了解」

「メイちゃんッ！　カイちゃんの真上から突っ込んで水鉄砲撃っちゃいなさいッ！」

「ぶッ！？」

　カイが上への警戒を強めた瞬間、ガンの狙撃がカイの顔面を狙った。咄嗟目を閉じ、その隙にメイが長いリーチと高い身長を持って真上から水鉄砲を捻じ込む。

「カイどんお覚悟ぉ！」

「アッアッ」

　一本の水流ではなく、散弾のように多量の水が飛び散るメイの一撃が翼の内側でカイのゼッケンを濡らした。一瞬でゼッケンが灰色を通り越し真っ黒に染まる。

「カイさんの尊い犠牲ッ！　だがメイさん胴ががら空きだッ！」

「はっ――！」

　ケンの射撃がメイのゼッケンを撃つ。咄嗟に飛び退いたが避けられず灰色――“負傷”判定となり、走る事を封じられた。

「ケンさん！　後ろッ！」

「む！」

　一瞬のその攻防の間に、ジラフが青チームの後方に跳び込んでいる。ケンを庇うように前に出たリョウがジラフを撃つが狙いが甘い。リョウの射撃は砂を撃ち、ジラフの射撃は正確にリョウの胴を撃った。

「カイ様、戦死判定！　メイ様、リョウ様、負傷判定です！　戦死判定の方は地面に伏せ、負傷判定の方は走る事を禁じます！」

　ホイッスルと共に審判であるクルーが宣言する。ダメージが多い青チームへ畳みかけるよう、赤チームの猛攻が始まった。

「もう遮蔽物（カイちゃん）は居ないわッ！　畳みかけるわよ！」

「わはは！　カイさんが死んだ所で俺は負けん！」

「ちょっ、あっ、走れないの辛ぁい！　避け辛いぃ！」

「メイ！　二人の頭上に向けて撃てッ！」

「へぇ！」

　メイがケンとリョウの頭上へと盛大に散弾の如く水を撒き、その瞬間にガンとジラフも別方向からメイの射線を射抜いた。頭上でぶつかった水が雨のように二人へと降り注ぐ。指示を的確に行えるメイと、こういう場に慣れたジラフとガンの連携は実に凶悪だった。

「ほう、考えたな！」

「ケンちゃんを一撃で仕留められるとは思ッてないのよねェッ！」

　降り注ぐ水は一度で死亡する程ではない。だがじわじわとゼッケンを濡らし負傷判定に持っていく為のものだ。既に負傷したリョウを庇い、自身が負傷状態に追い込まれながらもケンは笑っていた。

「良いか。そろそろ行くぞリョウさん」

「あっ、庇ってくれてありが――あっはい」

　その瞬間、リョウはケンに放られた。

「！？」

「ちょっ」

「おわ」

　放物線を描いたリョウが“ガン目掛けて”放り込まれたのだ。これこそがリョウに任せられた重要な役目、ガンを潰す秘策である。

「ッてえ！」

「ガンさんお覚悟ぉ！」

「うるせえ馬鹿！　重いんだよ退け！」

　塹壕の方で見苦しいタイマンが始まった。

「そ、そんなんありか！？」

「わはは！　メイさん！　狙撃手は近付いて殴った方が手っ取り早いのだ！」

「けどケンちゃん独りぼっちじゃなァい？」

　そう、力技でガンを無力化したものの――ケンは負傷状態で、周囲には無傷のジラフと負傷中ながら強力な武器を持ったメイが居るのだ。

「何、この位ハンデをくれてやらねばな！」

「ウフッ！　滾ってきちゃうゥ！」

　ニィとケンとジラフが笑み合い、火蓋が切って落とされた。挟み撃ちの形でメイとジラフが走れぬケンへと水鉄砲を撃ち放つ。

「だが此処でカイさんガードだッ！」

「ええ！？」

「何ですッて！」

　ケンが地面に転がったカイを引っ掴んで盾にした。

「ちょ、私死んでるんですけどっぶ！」

　カイの死体を振り回すようにしたのでケンは無傷だった。カイは全身に水を喰らってむせかけた。

「戦場では死体を盾にする事もある。よもや卑怯とは言うまいな？　ジラフさん」

「く……ッ！　その通りよ！」

　ジラフが舌打ちする。カイという盾を得たケンは手強く、素早く撃たれた一撃でメイがまずやられた。

「ああっ、ジラフどんすまねえ……！」

「いいのよメイちゃん……！」

「わはは！　流石のジラフさんもメイさんの死体を盾にする事は出来まいて！」

「く……ッ！」

「それにもうそろそろ水切れでは？」

　ケンの手には新たに、殆ど撃たなかったカイの水鉄砲が拾われている。片や、ジラフの水鉄砲は水が尽きかけていた。塹壕にはまだ沢山予備の水鉄砲があるが、それを投げてくれるガンが今は動けない。一瞬の攻防で立場が逆転していた。

「良い戦いであったぞ。ジラフさ――」

　今まさに止めを刺そうと、ケンが構えた時だった。ベルの大声が響き渡る。

「ちょっとリョウ！　今ガンナーとキスしなかった！？」

「何ッッ！？」

　秒でケンが気を取られた。

「ベルちゃんナイスアシストよォ――ッッ！」

　その隙を見逃さず、ジラフがメイの落とした水鉄砲へと飛び込んでいく。そのわずかな隙が勝敗を決した。

「――――と思ったけど気のせいだったわ！　オーッホホホ！」

「やめてェ！　ほんと命に関わるからそういうのやめてェ！」

　ベルの悪魔のような高笑いと心底のリョウの絶叫が響き渡る中、ジラフとケンが同時に水鉄砲の引き金を引いた。

「……く！　謀られたな……ッ！」

「ベルちゃんの機転が無ければ負けていたわよッ……！」

　双方ゼッケンを黒く濡らして、互いの健闘を称えるように少し眉を下げて笑った。相討ちだ。この時点で残るはリョウとタツの青組、ガンとベルの赤組だけとなる。

「ゴメンネ！　相討ちになっちゃッた！　後は任せるわネッ！」

「リョウさんタツさん！　後は任せたぞ……ッ！」

「任されッましたあッ！」

「任されてえけどリョウがクッソ重くて邪魔でェ……！」

「ガンナー早くなんとかなさい！　カーチャンに野蛮な事をさせないのよ！」

「リョウ殿だけで何とか二人倒して欲しいんじゃよ～！」

　任された四人の反応は様々。戦いは後半戦へともつれ込んでいく。