157 海の戦
「前衛はカイさんだ」
「えっ!?」
「ケンさんか僕じゃなくて?」
青チームも砂に地形と陣地図を描き、円陣で相談している。
「そうだ。カイさんには皆の盾になって貰う!」
「ええっ!?」
「カイさんには翼があるだろう! 翼! 攻撃など無理にしなくていい! カイさんは翼で自身も他もガードするのが仕事だ!」
「文字通りの盾じゃないですか……!」
最近は日常生活に邪魔なので、角は出しているが翼は大体しまっている。だがまあ言われれば出せる。が、不満げなカイに対しケンが大きく鼻を鳴らした。
「仕方ないだろう! 他の者は未知数だが、ガンさんの射撃は絶対に当たるのだ!」
「ああ……」
「五人目の戦いの時、近くで確認出来ていないのですがそんなにですか……?」
「五人目の獣形態、目が数百個はあっただろう」
「ええ」
「村の成り立ち映像で見たぞ! あのおっかないでっかい獣じゃろ~!?」
「そうだ。その獣が動き回っている状態でガンさんは、一秒に1回、3回連続で違わず全ての目を射抜いている。遙か上空からだ。つまりガンさんの射撃は絶対に当たる」
「ヤダァ! 絶対遭遇したくないタイプの狙撃手ゥ……!」
「何じゃその化け物は! ドン引くわい!」
「最早ガンナーを引いたチームの勝ちなのでは!? 」
「そう思うだろう! だが違う! 確かにガンさんが居れば勝率は大幅に上がる! だがこれはチーム戦である故!」
ケンが名君――か暴君かは分からない頼もしい表情で声を張る。
「必中すると分かっていればそれを前提に動けば良い! 今回の弾は水だからな! 故にカイさんを遮蔽物とし我々は攻め込む! 納得したな!?」
「遮蔽物という響きは嫌ですが納得はしました……!」
「そうか。普通の戦闘じゃないもんな。避けられなくてもゼッケンを守る事が出来れば戦えるって事か」
「儂一番安全で楽なポジションが良いのじゃが~!」
「安心しろ! タツさんは旗を守る係だ!」
「あっ、楽そう」
「いいか、敵がもし迫って来たら――」
「逃げて良いのかの!?」
「敵前逃亡は許さぬ! 旗を体で包み込んで守れ。撃たれるだろうが、お得意の水の操作でゼッケンに当てるな。そして撃ち返し撃破しろ!」
真面目な顔で堂々とケンが卑怯な戦法を告げ、場は一瞬静まり返った。
「ひ、卑怯! ケンさんの作戦が卑怯すぎる……! 翼の時点でまあまあ卑怯だったけどこれは完全に卑怯過ぎる……!」
「え、そういう能力使用ありなんですか!?」
「能力使用に言及はしておらぬ故つまり使った者勝ちだぞ!」
「ケン殿こうやって世界を征服してきたんじゃろなぁ……」
「逆に正攻法で勝てるのか? 皆が正攻法で絶対に勝てると誓うならそれで構わんが、誓いを守れなかった場合の俺は優しい君主では無いぞ? 大丈夫か?」
「アッ……卑怯も戦法の内だよね! 戦法なら仕方ないかな!?」
「そ、そうですね……仕方ないですね……!?」
「儂は儂が楽で安全なら策は問わんのじゃよ~!」
「よろしい!」
ケンの『二度の敵前逃亡は首を刎ねる』というエピソードを知っていたリョウが最初に迎合した。続けて空気を察したカイも追従した。タツは我が身が一番だった。
満足そうに頷いたケンが、砂に描いた陣形図を眺めて腕を組む。
「一対一の勝負なら此方が有利。それはあちらも分かっているだろう。リーダーがジラフさんだからな。恐らく守備寄り、堅実に攻めてくる筈だ」
「そういやジラフさんの戦いぶりってどうなの? まだ見た事無いけど」
「武人として申し分無い。ちゃんと規格外だ。俺がもう一人居ると思って臨んだ方が良いだろう」
「うへぇ……」
規格外でない者がこの世界に送られて来る筈が無いので当然なのだが、それが敵に回るとなると途端に溜息が出てしまう。
「かつ詳しい来歴は聞いておらぬが傭兵王と言うからには、傭兵達を束ね幾多の戦経験がある筈だ。恐らく指揮能力もトップクラスだろう。相手にとって不足無しという事だ……!」
「うう……戦っていうと僕殆ど経験無いからな……!」
「私も行軍は基本四天王に任せてしまっていましたね……」
「儂も戦の指揮なぞ執った事無いわい!」
「わはは! 経験の有無と得意不得意は誰にでもある! それにそれはベル嬢とメイさんも同じだからな! つまりこの戦いは、どちらのリーダーが上手く駒を扱えるのか、という戦いでもあるのだ……!」
