152 カーチャンタイム
――――某日某所、再び人目を忍んで密談が行われた。
「では、先日の報告をして貰おうか」
「女子会の結果、矢張りメイちゃんもリョウちゃんが気になっていると判明したわ。そしてアタシとベルちゃんは後押しを約束した――その結果が海行きよ」
「成る程、それで海だったか!」
「ええ、ひとまず水着で悩殺して貰って――他のアシストはケン様とも相談しようと思っているのよ」
ケンとベルとジラフが先日と同じ配置で薄暗い部屋の中で卓に着いている。
「男子会の方でリョウちゃんの収穫は無かったの?」
「俺は『村で一番好きな子を言う』というお題を出したのだが、生憎リョウさんには当たらなくてな」
「リョウさん『には』という事は他の誰かに当たったの? カイなら勿論わたくしと言ったわよねケン様!? ねっ!?」
「いや、カイさんには当たらなかった……ガンさんに……」
「ンマ! ガンナーちゃん! ガンナーちゃんは誰が好きなの!?」
「俺に決まっているだろう! ちゃんとガンさんの口から俺が一番と聞いたぞ!」
「それは即答したの? 言わせた訳では無いわよねケン様……?」
微妙な言い回しを目敏くベルが確認する。ケンが苦い顔で舌打ちした。
「……ッ、……二人に隠しだてしても仕方あるまい……! 即答ではない……! 全員好きだから一番など居ないが一人選ばねばならぬ故、適当にリョウさんで良いか的な感じで済ませようとしていたから……ッ!」
「そ、そこで……リョ、リョウちゃん……」
「リョ……いえ、済ませようとしていたから……?」
何故かベルとジラフが一瞬ざわついた。
「俺が殺気を送ったら……ッ、命惜しさにリョウさん達が必死でガンさんを説得し、ちゃんとガンさんは俺を一番好きだと明言してくれたのだ……ッ!」
「言わせた感が凄いわよケンちゃん……ッ!」
「リョウ以外も説得に参加したの? 普段のガンナーならケン様が殺気を送った時点で面倒を嫌ってケン様が一番と言うわよね? まだ何か隠し事がおありじゃない?」
「勘が良過ぎるだろうベル嬢……ッ!」
「幾ら女人禁制の男子会といえど、わたくしはカーチャンとしてうちの子の安否を確認しておく必要があるのよケン様。さ、白状なさって」
「ベルちゃんはガンナーちゃんの保護者なのねェ! ケンちゃん此処は洗い浚い申告しておくべきよッ! 交際するにしても保護者と揉めるのは悪手だわヨッ!」
先日の女子会での疑問からくる好奇心と併せ、ジラフのアシストを得てベルがケンを深掘りしてゆく。ケンが渋面を作って頭を抱えた。
「ぐぬ……! 俺が……俺に……ッ、当たったお題が……誰かに渾身のプロポーズを練習としてするという内容だった故……ッ!」
「これお題全て酷かった予感がするワァ~!」
「そう、プロポーズを……」
「俺はガンさんに渾身のプロポーズ(練習)をしたのだ! だが言い終える前ににべもなく斬り捨てられ……ッ!」
当時の苦痛を思い出したのだろう、いつも偉そうなケンが頭を抱えて細かく震えている。
「ちなみにそのお題はカイさんが考えた故カイさん許すまじだ……! まあそれを経てのガンさんへの質問だった為、恐らくプロポーズを斬り捨てた直後だからすぐに俺を一番と言うのは恥ずかしくての!? ラグではないかと!?」
「こんな苦悩するケンちゃん初めて見たわヨ! 苦悩しつつもポジティブゥ~!」
「成る程、カイの命乞いを含んでの説得だったのね……」
そこでベルは先日のカイの発言を思い返した。『荒ぶる原因を作ったのはガンナーなんですけどガンナーが荒ぶる原因を作ったのがそもそもケンなのでけどそれを言い始めると小人の長老が戦犯になる』という部分である。今までの話は当て嵌まっているようで当て嵌まらない。
「まだ他に懺悔がおありね? ケン様?」
「ベル嬢は千里眼の使い手なのか!? 今日はリョウさんとメイさんの相談では無いのか!?」
「勿論相談は後でします。だけど今はカーチャンの時間なの。さ、白状なさって」
「むう……!」
日頃堂々としたケンが言い辛そうに口をむぐつかせる。珍しい事だった。
「ケンちゃん、この会の成り立ちを思い出して。村で発生する恋模様をこっそり楽しませて貰いつつ、ナイスアシストをするのがこの会じゃない。リョウちゃんとメイちゃんだけじゃないわ。アタシ達はケンちゃんの恋路だって応援するわヨ!」
「そうね。カーチャンとしての立場はあるけれど、ケン様を応援すること自体はやぶさかでは無いわ。わたくし達仲間でしょう、ケン様。わたくしだってカイの事で今後相談する事があるでしょうし……ケン様だって相談して良いのよ」
優しい笑顔で二人がケンを促す。ケンが感動したように顔を上げた。
