146 女子会②

「待って、待って待って待って待って! それは無いわよ!」

「そうよ! リョウちゃんは男ならカイちゃんと良い仲の筈よッ!」

「ジラフその言い方もどうなのッ!?」

「親友同士ッて言いたかったんだけど何かごめんなさいネ!?」


 斜め上の誤解にベルとジラフも思わず慌てた。


「……ち、違うのか…………?」

「そうよ! リョウは間違いなく男じゃなくて女が好き! わたくしの胸を見過ぎてビンタされた事がある位、女が好きなの!」

「ベッ、ベルどんの胸」

「言い方が悪かったわ! 別にリョウがわたくしを好きな訳じゃあないの! リョウは巨乳が好きなの……ッ! 海上都市に初めて行った時、夜の接待をどうするか悩んだ位には女性に飢えているだけなの……ッ! 誤解しないであげて!」

「ベルちゃんその言い方もどうかと思うワァ!」


 あずかり知らぬ所でリョウの巨乳好きが暴露されながら、ベルの必死の説得で徐々にメイも誤解なのかと気付き始める。


「じゃ、じゃあガンナーどんとの約束は……」

「それはね、カイから聞いた事があるのだけど――最初の二人のケン様とガンナーからの伝統らしいわ。ケン様の望みをガンナーが叶える代わりに、ケン様はガンナーと一緒に居るらしいのね」

「へぇ……」

「それで、次はガンナーの望みをリョウが叶える代わりにガンナーはずっとリョウと一緒に居てあげ――続きがあるから誤解しないのよ!?」

「へ、へぇ……!」


 メイがまた『やっぱり!』とならないように先手も打つ。


「その時のガンナーの望みが『毎日リョウのご飯が食べたい』だったのよ。前の世界でも、ケン様と二人でのサバイバル生活でも、あの子はまともな美味しい料理を食べた事が無かったから。それで約束したの」

「ガンナーどんが不憫すぎる……!」

「その後でカイがこの世界にやって来て、今度は順番でリョウとカイが約束をしたわ。あの二人は勇者と魔王で対立する生き方をしてきたでしょう? 和解する時に『ずっと友達で居よう』って約束したの」


「成る程。アタシ達の知らない歴史があるのネェ~!」

「伝統……成る程……」

「それで、次はカイとわたくしが約束をしたのよ。だから伝統的な順番の約束。わたくしの次が小人達だったから、今では有耶無耶になってしまった伝統だけれど。そういう約束だから、恋愛は関係無いのよ。分かった?」

「へ、へぇ…………分かったです……」


 まだ不安そうにしながらも、メイが必死に噛み砕いている。


「リョウどんは女が好き……リョウどんは巨乳が好き…………リョウどんとガンナーどんは良い仲ではねえ……」

「ごめんなさい。巨乳は本当にちょっとよくない刷り込みをしてしまったわ……」

「あのう……」

「なあに?」

「その、すまねえ……一応……ガンナーどんがリョウどんを好きという事は……? ガンナーどん、性別なんか気にしねえって言っとったし……!」

「ンン……!」


 不安が故の細部までの確認に、ジラフが飲みかけのカクテルを噴きそうになる。

 

「無い! 無いわよ……ッ!」

「ゲッホ……! 無いと思うけど!?」

「ガンナーはそもそも恋愛に一切興味が無いの! 未だに小人達から永遠にぽふられる位、赤ん坊みたいに俗ッ気の無い精神性なんだから! 無いわよ!」

「そ、そうよッ! それにガンナーちゃんにはもうケンちゃんが居るでしょう!?」

「!?」

「!?」


 咄嗟の発言に、メイとベルがジラフを二度見する。


「えっ!? あの二人“そう”なのか……!?」

「確証を得たの!? ジラフ……!?」

「い、いえ……ッ! 確証を得た訳では無いのだけど……ッ! 少なくともケンちゃんはガンナーちゃんが大好きよね!? 日々見ていて分かるもの!?」

「それはそう」

「それはおらも思います」


「明らかに好きよね」

「大好きだなあと思って、いっつも微笑ましく見とります」

「アタシも日々観察していて、こう、デキている風もケンちゃんが口説いている所も見た訳では無いのだけれど――上手くは言えないンだけど、ケンちゃん明らかにガンナーちゃん大好きじゃない?」