「成る程……」
頷きながら、人間に見立てた貝殻をケンが砂に置いていく。
「恐らくベル嬢が最後の砦だろう。ベル嬢は動き回らせるより、あの水鉄砲で守らせた方が良い。前衛にジラフさん、中衛にメイさん、後衛にガンさんという配置だろうかな。俺ならそうする」
「ふむふむ」
「俺に読まれる事も想定しているだろうが、読まれて尚手堅い配置だ。ジラフさんとメイさんという遮蔽を使い、ガンさんが確実に一人ずつ片付けていく作戦だろう」
「成る程な。その場合絶対に避けられないから、こっちもカイさんっていう遮蔽が必要になって来るんだね」
「うむ、そうだ。俺とリョウさんはどうするかな……」
少し迷うようにケンが掌で二人分の貝殻を弄った。
「恐らく奇策で行くのは予想されているだろう。その裏を掻いて正攻法でも良いが、奇策といっても内容の予測までは出来んだろうから――正攻法と見せかけての奇策と行くかそれとも……」
「全然何言ってるか分からないけど楽しそうだねえケンさん」
「うむ! 楽しい! 久々の戦と思うと大変楽しい!」
「確かにこうして作戦を立てて戦うのはスポーツとして面白いですねえ」
「――よし、臨機応変にはするがスピード勝負だな!」
「スピード勝負?」
「真っ先にに獲りたいのはガンさんだが流石に難しい。故、初手はカイさんが殺されきる前に俺とリョウさんでまずメイさんを獲る!」
「私が殺されきる前に……!」
「さすれば旗守り係を除けば三対二! ガンさんにも手が届く! あちらも一人ずつ潰して来ようとするだろうが、此方も同じだ!」
ケンが勢いよく貝殻を置き、それからリョウを見た。
「リョウさん!」
「はい! 何!?」
「リョウさんには重要な役目を任せる!」
「!?」
そしてリョウが耳打ちされ――青チームの作戦会議も時が過ぎて行った。
* * *
そうして30分が経ち、ふたつのチームが集結した。
「そっちの作戦会議賑やかだったわネッ! ちゃんと決められたかしら~!?」
「わはは! 完璧な作戦を立てたぞ! これで万が一負けようものなら我が兵どもが余りにも無能という事よ!」
「アッ、プレッシャー掛けてきてるぞこれ……!」
「何で儂は赤チームじゃなかったんじゃあ……!」
「あっちすごく楽しそうですね……作戦会議も余裕だったんでしょうね……」
時間が余ったのか、きゃっきゃとベルとメイとガンが砂山らしきを幾つも作って遊んでいる。青チームと比べてあまりにも優雅だった。
「おっ、時間か」
「おら頑張るぞ!」
「わたくしも頑張るわよ!」
集結に気付いて三人も寄って来た。クルーザーで同伴して来たクルーが審判を務めてくれるらしく、全員にゼッケンを配っていく。このゼッケンは一定以上の水を吸うごとに灰色、黒へと色が変わってゆきそれで判定をするという事だった。
バトルフィールドは入り江の海岸全体。それぞれ両端に拠点たる旗が立てられている。チーム毎に水鉄砲を手に配置へ向かい――程なく審判から開始を告げるホイッスルが鳴った。
「皆! 手筈通りに行くぞッ!」
「おー!」
「はい!」
「儂が楽出来るよう蹴散らしてくるんじゃよ~!」
ホイッスルと同時にケンとリョウとカイが駆け出した。赤チームもジラフとメイが前に出てきては居たが、中央地点より踏み込んで来る様子は無い。ケンの読みは当たっているようだった。だが途中でリョウが気付く。
「ちょ、あっちも卑怯じゃない!? あれ事前に何か作ってない!?」
後衛らしきガンが、幾つも先ほど作られれていた砂山――の内のひとつに滑り込むのが見えた。そこまで大きい山ではないのに、スッと隠れて姿が見えなくなる。明らかにおかしい。恐らく砂山の影に塹壕のように穴が掘ってあるのだろう。明らかに仕込みである。おかしい。
「おっと、さっき砂遊びに夢中になり過ぎたな! 何か穴に嵌まっちまったぜ!」
「嘘付け! どう見ても塹壕だろうが!」
「棒読みなんですよガンナー……!」
「エー!? アタシ達時間余ったから砂遊びしただけよネェ~!?」
「そ、そうだ! おら達は砂遊びをしていただけだぁ!」
この時点で互いに卑怯上等な事が明らかとなった。
見る間に前衛たちの距離は縮まり、中央地点を赤寄りに踏み入った時点でついに衝突する。
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