「ベル嬢……! ジラフさん……! 俺は感動しているぞ……!」
「ウフフ! 仲間ですもの! 当たり前じゃなーい!」
「うふふ、ケン様のお立場では今まで誰にも相談できなかったでしょう。わたくし達になら相談して良いのよ」
「では正直に言うが、小人の魔法のキャンディで掌サイズになったガンさんを思わず口に含もうとしたら激怒され『おまえなんか嫌いだリョウとカイとタツの方がもう好きだからな』と言われてしまい俺は地獄の悪鬼と化して一対四で大暴れした」
ベルとジラフが『ンッ?』という顔になる。
「………………」
「………………」
「だが最終的に関節技で『おまえなんか嫌いだ』は取り下げて貰ったから、今現在のガンさんは俺を村で一番好きな状態だ。つまり結果オーライ嘘ではない!」
「…………」
「…………」
「酒が! 入っていたのだ……! 仕方ないだろう! 理性が飛んでいたのだ! 普段はそんな事するものか……ッ!」
頼もしい筈の相談者達が無言なので、再びケンが頭を抱えた。
「ま、まあ……お酒が入っていたらね、仕方ないわネ……? 日々抑えていた愛情が爆発しちゃったンでしょうしね……? ね、ベルちゃん……?」
「て、掌サイズのカイが居たら確かに口に含んでみたいような気もするから、つ、強くは責められないけれど……!? け、けどカーチャンそれは許さないわよ!」
「く……ッ、カーチャンにはすまないと思っている……!」
「つ、次から気を付けて頂ける!? きちんと交際を始めるまでいかがわしい行為はカーチャン認めませんからね!?」
ベルまで歯切れが悪くなり、場は大変微妙な空気に包まれた。必死でジラフが空気を変えるように、努めて笑顔で手を叩く。
「だ、大丈夫よケンちゃん! ケンちゃんはアレよね、熱烈なラブコールの割には反応が良くないからちょっと過激になっていっちゃっただけでしょう!?」
「それはある……! ガンさんが俺につれないから……!」
「多分ね!? ガンナーちゃんはアタシが見た所――細かい分類は置いといて、簡単に言うと他者に対して性的欲求や恋愛感情を抱かない性質だと思うのよ! だから反応が悪いのであって、別にケンちゃんが嫌いな訳じゃないのヨ!」
「ああ、しっくりきたわ。確かにそうね」
ケンよりもベルが納得したように頷く。思い当たる事は幾つもあった。
「ケン様、大丈夫よ。さ、この魔女が元気の出る魔法を掛けてあげるわ」
「魔法だと……?」
怪訝にするケンへ、にっこりとベルが微笑んだ。
「ええ、これは立ち聞きした事だから本来言うべきでは無いのだけれど。内緒よ」
ぴんと人差し指を魔法を掛けるようにケンの鼻先へと突き付ける。
「以前にガンナーが『明日死んでしまうとしたら何をするか』という質問をされた事があったの。その時ガンナーは『ケンとの約束を叶える』と言ったわ」
「……!」
「明日死んでしまうという時にどうでも良い事はしないでしょう? つまり、わたくし達は約束の内容を知らないけれど。ちゃんとガンナーはケン様の事を一番に考えているわ。それに完成式の時のサッシュだって。ケン様の求愛に応えるだけが感情表現ではないと、本当は理解しておいででしょう?」
何度か瞬きをしたケンが、珍しくはにかむように頬を掻いた。
「むう……そう言われてしまうと今後悪ふざけがし辛くなるではないか……!」
「うふふ、けれど元気は出たでしょう?」
「流石魔女ねェ~! 素敵な魔法だワ!」
「元気は――出た! 感謝するぞベル嬢! ジラフさんも!」
ケンの内心は分からない。だが笑顔で頷いた顔は何よりも嬉しそうだった。
「まあただし辛くなっただけで今後も悪ふざけは続ける訳だが。愛故に。俺はそれはもうガンさんが大好きなので」
「愛故と大好きなら仕方ないわネッ」
「きちんと交際するまではカーチャンいかがわしい行為は許しませんからね!」
テンドンのような押収をして、それから全員でどっと笑った。
「わはは! さて、本題に戻ろう。海だろう? よい作戦を思いついたぞ!」
「ンマ! 何かしらッ!」
「まあ、リョウとメイが急接近するような素敵な作戦かしら!?」
「リョウさんとメイさんは勿論! お返しではないがベル嬢とカイさんまでもが急接近出来るような作戦であるッッ!」
「!?」
急に自分が巻き込まれてベルが目を見開いた。
「えっ、えっ……!?」
「説明しよう! ジラフさん、何か書く物を!」
「はァい!」
ジラフが卓上に大きな紙を広げ、ケンがペンを手に持ち大声で説明し始めた。
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