155 ビーチに繰り出せ

 当日は早朝から出港した。

 海上都市から借りて来たクルーザーは大型で、キッチンやリビング、寝室やパーティールームまで内蔵されたサロンクルーザーだったので皆大喜びだった。


「よし! 今日の予定を発表するぞ!」


 後少しで無人島に着くという頃、ケンが皆を呼び集める。


「着いてから午前は自由時間だ! 昼食はクルーが用意してくれるそうなので適当に食べること! 午後は皆でチーム対抗のお遊びなどしよう! 夕食はBBQを予定しているぞ! 遊び道具や何か必要な時はクルーへ言うように! 以上!」

「ワーッ! めちゃくちゃ楽しみ……!」

「こういう全員でのお出かけは初なので嬉しいですねえ!」

「チーム対抗のお遊び部分に不安を感じるんじゃが~!」


「天気も良さそうだし肌を焼くにはもってこいネッ!」

「おれジェットスキー乗ろッと」

「メイ、日焼け止めはちゃんと塗るのよ。わたくしのを貸してあげますからね」

「へぇ、日焼け止めなんて物がこの世には存在して……!」

 

 海上都市の船なのでクルーも揃っており、パラソルやデッキチェア、テントの設営など全てやってくれるらしかった。至れり尽くせりで、最早遊んで楽しむ事しかやる事が無い。気付けば海の色が変わり、透き通るようなマリンブルーの海中に珊瑚や魚が見えてきている。


 全員急いで水着に着替え、デッキに出る頃には目の前に島が見えていた。

 手付かずの美しい無人島だった。断崖に囲まれた入り江に白い砂浜が広がっており、椰子の木も立派に生えている。ビーチリゾートにはもってこいの場所だ。


「わあ、海すごい綺麗だよ! 此処まで綺麗で青い海って見た事無いかも……!」

「島もビーチも綺麗ですねえ……!」

「だろう! 最高の島をチョイスしたぞ!」

「おれちょっとわくわくしてきた……」

「儂は早く! ベル殿とメイ殿の水着が! 見たい!」

「女子は用意に時間が掛かるのよタッちゃん!」


 男達は全員揃ったが、女子二人はまだ登場していない。待つ間にクルーザーは入り江近くに停泊し、クルー達が設営に降り立っていく。

 ケンとガンとジラフは海で遊ぶあれそれを物色していたが、リョウとカイとタツはソワソワと女子達の登場を心待ちにしていた。


「待たせたわね!」

「……!」


 バァン! とベルが扉を開いてデッキへと姿を現す。遅れてメイも恥ずかし気に後をついてきた。


「はぅ……!」

「ふぁ……!」

「ヒョーッ!」


 待ちかねた三人から変な悲鳴が洩れる。


 ベルは黒のモノキニ――後ろから見るとビキニで前から見るとワンピースに見える水着の事だ、を着ており胸部はホルターネック風で露出が低いと見せかけて腹部分がきわどい位置までかぎ編みレースのようになっていて妖艶だった。おろした巻き髪とサングラスとつば広の麦わら帽子が高級マダムのようで実にベルらしい。見た瞬間にカイが両手で鼻から下を押さえて噛み締めるように目を瞑った。


 メイは真っ白なビキニの上下で、フリル付きのセクシーというより可愛い系の水着だった。だがご立派なボディとのコントラストで素晴らしい健康美が溢れ出ている。ビキニの上からかぎ編みのカーディガンを羽織り、ポニーテールにした髪がこれまた新鮮で可愛らしい。見た瞬間にリョウが悶絶して胸を押さえて膝を付いた。


