154 水着支給
「タツさんタツさん!」
「何じゃあ! 儂今取り込んどるんじゃけど~!?」
タツを探してケンは海上都市『ジェムドゥメール』までやって来た。相変わらず入り浸っているようで、周囲に聞くとすぐに居場所が判明する。スパに居ると聞いたので向かうと、台の上で薄着の女性にマッサージを受けている姿を発見した。
「取り込みも何もマッサージを受けているだけだろうが! 話は聞けるだろう!」
「儂の至福の時間じゃというのに~!」
「性的なマッサージなら遠慮もしようが普通のだろうが! まあ聞くがいい!」
見る限り性的ではなく普通のマッサージだったので、タツは嫌そうな顔をしているが居座る事にした。
「――……とこういう企画があってだな! 力を貸して貰いたい訳だ!」
「面倒じゃあ! どうして儂が自分以外の男のハピネスを後押ししてやらねばならんのか……! ベル殿もメイ殿も儂といちゃいちゃしてくれれば良いのにぃ~!」
「前の世界で施して来た善行精神はどうした!?」
「それはそれこれはこれ世界が違うじゃろ~!?」
嫌そうにぐでんぐでんするタツを、薄着の女性が引っ繰り返したり関節を曲げ伸ばしたり上手に操っている。マッサージ自体は極上なので、例え傍らでケンが煩くしていても癒し効果は変わらない。極上だ。
「仕方ない……すんなり承諾すれば良いものを……これでは奥の手を出すしか……」
「!? 暴力か!? また暴力か!? 暴力で儂が首を縦に振ると思ったら――!」
先日の男子会終盤のプロレス地獄を思い出したのだろう。明確にタツが怯えて逃げようとするが、マッサージ中なので逃げられない。
「いいや違う! 最初は腕の一本でも極めたら良いかと思っていたが、ガンさんに諭されてな! 違う手段を持ってきたぞ!」
「ガンナー殿ぉ~! 儂基本男は嫌いじゃけどガンナー殿の事は好きじゃよ~!」
「ガンさんを俺と争うと言ったか!?」
「そうは言っとらん! それで何じゃあ!」
ガンの諭しに心底感謝しながら促すと、渋々ケンが懐から一枚の紙を取り出した。子供が父の日や母の日に贈るような『肩たたき券』風の手書きチケットだ。
「何じゃそれは?」
「これはな! 『俺の理不尽な暴力から一度だけ逃れられる券』だ。どうだ欲しいだろう! ガンさんの発案だぞ!」
「これはやくざの手口なんじゃよガンナー殿ぉ~! 暴力が前提なんじゃよ~!」
「む、要らんか?」
「要るに決まっとるじゃろ!」
秒でタツが腕を伸ばしてチケットを引っ手繰った。
「理不尽な暴力と自分で言ってしまっている所がもう理不尽……!」
「わはは! これで取引は成立したな!?」
「仕方ないのう……! 儂はベル殿とメイ殿の水着姿が見られれば満足じゃから、小僧共の多少のアシストくらいしてやるわい!」
「流石タツさんだ! ありがとう!」
こうして平和的に取引は成立し、作戦の実行が決まった。
そうして秘密裏に計画と準備を進め、いよいよ当日が近付いてきた頃――ベルが男性陣を呼び集めた。
* * *
「水着が完成したので男性陣に支給するわよ」
「おお! ついに俺とガンさんのお揃いの水着が……!」
「アタシの超絶セクシーラブリーな水着が……!」
「本当に揃いになッたのか……」
「わー! 楽しみ楽しみ!」
「ベルのセンスなら間違いは無いでしょうね。楽しみです」
「ベル殿の呼び出しじゃからウキウキして来たのに! 水着の支給……!」
全員反応は様々だが、構わずベルが隣に立つ小人から一着ずつ受け取っては支給していく。
「まずリョウね。サーフパンツとパーカーのセットよ」
「あんまり聞いた事が無い名称だけど、短パンと羽織るやつだね。ありがとう!」
笑顔で受け取り広げてみたが、二秒後にリョウがやや固まった。
「あの、ベルさんこの柄は……」
