156 チーム対抗

 息を止め、海に潜ると全てが眩い青に埋め尽くされた。

 少しひんやりとした海水の温度が心地よい。水中独特の浮遊感に波の動きが重なってゆらゆら揺れる。日差しが差し込む透明度の高い海中は物凄く綺麗だった。


 ダイビングではなくゴーグルとシュノーケルでの海散策だから、そこまで深い所までは来ていない。せいぜい水深4m程の所だったが、鮮やかな色合いの珊瑚や小魚が居て十分楽しい。メイの方を見遣ると、同じく息を止めて潜った所だった。

 健康的な肌に陽光が作る光の波模様が映えて、水中で広がった髪が人魚のようだ。ゴーグルで顔が隠れているから細かな表情は分からないが、嬉し気に細まった目と楽しそうに此方にジェスチャーをするのが見えた。


 同じようにジェスチャーを返し、しみじみと思う。楽しい。海楽しい。メイと遊べるのが滅茶苦茶嬉しい。海超楽しい。心中は大変正直だった。間近に居るとご立派なたわわをどうしても意識してしまうが、こうして海中で遊んでいると素直に楽しさの方を感じ取れる。海に来れて良かったな――と幸せを噛み締め、午前中はあっという間に過ぎてしまった。



 * * *



 他の面々もそれぞれ午前は自由に過ごしたようで、昼食を終えると全員で集まった。ケンが見慣れない道具が入った箱を抱えて持って来る。


「午後はチーム対抗のお遊びをするぞ!」

「パワー関係ない遊びでお願いしますよォ!」

「そうじゃそうじゃ!」

「わはは! 安心しろ! パワーは関係ない!」

「ケンちゃんそれなあに?」

「これは水鉄砲だ!」


 ケンが置いた箱の中には、大小様々色んな種類の水鉄砲が入っていた。


「わあ、カラフルで可愛いなあ!」

「なあに? 撃ち合いでもするの?」

「そうだぞ! こういう感じだ!」

 

 適当なひとつを取り、海で水を入れてくると見本のように一度撃った。びゅっ! と水が飛び出し砂を濡らす。

 

「色違いのゼッケンを付け、2チームに分かれて戦う! このゼッケンは濡れると濡れ具合で色が変わっていくからな! 死亡判定はこれでする!」

「死亡判定……私達死ぬんですか……?」

「最初は白だが濡れる毎に黒に近付いていく! 撃たれてゼッケンの色が真っ黒になったら死んだものとして砂に伏すこと! 灰色の時は負傷判定なので応戦してもいいが走るのは禁止だ!」

「あァ、演習みたいなもんか」


「うむ、そうだ! 片方のチームが全滅するか、もしくは陣地の旗を取られたら勝敗を決する!」

「成る程成る程。それはちょっと面白そうだな」

「わたくしそういう運動? は苦手なのだけど……!」

「大丈夫だ! ベル嬢には特別強い銃をやる!」


 箱の中から特別大きいガトリング砲のような水鉄砲が取り出され、ベルへと支給された。明らかに強そうな水鉄砲だ。


「これなら全員殺せそうね。よくってよ!」

「メイさんも女子故、好きな水鉄砲を選んで良いぞ!」

「わぁ! 良いのか? そしたらこれ……!」


 メイも嬉しそうに大きな水タンク内臓のショットガン風の水鉄砲を選んだ。此方も如何にも強そうだった。


「ケンちゃんアタシは~!?」

「ジラフさんは心は乙女だが肉体とフィジカルは傭兵王なので男子扱いだ!」

「チッッッ」

「そりゃそうでしょジラフさん……!」

「後はチーム毎にそれぞれ同じ水鉄砲を何種類か配る! 誰が何を持つかは相談しろ! 余った水鉄砲は予備として好きに使って良い!」


「成る程、これはチームと水鉄砲の相性も鍵ですね……!」

「チーム分けはどうするんだ?」

「チームは籤引きで分けるぞ! 棒の先に赤か青の色が塗られているから、それで分ける! 更に金色線が入った籤の者がチームリーダーだ!」

「成る程」

 

