153 秘密作戦
「今回の作戦は名付けて『無人島で二人きり作戦』だ!」
「無人島で二人きり……!」
「成る程、リョウとメイを無人島に置き去りにするのね?」
「ああそうだ! ベル嬢とカイさんもセットで別の島に置き去りにしようと思っている! さすればベル嬢達も密接に――」
「絶ッッッッ対に嫌……ッッ!」
ベルがテーブルを叩いて絶叫した。
「わたくし文化的じゃない生活は嫌なの! 完成式で見た映像の初期みたいな暮らしをするのでしょう!? 無理! 絶ッッ対無理……ッッ!」
「むう! 仕方あるまい! ではベル嬢達にはキャンプセット位は支給する!」
「わたくしにテントで寝ろというのケン様!?」
「生活環境ばかりに目を向けるでないぞベル嬢! これはカイさんの男としての頼りがいと真の人間性もとい魔族性を見る為のチャンスなのだ!」
吠えるベルに負けじとケンも吠え返す。
「頼りがいと魔族性……ッ」
「確かに……ベルちゃん、これはチャンスよ。いざ結婚してから豹変する男って居るでしょう? 無人島に遭難するなんて機会そうそう無いんだから、極限状態は人間性を見極めるのにぴったりよ」
「そう! そういう事だ!」
「それは……確かに…………」
ベルが難しい顔で悩み始める。
「まあ決めるのは詳細を聞いてからでも遅くあるまい。ひとまずリョウさんとメイさんの計画として提出する。まず海だが、一泊旅行として計画しよう。ジェムドゥメールからクルーザーも出してな」
「ふむふむ」
「場所はビーチが綺麗だとか言って、良さげな無人島に設定する」
ケンがざかざか図と文字を書いて説明し始める。文字の方は読めないが、図の方はベルとジラフも理解出来た。
「一日目は夜まで普通に遊ぶ。女子会での計画通りにな。して、夜になったらリョウさんとメイさんを酔い潰す」
「急に力技入れて来たわネ」
「そしてリョウさんとメイさんを無人島に置き去りにし、夜明け前に我らは発つ。置いて行ったと思われぬよう、タツさんに天候を操らせ、嵐で二人以外の乗った船が流されてしまったという風に見せかけるのだ」
「成る程、事故に見せかけるのね」
計画の全容が見えてきて、ベルとジラフも頷いている。
「ちなみにカイさんとベル嬢を組み込む場合は、同じ手口で別の無人島に置き去りにする。此方の場合はカイさんを酔い潰し、さも船が転覆して流された風を装う」
「ちょ……っとわたくしのパターンは保留にさせて頂いて宜しいかしら!?」
「ウフフ、先にリョウちゃんとメイちゃんネ! 置き去りにした後はどうするの?」
「うむ! リョウさんはサバイバルが得意だからな! 三日か一週間位は放置しても良かろう! だが万が一に備えてガンさんに空から監視させ、何事かあった場合はすぐ救援に向かう事とする!」
「それなら安心だけど……ガンナーが協力するかしら? タツも……」
「それは俺が上手い事説き伏せよう!」
計画が理解出来たので、次は問題点を潰していく。ガンとタツの協力が得られれば、良い感じに進行は出来そうだった。
「リョウとメイはそれで良いでしょうけど、わたくしとカイの場合は問題があるわ。カイは空間を繋げられるでしょう? 遭難したってすぐに戻って来られるわよ」
「そこはベル嬢の魔法で何とかならんか? 事前に無人島の方に魔封じの結界を敷いておくとか」
「わたくしの術だと気付かれ――いえ、思い付いたわ。出来るかもしれない」
「アラッ! じゃあ行けるんじゃないッ!?」
問題が無くなってしまい、ベルが小さく唸った。正直カイの頼りがいや魔族性は見たい。見たいがサバイバル生活は嫌だ。その葛藤があった。
「……ふ、不便が無いように物資を多めに頂ける?」
「ああ! 流れ着いた風を装い沢山置いておこう!」
「もし、もしやってみて無理だったらすぐ迎えに来て頂ける?」
「ああ! ガンさんに監視させるからな! 何かあったらすぐ合図をしてくれれば迎えに行くぞ!」
「ベルちゃん! 勇気を出すのよッ!」
ジラフの応援を受け、深く息を吐いたベルが確りと頷いた。
「わたくしもお願いするわ。カイとは良い関係だけれど、最近は進展が無いのも事実だから……! わたくしも! 頑張って来るわ……!」
「ああ! 応援しようぞ!」
「アタシも応援するわよッ!」
がっちりと三人で固い握手を交わし、それからは細々と作戦を詰めていった。次に必要なのは、ガンとタツの説得である。
* * *
「ガンさんガンさん!」
「何だ」
早速説得の為にケンはガンの所へ赴いた。都合よく村外れで作業をしてくれていたので、人払いの面倒も不要だ。見れば、以前に作った焼き物用の窯を作り直しているようだった。
「折り入って話がある! それは新しい窯作りか? 手伝うぞ!」
「話ィ? 何だよ。手伝うならこれな」