「サツマイモ柄よ。確かメイの好物ね。作っている最中に思い出しちゃってインスピレーションを得たの」
「そ、そうですか……インスピレーションなら仕方ないね……!?」
オレンジの布地に大量の焼き芋がプリントされた上下だった。中々ポップな感じでリョウにも良く似合っている。が、何故だか少し恥ずかしそうにもじつきつつ、有難く頂戴した。
「次にカイ。リョウと同じく上下セットよ」
「ありがとうございます。これは……蝙蝠柄ですね?」
「ええ、魔王だしあなたは黒が似合うと思って」
「気に入りましたよ。大切に着ますね」
カイは黒地に白い蝙蝠柄の上下セットだった。普通に気に入り有難く頂戴する。
「ふむ、今回は柄物で攻めているのか! 楽しそうで宜しい!」
「ええ、そうよ。昼の海に似合いでしょう?」
笑顔でベルが頷き、次はタツの方を向いた。
「はい、これはタツの分よ。お酒が好きでしょう? だから可愛いカクテル柄にしたのよ。ちゃんと着て頂戴ね?」
「おお、おお、細やかな心遣い……! 儂の為ならば着なくてはならんのう!」
タツは白地に色んなカクテルがプリントされた上下セットだ。カラフルで涼し気で、面倒そうにしていたタツも気に入ったようだった。
「次は――待ちきれないお顔をしているからケン様とガンナーにしましょう」
「やったー!」
「セットじゃん……個別支給じゃねえのかよ……」
「はい、二人ともお揃いよ」
二人には濃いピンク地に水色のハートが大量に散った柄の上下セットが与えられた。ガンがハイライトの消えた目でパーカーを広げてみる。
「カーチャン……」
「我慢なさいガンナー! これでケン様が全裸じゃなくなるなら安くってよ! それに着心地は良いのだから! 着て御覧なさい!」
「うん……」
カーチャンに言われてパーカーを羽織ってみる。確かに着心地は大変良い。隣でケンも無駄に同じく羽織った。
「確かに着心地は滅茶苦茶良い……」
「わはは! よき仕事だぞベル嬢! ハート柄が特に良い! 流石である!」
「何でおまえも羽織ってんだよ!」
「オホホ! でしょうそうでしょう! 二人ともよく似合っていてよ! バカップルみたいで素敵だわ~!」
ベルが高笑った。ケンもご満悦だった。ガンはイライラしたが着心地は良いのでまあいいかと最終的に諦めた。
「最後はジラフね」
「キャア! 待ってました!」
ひとしきり高笑うと、ベルがジラフへ向き直る。
「あなたの為に最高の一着を作ったわ」
「流石ベルちゃん――――……ああ、これよこれ……!」
ジラフの場合だけ、上下揃いでは無かった。上のパーカーは無地の蛍光グリーン。それから摘まみ上げて広げた小さい布――所謂ブーメランパンツは蛍光紫地にバナナ柄の大変派手な物だった。
「ジラフさんそれちょっとセクシー過ぎない!? 布めちゃくちゃ小さいよ!? ポロリ無い!? 大丈夫!?」
「バナナ柄が意味深なんじゃよ~!」
「ウフフ! アタシの
一斉にざわつくが、ジラフ自身は至極満足の顔をしていた。
「ジラフさん良いなそれ! ベル嬢! 俺もあの形の下が欲しい!」
「やめましょうよケン! 王の中の王がポロリしますから絶対……!」
「だがあの形が一番日焼け面積が大きいぞ!?」
「ケンだけなら良いけどお揃いだとおれが死ぬから絶対にやめろ……!」
ガンの悲痛な訴えにより、ケンのブーメランは回避された。
「うふふ! ひとまずこれで全員大丈夫ね? 女子組の水着は当日こうご期待! という事で用事は終わりよ。また皆準備に勤しんで頂戴!」
「はあい!」
「はい!」
「はァい!」
皆良い返事で解散した。
その後も着々と準備は進み、いよいよ海への一泊旅行の日が訪れる。
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