151 発表

 女子・男子会同時開催の翌朝。

 女子組が楽しく村へ戻って来ると、男達がぐったりとツリーハウスの休憩場に転がっていた。


「アラッ! 皆死にかけじゃないのヨッ! あと酒臭ッッ!」

「オホホ! 激しい男子会だったようね……!」

「わぁ、皆二日酔いか? 今お水持って来るからな……!?」


「わはは! 皆二日酔いと乱闘の疲れだぞ!」


 慌ててメイが水を汲みに行く傍ら、一人だけ元気なケンが高笑いしている。


「儂は二日酔いなどせん……! 体中がバッキバキなだけじゃあ……!」

「おれも一杯しか飲んでねえ……! ただ疲れて動けねえだけだ……ッ!」

「僕も全身バッキバキと二日酔いですう……!」

「私も同じくですう……! ウッ、頭がガンガンする……!」


「乱闘って皆で相撲でも取ったの!? それならアタシも混ざりたかったわヨッ!」

「違う、ケン対残りで終盤プロレスしてたんだよ……!」

「ケンさんが荒ぶるから……!」

「荒ぶる原因を作ったのはガンナーなんですけどガンナーが荒ぶる原因を作ったのがそもそもケンなのでけどそれを言い始めると小人の長老が戦犯になるので……ッ!」

「全然伝わって来ないけれど、楽しんだようで何よりだわ。よくってよ」


 ベルに『よくってよ』されている内にメイが水のグラスが載ったお盆を抱えて戻って来る。


「嗚呼、ありがとうございますメイ……」

「男子会ってのは中々激しいんだな? けど怪我は無さそうだし、暴れるのも何だか男の子らしくて良いなぁ?」

「覇王ドライバー喰らった時は死ぬと思ったけどね!? お水ありがとう……!」

「儂も覇王バスター喰らった時は涅槃を見たんじゃよ……」


 よろよろとケン以外が水を飲んで染み渡ったような顔をするが、依然ぐったりしている。ダメージは深いのだ。


「ふん、一対四で負ける方が悪いだろう! 鍛えが足りんのだ鍛えが!」

「煩え筋肉馬鹿! そういう事は巨人の祝福捨ててから言えや!」

「はいはい、喧嘩しないの! お疲れの殿方には素敵な発表がありますからね!」

「素敵な発表……?」


 ベルが両手を広げて皆の注目を集めた。


「ええ、とっても素敵な発表! きっと二日酔いなんか吹き飛んでしまうわ!」

「え、なになに……?」

「二日酔いが吹き飛ぶほど……?」


 ゾンビのような動きでリョウとカイがベルの方を向く。何故だか発表を前にメイは頬を赤くし、ジラフはニヤニヤとしていた。


「近日! 皆で海へ遊びに行きましょう!」

「ゲエッ! 海……!」

「地獄を見て来たばかりの海……ッ!」


 発表にガンとタツが突っ伏す。その様子を見てベルがフッと笑った。


「あなた達が海でどんな酷い目に遭って来たかは知らないけれど、これは楽しい海よ! 皆で水着を着て遊びに行きますからね!」

「水着……ッ!」

「み、水着……!」

「水着じゃと……!?」


 リョウとカイが目をカッ開いた。突っ伏したタツも顔を凄い勢いで上げた。


「み、水着ってあのー……水着ですか?」

「そうよリョウ、泳ぐ時に着るあの水着よ」

「ベッ、ベルも着るのですか……!?」

「そうよカイ。後であなたの好みの水着を教えて頂戴ね」


 にっこりと聖母のような顔でベルが微笑む。

 そう、これこそが女子会で考案した『ひとまず皆で海へ行きメイの水着姿というか巨乳っぷりをリョウに見せつけ辛抱たまらん状態にまで追い込む』作戦である。どう見てもメイに気があるリョウの尻を叩く為の物理作戦なのである。


「た……た……楽しみです……」

「ぼ、僕も楽しみです……」

「儂も漲ってきたんじゃよ……」

「オホホ! そうでしょうそうでしょう! あなた達にも似合いの水着を作ってあげますからねっ!」

 

