147 男子会①

 一方男子会の面々は、海辺の砂浜へと来ていた。

 丸太を組み上げたキャンプファイヤーがあかあかと燃え周囲を明るく照らしている。他には料理が置けるテーブルと人数分の椅子、その傍らには大量の酒樽が積まれ、少し離れた場所には休憩用のテントがあった。


「カイさんゲートを閉じるのだ! タツさんの逃げ場を無くせ!」

「えっええ……はい」

「それは鬼畜の所業なんじゃよ!?」

「お料理並べるよ~!」

「おー」


 ゲートが無情に閉じられタツが逃げ場を無くす。リョウがケン倉庫に入れて来た作り置き料理を並べる間に、ガンが酒を配って皆着席した。


「ガンさんお酒弱いのに大丈夫?」

「寝ちまうから最初の一杯だけで後は酒以外飲む。おまえらは浴びていいよ」

「浴びるって何です……!?」

「ウッウッ、酒がある事だけが救いじゃあ……!」

「よし、では始めるか! 今回はガンさんの主催だからガンさんが挨拶をするぞ!」


 全員木のジョッキを持ってガンを見る。


「えー、今回は女子会に対抗した男子会です。テストプレイを兼ねます。よろしく」

「何のテストプレイですか!?」

「火の輪の謎もまだ解決してないんだよなあ!?」

「本当に男子会なんじゃろうな!?」

「まあまあまあまあ!」


「だッから、世界ごとに感じが違うから正解の男子会が無えんだよ! ひとまずやッてみて、問題点を修正し最終的にこの世界に適した男子会まで育てる!」

「わはは! 俺達がこの世界の新たな始祖だからな! 歴史と伝統の最初を自由に紡げると思うと気分が良い!」

「そういう事だ! ひとまずかんぱーい!」

 

「乾杯!」

「あっはい、乾杯……!」

「かんぱーい!」

「ウッウッ……乾杯なんじゃよ……!」


 ごつごつとジョッキがぶつかり勢いよく酒を散らしつつ乾杯。一抹の不安はあるものの、確かに新しい歴史の最初の人類な訳だからそう考えると少しわくわくもする。一息に半分ほど飲み干して、皆それぞれ料理にも手を伸ばし始めた。


「ガンさんガンさん、僕はこうやって普通に飲み会をするものだと思っていたんだけれど、何か特別な事をするの?」

「おれそういうの詳しくねえから、色々聞いて調べて来たんだよ」

「おお、偉いですねえガンナー!」

「儂聞かれとらんけど、誰に聞いたんじゃあ?」

「ケンとベルと小人の長老に聞いた」


「聞く人選偏ってなぁい……!?」

「わはは! 三分の一は俺のせいだぞ!」

「せいって言ってしまってるじゃないですか……!」

「とりあえず酒を浴びるように飲んで、後は貪るように肉を喰え。バカ騒ぎをしろ。おれはその間に準備する……」

「その作法絶対ケンさんでしょう!? いいけど! お肉好きだけど!」


 何だかんだ言いつつ酒を飲み肉を貪り雑談をしている内に、ガンが“準備”とやらを始めている。浜辺に組んだ“火の輪”に火を灯し、何か四角いものや細々した他を抱えて戻って来た。


「なぁ、本当に火の輪が用意されとるんじゃが……!?」

「誰の何を参考にしたんだよ!」

「あれはケンの世界の文化だ。興が乗って来たら潜っていいぞ。それか罰ゲームで潜ってもいい。後おれは軍できちんと防火講習を受けてッから火事は無い安心しろ」

「やっぱりケン発じゃないですか! 罰ゲームって何なんです!?」

「俺の世界では潜る者が確かに居たが罰ゲームは知らんぞ!?」

 