ガンが海上都市で貰ってきた図面を見せてくる。
「ほう、新型か」
「ああ。おまえの本に載ってた奴より新しいのがあったから図面貰ッて来た。メイとジラフがさ、女子寮を可愛いタイルで飾りたいんだッてさ。だから、自分で絵付けして焼けるように窯も組み直す事にした」
「成る程成る程。皆の為に働いて偉いではないか!」
「ンなこと当たり前だろ。で、話って何だ」
ガンが図面通りにレンガを並べながら促すので、ケンも手伝いながら、一応辺りの気配に注意は払いつつ切り出した。
「うむ、更に大事な仲間の幸せの為に働く気は無いか?」
「……? 別の仕事があんのか? 全然いいけど何……?」
「実はな――……」
ケンの打ち明けた計画に、ガンのレンガを並べる手が止まった。呆れたような顔でケンを向く。
「……おまえらほんと滅茶苦茶アクティブにあいつらくっ付けようとするじゃん」
「好き合う者同士だからな! 背を押してやるのも仲間としての愛である!」
「愛か……」
ガンが変な顔をして悩むように首を傾げる。
「どうした? 何か不満や気になる点があるか?」
「いや、おまえ単体の持ち込み企画なら兎も角、ベルとジラフも合意してるッてんならまあ間違いじゃねえんだろうし、別に良いんだけどさ」
「俺単体でも信用するべきでは?」
「煩え日頃の自分を省みろ。……まあ、どうせおれじゃ良し悪しも分からんし別に良いよ。あいつらがそれで幸せになるッてんなら手伝う」
OKは貰えたものの、含みは特に無いようだが歯切れが悪い。ケンも首を傾げた。
「……だから、おれは恋愛とか分からんじゃん。不要ッつうか、恋人が欲しいって気持ちがまず理解出来ねえの」
「うむ、分からんな!」
「あいつらが幸せになる手伝いはしてえと思うぜ? けど自分で“感じ”が分かんねえから、おまえらの言う背を押す? をしたとしてリョウ達が喜ぶかどうかも想像付かなくて、他人の判断基準で返事をするしかないッつう」
「ああ、成る程な」
やっと理解出来てケンが頷く。ガンは作業を再開している。
「最近よく聞く愛ってのも全然分からん。ただでさえ恋も分からんのに。恋の上が愛だろ? お手上げだぜ」
「まあ恋愛においてはそうかもしれんなあ」
「だからおまえのプロポーズ練習もさッぱり意味が分からんかッた」
手伝い始めたケンの動きが今度は止まる。
「詳しく?」
「ああ? だから、ただの愛は分かるんだよ。神の愛とかそういうのはな? 好きも分かる。大好きは好きが強くなッたやつだろ? その辺の感情位は流石におれにも存在するし、分かるんだよ。おまえら全員好きだし」
「うむ……」
「で、おまえから大好きまでは聞いた事はあッても、愛だの全てだのは聞いた事が無かったからさ」
そこで少し間が開く。ガンが言葉を選ぶように顔を顰めて一度首を捻り。
「何言ってんだこいつと思って……」
「刺さる! 間を取って言葉を選んだ意味が無い! 刺さる!」
心無い言葉にケンがギュッと顔を顰めて胸を押さえた。
「あれは練習だから言ったのか? それとも本当におれを何よりも愛して全てだと思ッてんのか?」
「ガンさん俺を殺そうとしているのか……!?」
「……? そりゃ約束してッし、最終的には殺すよ」
「それはそうだがそうじゃなくてだな……!?」
唐突な羞恥プレイに悶えてしまったケンとは裏腹、ガンは実に普通の顔で質問し作業も続けている。それを見るとケンも溜息のように息を吐き、レンガを積み始めた。
「そうだ。ガンさんはおれの全てで何よりも愛しているぞ」
「そうか、分からんけど分かッた」
「ああ。分からんだろうが今後も愛情表現は俺の感情発露として、したいようにしていくのでガンさんも適当に相手をするように」
「分かッた。けどエロい事や口に含まれんのは嫌だ」
「分かった。ガンさんが嫌な事はしないようにする」
「よし、頑張れ」
「うむ、頑張ろう!」
ガンの脳裏には先日の小人とのやり取りが思い出された。恋をしてくれる確約が無いとしても、恋をしてくれるまで頑張ればいい、アタックを続けると彼らは言っていた。きっとケンもそのような感じなのだろう。ならば小人にもリョウにも『頑張れ』と言った事だし、ケンにも同じ事を言ってやった。言われた方のケンは、一瞬変な顔をしたがすぐに噴き出して笑った。
「そういやタツも説得するんだろ? もう終わったのか?」
「いや、これからだ。もしごねられても腕くらい極めたら快諾してくれるだろう」
「おまえそういう所だぞ。もっと平和な説得があるから教えてやる」
「ほう! 拝聴しよう!」
こうしてケンはガンから平和な説得方法を授かり、次はタツの所へと向かった。
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