「分かるわよ。ガンナーがそういうのに興味が無いからか、一切色気は出してない感じだけれど、兎に角大好きだわ。ガンナーという箱を箱推ししている感じ……」

 

 横道に逸れたが、それはそれで日々気になっていた事なのでリョウの事はひとまず置いて、ガンナーが白目を剥きそうな話題が展開されている。


「そう、それよ。箱推し。箱の中には恋愛だとか友情だとか家族愛だとか他にも色々要素が入っているンだけど、どれかひとつを取り出そうとするのではなく箱ごと愛でている感じがするのヨッ……!」

「はぁぁ、そう言われると納得しちまうな……!?」

「アガペー……無償の愛に一見思えるけど、ケン様だから無欲な筈は無いとも思うんだけど、その辺りをわたくし達が突いてしまうとよくない気がして今は何も出来ないのよね……」


「そのう、ケンどんとガンナーどんは何の約束をしたんだろ……?」

「その情報は何も無いのよ。古参のリョウですら知らないわ」

「その辺りに鍵がありそうだけど――じゃなくッて! あの二人は今後も要観察! だけどそれは良いのよ! つまりアタシが言いたいのはねッ!」

「そういえばガンナーがリョウを好きなのかどうかという話だったわ」


 ジラフが真剣な顔でメイを見詰める。メイもごくりと唾を飲み込んで見返した。


「いい、メイちゃん? もしガンナーちゃんがリョウちゃんを好きだったら、ケンちゃんが黙っていると思う? リョウちゃんが無事に生きているのが『そんな事実は無い』事の証明じゃない?」

「…………ッッ! 確かに……ッ!」


 メイが稲妻に打たれたような顔をする。


「何という説得力――……ケン様なら絶対に、リョウにくれてやる位ならと思うだろうし、何なら存在を消しかねないわね……ジラフ、素晴らしい証明だったわ」

「確かに……確かにそうだぁ……! すまねえ……各方面にすまねえ……! おらの疑念はすっかり無くなったです……!」

 

 此処に男子達が居たならば、あらゆる苦情と文句が出そうな納得だったが、これ以上ない証明によってついにメイも全てを受け入れた。


「そ、そうかぁ……リョウどん、フリーだったんかぁ…………」


 改めて真っ赤にした頬を押さえ、メイがおろおろと視線を彷徨わせ始める。


「そうよ! それにあなたはリョウ好みの巨乳! 可愛いし性格もよくってよ! 何も諦める必要は無いわね……ッ!?」

「アタシ達も応援してあげるから頑張りなさいなッ!」

「ウッ、ウウ……ッ、が、頑張る……頑張ります……! その、そのう……! いきなりお付き合いなんて大それた事は考えてねんだけど、今よりもっと仲良くなれたら良いなぁ……とは……っ!」


「ヨッシャ! 女子会らしくなってきたわヨォッッ!」

「まずは気になった切欠から細かに聞かせて貰いたい所だわね! それから作戦を練りましょうねっ!」

「き、きっかけ……はぁ……!」


 ジラフとベルの勢いに圧されて、メイがぽつぽつと気になり始めた切欠を語り始めた。最初は呪塊と同化して絶望していた時に、優しく気さくに話してくれたこと。自分の酷い状態を気には掛けつつも、嫌な顔も疎ましい顔も見せずに対等の存在として話してくれたこと。一切の躊躇を見せずに仲間として救おうとしてくれたこと。


 それが泣きたい位嬉しくて、絶望していた心に希望を灯してくれたこと。呪塊を斬る時に掛けてくれた言葉。優しさに胸が震えたこと。光の勇者の姿はあまりに恰好良くて、とびきりハンサムに映ったこと。だけど自分は飛びついてしまう位感動したけど、彼から見たら自分は粘ついた呪いの塊だったし、そもそも女性と思われていなくて、性別が分かった後も自分は巨人族だからと諦めていたこと。


 だけど彼が優しくて、たまに気があるような素振りを見せるものだからずっとドキドキしていたこと等々。包み隠さず“女友達”に打ち明けて、相談に乗って貰った。

 その後は皆で作戦を立てたり、お返しにベルとカイの仲の事を聞いたり、ジラフの過去の恋愛話なども披露して貰ったり、女子達の語らいは夜中まで続いた。

 

 一瞬行方が怪しかった女子会も、夜が明ける頃には皆大満足で――更に仲良く、女の友情を深めて眠りについたのだった。

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