「ウヒョーッ! たまらん! たまらんのう! セクシーと可愛いが同時じゃあ! どっちも御立派じゃあ!」

「オホホ! でしょうそうでしょう! 男子全員感想を述べてよくってよ!」

「へぁァ……! こっ恥ずかしいな……!」


 きゃっきゃとタツがはしゃいでいる。女子達の登場にケン達も戻って来て、感想を求められ次々と口にした。


「うむ! どちらも個性が出ているし良く似合っておる! 眼福だぞ!」

「よく分かんねえけど変とは思わねえから似合ッてんだと思う。あと腹冷えそうだなって思った。風邪引くなよ」

「完璧よ二人ともッ! 細かいアクセまでバッチリ! マーヴェラスよッ!」

「カイとリョウは? まだ感想が聞こえなくってよ!」


 打ち震えていた二人に声が掛かり、先にカイが身を正して口を開いた。恥じらいの残る顔つきで、片眼鏡モノクルをクイッする。


「えー……好みの水着を問われた際に『露出は多過ぎず少な過ぎず、セクシーさは欲しいが下品になってしまうのは宜しくないので適度』と実に曖昧なリクエストをしてしまい申し訳ないと思っておりましたが完璧です大好きですありがとうございます」

「ちゃっかりリクエストしてたんだなカイ……」

「しかもまあまあ面倒臭いリクエストだわヨッ!」

「オホホ! 苦しゅうなくってよ!」


 そして全員の視線がリョウに集まった。膝を付いていたリョウがハッと気付いてしどろもどろ口を開く。


「え、えー……御馳走様です! じゃなくて好きです! じゃない! 似合ってます!」

「笑った」

「駄々洩れではないか!」

「リョ、リョウどんもお褒め頂き……! あ、ありがとう……!」


 リョウとメイがもじつく中、水着披露も終わり全員ビーチへと繰り出した。



 * * *


「ベル殿メイ殿! 日焼け止めやサンオイル儂が塗ってやろうか~!?」

「お気遣いをありがとう! けどもう日焼け止めは塗ってあるのよ!」

「タッちゃんアタシにサンオイル塗って頂戴よ~!」

「嫌じゃが!?」

「オラッ良いから来なさいよッ!」


 自由行動という事で様々に皆動き始めた。タツが悲鳴を上げながらジラフに拉致られてゆき、ケンとガンはとっくに海遊びへ出かけていた。


「カイ?」

「はい?」

「あなたも色が白いし日焼け止めを塗った方が良いわ。いらっしゃい、わたくしが塗ってあげる」

「!? じじ自分で塗れますが!?」

「背中は無理でしょう? ほら、いらっしゃい!」


 有無を言わせずベルがぐいぐいとカイを引っ張っていった。そうして、あっという間にリョウとメイが取り残される。


「み、皆行っちまったな……!」

「そ、そうだね……!」


 双方もじつく間があるが、先に覚悟を決めたのはメイの方だった。


「リョウどん、折角だしおらと一緒に遊ばねえか……?」

「……!」

 

 メイには女子会で背を押された分の覚悟があった。それが先手を分けたのである。


「も、も、勿論……! 何して遊ぼうか……!?」

「その、おらあんまり海で遊んだ事が無くって。リョウどんのお勧めがあれば……」

「わ、分かった……! 僕もそこまで詳しくはないんだけど、最近教わったりしたから多少は分かるよ……!」


 誘いの先手を取られた不甲斐なさを挽回すべく、リョウは必死で考えた。


「クルーザーにゴーグルとかあるからさ、泳いだり海の中に潜って魚を見たりするのはどうかな……!? 海凄く綺麗だし、船からでも魚とか見えたし……!」

「わぁ……! 良いなぁ……! そうしようリョウどん!」

「よし、そうしよう!」

 

 メイが破顔して喜んでくれたので、リョウが慌てて道具を取りに駆け出そうとする。その腕をガッとメイが掴んだ。


「!?」

「リョウどん駄目だ!」

「何が!?」

「泳ぐ前は準備運動をしねえと駄目だ! 足が攣ったりすると危ねえ……!」

「そうだねえ大事だねえ……!?」


 ひとまず二人で準備運動をする事にした。

 その姿をクルーザーの方で、ジェットスキーと引っ張る為のボートを用意していたガンが目敏く見つける。


「なあ、ケン」

「どうしたガンさん」

「リョウとメイが変な体操してる」

「ほう! 早速二人で遊び始めたか! 良いぞ……!」

「リョウあいつやっぱエロいな。さりげなくメイの胸めっちゃ見てるわ」

「わはは! 間近でたわわに揺れられてはひとたまりもあるまい!」


 ケンが満足そうに大笑し、幸先は良いと確信した。まだ海での一泊二日は始まったばかりだ。

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