「罰ゲームはベル発だな。お題トークをパスしたい時に、幾つかある罰ゲームの中からひとつ選んで貰う」

「ベルさぁん……!」

「カイ殿! これは貴殿の責任にならんかの!?」

「そそそそんな責任は取れません……!」

「ほう! お題トークと言ったか!?」


 火の輪だの罰ゲームだの不穏な中、お題トークという響きは楽し気だった。頷いたガンが、バスケットボール程のサイズの立方体を掲げる。


「これはベルがくれた、柔らかい素材で出来たサイコロだ。順番に振って、当たった番号のお題の話をして貰う――という遊びらしい」

「あ、それは面白そう」

「いいですねえ!」

「お題は決まっているのか?」

「や、キツいのと無難なの混ぜろッて言われたけど、おれじゃ分かんねえからおまえら一個ずつ出せよ。全員ひとつずつ出して、それに番号振ろう」


「じゃあ儂『最近自慰する時のオカズを語って下さい!』にしようかの!」

「じゃあ俺は『村で一番好きな子を正直に言うこと!』にしよう!」

「キツい! もうキツい! もう地雷がふたつもある……ッ!」

「ヒエェ……!」

「リョウとカイはどうすんだ?」


 ガンが出されたお題をメモしながら二人を見る。リョウとカイは顔を見合わせて、ひそひそ――といっても皆の目の前だが相談し始めた。


「ど、どうする? カイさんどうする?」

「明らかに地雷がふたつありますので、我々は無難なお題がベストかとは思うのですが……」

「そうだよね、僕もそう思うんだけどさ……もし、もしだよ? ケンさんとタツさんに無難が当たって、僕らが地雷を踏んだら完全に負け戦になるじゃない……?」

「そう、懸念はそこなんです……!」


「滅茶苦茶普通に聞こえとるんじゃよ~!」

「わはは! 作戦会議など笑止!」

「会議くらいさせてよ! いいでしょ!?」

「ちなみにおれのお題は『前の世界での武勇伝』だ。あと全員お題出してもひとつ足んねえから、面のひとつはトークじゃなくて『即罰ゲーム』にする」

「!?」

「!?」


 きっと無難を出してくれると信じていたガンまでもが、無難は出してくれたものの罰ゲーム面のせいで敵に回ってしまった。二人はガンを二度見してからまた額を突き合わせる。


「……リョウ、これは低い可能性に賭けるか――もしくは全て地獄のお題にして死なば諸共にするかのどちらかしかありません」

「そう、そうだね……」

「どちらが良いですか……私は親友のリョウへ付き従いましょう……!」

「カイさん……! そうやって自らの選択を避けた訳じゃないよね……!?」

「いえ、滅相も……!」


「うける」

「わはは! あそこの友情は意外と容易く相手を売るからな!」

「ちょっと外野黙ってェ!」


 選択を任され、リョウは考えに考え抜いた。二人が無難を出した場合、二分の一の確率で無難を引けば生き残れる。二分の一だ。有利にも思えるしリスキーにも思える。果たして自分とカイ、両方が生き残れるだろうか? 例えばカイが生き残り自分だけが地獄を見た時に、自分はカイを妬まずに居られるだろうか? それは置くとしてもケンとタツが生き残り、自分達だけが地獄を見た時が最悪だ。絶対に悔しい。間違いなく悔しい。そのようなあらゆる可能性と浮かんだ感情を吟味し、ややありリョウは答えを出した。


「カイさん……全て地獄にしよう。例え僕らが死んだとしても、ケンさんとタツさんが高笑いしているのは許されない……ッ!」

「リョウ……! そんなに……! 分かりました、お供しましょう……!」

「何でおまえらそんなリョウのヘイト稼いでんだよ」

「ッはは! 俺は日頃の行いだろうな!」

「儂はケン殿の巻き添えを喰らってる感じがするんじゃよ~!」


 最悪無理なお題だった時は火の輪を潜れば良い事と自身に言い聞かせながら、リョウとカイはケンとタツが苦しみそうなお題を必死で考えている。ややありカイが挙手した。


「はい」

「おう、カイ」

「私は『渾身のプロポーズ台詞をこの場の誰かに向けて言ってみましょう! いつか来るかもしれない時の練習ですよ!』にします」

「えっ……この場の誰か……」

「ええ……言うだけではあの二人にダメージは与えられません。言う相手が男しか居ないのならば、タツさん辺りは相当の地獄を味わう筈です……!」

「それ言われる方も地獄を見ねえか? まあいいや、採用……」

「カイ殿!?」


「ほう、中々のお題を繰り出して来たなカイさんは……!」

「く……ッ! 僕も負けていられないぞ……!」

「わはは! 俺が苦しむようなお題を果たして考え付けるかな!?」

「ケン殿煽っていくのう~!」


 カイのお題が当たれば間違いなくタツが地獄を見る。そう確信したリョウは煽って来るケンをギリギリと見つつ必死で思考を巡らせた。


「そうか、あのお題なら――いや、これは親睦を深める為の会……! ケンさんだけを苦しめる為のお題を出すべきではない……!」

「採用しねえけどケンだけを苦しめる為のお題って何?」

「いや、えっと『ガンさんと目を合わせたままガンさんへ日頃の不満をぶつける』というのを最初に思い付いたんだけど矢張りこれは適当ではないと思い……!」

「リョウさん悪魔か!? 嫌われたらどうしてくれる!? やめろやめろ……ッ!」


 ケンが青くなった。採用はされないが効いている。

 

「笑った。流石にピンポイント過ぎるだろ。他の出せよ」

「そうだね……じゃあ『今までの人生で一番恥ずかしかった失敗談』にするよ」

「お、結構普通じゃん」

「ただし『語尾に“にゃん”を付けて話すこと』でお願いします」

「……………………」


 思わず全員黙り、それから全員深く息を吐いた。


「ふー……ッ、リョウさんも中々本気を出して来たな……! これは格の違いというものを思い知らせてやらねばなるまい……!」

「それはこっちの台詞なんだよケンさぁん……! 奇跡も下克上もあるんだよッ!」

「はあぁ……これは調子に乗り過ぎじゃあ。若造どもに地獄を見せてやらねばならんなぁ……!」

「ふふ、ただでは死にませんから……! 全員地獄に落ちて頂きます……!」

「何だこの闇のゲーム……?」


 ベルが言っていたのとちょっと違う感じになったような気がしたが、全員無駄に肩を回したりストレッチをしたり自らの頬を叩いたり、何故か謎のやる気に満ちてきたのでまあいいかと思った。


「じゃあ順番に行くぞ~」


 ――――かくして、闇のゲームが幕を開けた。

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