 ケンが籤らしき八本の細い棒を握って手を出してくる。ドキドキしながら全員順番に引いていった。


「アラッ! アタシが赤チームのリーダーねッ!」

「おらも赤チームだ!」

「おれも赤だな」

「わたくしも赤チームよ」


「俺が青チームのリーダーだな!」

「僕は青チームだ」

「私も青ですね」

「儂もじゃ……ウッ、赤チームに入りたかった……!」


 女子が赤チームへ偏り、明らかにケン以外の男が悲しい顔をする。


「そんな顔をするなリョウさんカイさんタツさん! 俺を敵に回さずして良かったではないか!? 俺だぞ!?」

「そう言われるとそうだなあ!?」

「ハッ、確かに……!」

「一理ある……!」


 ケンの一言で男達の意識がガラッと変わった。ケンが敵ではない事はあまりにも素晴らしい事だった。


「ふん、ケンが居るだけで勝てると思ッてんのか?」

「舐められたモンだわネッ! ガンナーちゃんとアタシの“兵”適性そしてッ! ベルちゃんとメイちゃんの強力な装備ッ! 負ける理由が無いのよネェ~!」

「オホホ! 敵に回ったなら仕方ないわ! カイ! 覚悟して頂戴!」

「おおおらも頑張るぞ!」


 明らかに手慣れた仕草でガンが水鉄砲を物色して構えている。“本職”の構えだ。


「そうだったガンさん狙撃手じゃん……! 本職じゃんちょっと……!」

「ジラフも傭兵王でしたよね!? 指揮も万全では……!?」

「急に不安になってきたんじゃが~!?」

「“兵”適性がどうした! 俺は覇王だぞ! リョウさんカイさんタツさんの指揮くらい容易いッッッ!」

「暴君ではなく名君でお願いしますよ名君でッッ!」


 分かれてみるとなかなか良いパワーバランスだった。今の所、どちらが勝利するかはまったく読めない。


「では、30分程作戦タイムをとってから始める! ああそうだ! 賞品の発表がまだだったな!」

「えっ! 賞品あるの!?」

「ある! 勝利チームは夕食のBBQで最高級霜降り牛肉食べ放題だッ!」

「ケンどんそれは本当か!?」

「ああ本当だメイさん! ちなみに負けたチームには一皿やる! 一皿だけな! 後は普通の肉を食べるがいい!」


 食べ放題と聞いて俄然メイのやる気に火が点いた。


「おら、嘗てないやる気が出たぞ!」

「メイ食い意地張ってんなァ」

「そこは食いしん坊っていうのよガンナーちゃん!」

「霜降り美味しいわよねえ」

 

「えー……霜降り沢山食べたい……頑張ろ……」

「私も霜降りは食べたいですね……」

「美味い肉ほんとに美味いものなあ。儂も素直に食べたい」

「わはは! そうだろうそうだろう!」

 

 譲れない賞品が出てきてしまった為、全員本気で取り組む事になった。早速チームごとに分かれて作戦を練り始める。



 * * *


 赤チームは平和な面子だったので、作戦会議も和やかだった。


「ベルちゃんは運動が苦手という事だから、旗を守る最後の砦になって貰いましょう。支給されたアレは良い水鉄砲よ。誰か近付いたら思い切り撃てば良いわ」

「分かったわ。頑張る……!」


 砂に地形と陣地図が描かれ、ジラフが指示を出している。その傍らでガンが水鉄砲全ての性能を確かめ、不備が無いか確認していた。


「ジラフ、全部不備は無え。弾速も飛距離も、連射性能も貯水量も確認した」

「流石ガンナーちゃん! 素晴らしい仕事よ! 前の世界でも雇いたかったわネッ」

「そりゃどうも。おまえの腕なら文句無えからな、好きに指示出しな」


 呪塊からメイを救済する際にジラフとは共闘して腕前も解っている。傘下で指示を受けるのに何ら異論は無かった。

 

「ジラフどん、おらはどう動いたら良い?」

「アタシが前衛を務めるから、メイちゃんは中衛よ。アタシのフォローと同時に、ガンナーちゃんの盾をやって貰います」

「盾……! 成る程、おらの大きさが活かせるな……!」

「おれは後衛だ。前衛中衛のフォローと、背後からベルを狙われた時の警戒も行う」

「ガンナー、カーチャンを絶対に守るのよ! 良いわね!」


「相手はケンちゃんよ。恐らく奇策を打って来るでしょうから――慎重に様子を見て無理には攻め込まず、一人ずつ確実に片付けて行くわ」

「んだな。タイマンだとこっちの面子のが分が悪い。面で攻めていこう」

「そういうコト! 細かい打ち合わせを終えたら、ベルちゃんとメイちゃんはガンナーちゃんに水鉄砲のコツを教わっておくのヨッ!」

「分かった! 頑張るぞ!」

「よくってよ!」


 着々と分担と作戦も決まり、残り時間で水鉄砲の練習をする余裕まで見せた。

 一方青チームの作戦会議はジラフの予想通り、奇策が展開されていた。

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