 地獄から天国に来たような感動で、リョウとカイとタツが打ち震えて頷く。そこでガンが首を傾げた。


「なあ、ベル」

「どうしたのガンナー?」

「ケンがいつも泳ぐ時全裸なんだけどさ、それは許されるのか?」

「許されないわね。ケン様?」

「何だ! 俺はいつどんな時も全裸だったぞ!?」


 ベルがケンを見遣ると、自信満々に全裸を主張してくる。


「ケン様よくって? 以前の世界ではあなたが全裸でも咎めるような方は居なかったでしょう。けれどこの世界では駄目よ。殿方だけの場なら良いけれど」

「だが! 尻が! 日焼けせず残るだろう!」

「ガンナーとお揃いの水着を作ってあげると言っても? 尻の日焼けを優先すると仰るの?」

「……!」


 ケンが目をカッ開いた。


「尻の日焼けが何だ! ご婦人への配慮は必要だな!? 許す……!」

「オホホ! ご納得頂けて何よりだわ!」

「え……おれケンとお揃いになんの……?」

 

 ガッシとベルとケンが握手を交わす。ガンだけが微妙な顔をした。


「アタシも超絶セクシーな水着作って貰っちゃおうかしらッ! メイちゃんもとびきり可愛い水着作って貰いましょうネッ!」

「ふ、ふへぇ……! そ、そうだな……! 楽しみです……!」


 こうして近日皆で海へ遊びに行く事が決まり、疲弊した男子の多くが目覚ましい回復を見せたのだった。



 * * *



 一方その頃、天界では新たな事件が起きていた。


「これは……」

「わがとも、どうしたのですか?」

 

 難しい顔でカピバラの神が“上の神々”から届いた指示書を眺めている。それを不思議そうにマーモットの神が覗き込み、首を傾げた。


「上の神々からの指示書です。我が友も読んで御覧なさい」

「はい……」


 指示書は黄金の石板のような形をしており、手に取ると文字が光るように浮かび上がって読めるようになっている。マーモットの神もじっと目を通し、すぐに目を丸くした。


「これは……なっとくできるりゆうだけど、けど……これからのけいかくがぜんぶくるってしまいますね……」

「そうなんです。とはいえ上からの指示ですので、これは私達の計画をずらすしかないですね……」

「むう、せっかくがんばってきたのに! けどこれもたのしそうだからいいです!」


 マーモットの神がぷうと頬を膨らませたが、すぐに気を取り直して石板をカピバラの神へと返す。


「やること、たくさんです。てわけしてつくらないといけません」

「そうですね、その方が良いでしょう。我が友はどちらを担当したいですか?」

「わたしはたてもののほうをつくります。せいぶつは、あなたのほうがじょうずだもの。そのほうがきっといいわ」

「分かりました。では生物は私が担当します」


 褒められて少しはにかんだカピバラの神が頷く。


「ケンたちへのれんらくはどうするの?」

「ああ……ええと、また勝手にしたら怒られるかなあ……」

「どうかしら……けど、かんせいしてからみせたほうがおこられるのはいちどですむかもしれない……?」

「怒られる前提なのが嫌だなあ……」


 今まで散々不手際を怒られてきたので、カピバラの神が思い出してしんなりする。マーモットの神も一瞬しんなりしたが、すぐに気を取り直した。

 

「けど、けど! あんがい、おもしろがっておこらないでくれるかも! わたしは、おもしろいけいかくだとおもうわ!」

「そうかな? ……じゃあ、頑張って二人で創りあげましょう!」

「はい、そうしましょう! もうしっぱいしません!」


 にーっとマーモットの神が笑うので、カピバラの神もつられて笑った。


「おこられるにしても、よろこばれるにしても、かんせいしてからみせてしまえばどうもできません! じごしょうだくです!」

「我が友、ベルの影響ですかね……? 強くなりましたね……?」


 えへんするマーモットの神に眉を垂らして、それでも心強いとばかりに頷いた。


「では、早速作業に掛かりましょう」

「はい、これはじかんがかかります。いっぱいがんばらないと」

「はい、頑張りましょう!」


 二人の神がハイタッチし、忙しそうに駆けてゆく。

 今は謎だが、その内英雄達に披露される事なのだと思われた。

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