145 女子会①

 それから数日、ついに女子会と男子会の同時開催の日が訪れた。


「じゃあ行って来るわね。殿方達も楽しんで頂戴」

「行ってきます!」

「ウフッ! 楽しんで来るわネッ!」


「行ってらっしゃい!」

「おー」

「其方も楽しんで来て下さいね」

「何でじゃあ!? ジラフどんが許されるなら儂も女子会に混ざってよかろ……!?」

「わはは! よかろう筈が無いだろう! 強制参加と言った筈だ!」


 じたばた暴れるタツとそれをがっちり押さえるケン以外は、実に平和ににこやかに海上都市へ出かける女子達を見送った。時刻は夕方。夕食から明日の朝までそれぞれ女子と男子で分かれて過ごす、まるで村の行事のようになった。


「俺達も移動するか!」

「あァ。火の輪潜りがジャングルだとちょっと危ねえかなと思って、会場は別の所に用意してある。こっちだ」

「火の輪潜り!?」

「何ですそれ聞いてないですけど!?」

「これ本当に男子会か!? 何の会に儂は強制参加させられとるんじゃ!?」

「まあまあまあまあ!」


 火の輪潜りにざわめく三人を『まあ』でケンが押し切り、結局男達も移動する事になった。尚嫌がって暴れるタツはケンに担がれて行った。



 * * *



 不穏な男子達とは違い、女子達は問題無く海上都市のピンクの城に辿り着き――早速着替えて女子会を開始した。

 

 本日選んだ部屋は『ロマンティックプリンセス』がテーマの、贅沢で大変可愛いパーティールームだ。扉や机、窓枠など木製の物は全て純白。カーテンやクッション、ベッドシーツやソファの布材に至るまで全てパステルピンクのフリル付き。至る所にポイントとして少し濃いピンクの薔薇が飾られ、天井から吊り下がるシャンデリアまでピンクという、まさに夢見るプリンセスが住んでいそうな部屋だった。


「ちょっとォ~! お料理最高じゃない!?」

「本当に、行き届いているわね。よくってよ」

「ハァ! 可愛い! 食べるの勿体ねえなぁ!」


 並んだ料理は宝石のように飾られた数種のカナッペやブルスケッタ、ピンチョスなどの摘まみやすい物を皮切りに、カラフルな手まり寿司、生春巻きやローストビーフ、サラダ、チーズボールやフライドフィッシュ等の揚げ物、ピザやパスタにパエリアなどのがっつり系まで抜かりなく用意されていた。野菜やハムが薔薇の形になっていてとても可愛い。


 ドリンクはノンアルからお酒まで色んな種類が用意されており、好みを伝えるとお洒落で可愛いカクテルまで届けてくれるようだった。至れり尽くせりである。

 デザートやお菓子もアフタヌーンティーセットのようにスタンドに幾つも可愛らしいマカロンやチョコレート、ミニケーキが揃っており申し分ない。

 

「うふふ、またいつでも開催すれば食べられるわ。じゃ、始めるわよ!」


 プリンセスが着るような、薄っすら透ける素材を重ねたレースたっぷりのネグリジェを纏ったベルが音頭を取る。花とフルーツで飾られた可愛いカクテルグラスを持つと二人を見て促した。


「はァい! 記念すべき第1回女子会ネッ! 今夜は夜通し楽しむわよォ~ッ!」


 仕立ての良いシルク素材、ピンク地にフラミンゴ柄の開襟パジャマを纏ったジラフも笑顔でカクテルグラスを掲げる。


「ふへぇ……! こんな素敵な所で女子会出来るなんて思っとらんかった……! 嬉しいなぁ、今日はベルどんとジラフどんともっと仲良くなりてえです!」


 パステルカラーのもこもこ素材、上はパーカー、下は短パン型のセットアップを纏ったメイも満面でカクテルグラスを掲げる。そして三人とも作法という事で、大変可愛いヘッドバンドも装着していた。

 

 ベルの開会宣言でグラスをぶつけ、すぐに賑やかな女子会が始まった。最初は当たり障りない、もう村には慣れたかだとか最近はこんな事があっただとか、楽しい世間話だった。それがふとした切っ掛けから美容の話になり、スキンケアからボディケアの話になり、更にボディメイクの話となり――ついに時が来た。


「ベルどんは本当にスタイル良いし、何もかも綺麗で憧れるなぁ。何をどうしたらそんな風になれるんだろ……」

「わたくしはこの体型を維持する為に、色んな場所を鍛えているのよ。例えばヒップアップがしたかったらこのトレーニング、みたいに。ちゃんと努力をしているの。まあ元の素材が良いというのもあるけれど! オホホ!」

「尻を鍛えるという発想がそもそもおらに無かったです! すごい!」


「メイちゃんだって別にスタイル悪くないわよ~? 自然体でその体型なら十分じゃなァい?」

「いや、だども……おら、おら……もっと綺麗になりたくて……っ」

「……!」


 もごもごするメイを見て、一瞬のアイコンタクトがベルとジラフの間で行われた。


「ひょっとして……誰か気になる殿方でも居るのかしら……?」

「そっすっ、そそそ、そういう訳では……っ!?」

「流石にどもり過ぎじゃない? ちょっと笑っちゃったわヨ!」

「いいのよ、此処にはわたくしとジラフしか居ないのだから正直に話して。誰にも言わないし、何なら応援だってしてあげるのだから!」

「ウウッ……!」


 耳まで赤くして、メイが俯きどうしようかと目線を彷徨わせる。ベルとジラフは聖母のような顔でにこにこと見守った。


「そ、の……おらは、こんな田舎者だから……っ、ベルどんみてえに洗練された女性ってのに憧れがあるんです……っ! 気になる人とかは、関係なくて……そういう気持ちもちゃんとあって……っ」

「も?」

「そういう気持ち『も』と言ったわね」

「ひぇ……!」


 ああううと顔を真っ赤にして頬を押さえ、ぎゅっと目を瞑ると観念したようにメイが絞り出した。


「そ、のっ、気になっとる人は……居るんだども……っ、とてもおらでは……っ!」

「最初から諦めるものではなくってよ!」

「そうよッ! メイちゃんは可愛いし性格も良い素晴らしいお嬢さんよッ!」

「ウウッ……! けど、けど……っ! おら、こんなでっけえし……!」

「大きさが何よ! 大は小を兼ねるのヨッ!」

「あと、っ……後……! 多分もう、お相手が……っ、居る……みてえで……!?」


「!?」

「!?」


 予想外の言葉に空気が凍った。今この村で相手が居るとなると、小人達かベルとカイしか居ない。居ない筈だ。


「カッ、カッカッ、カイは駄目よ!? ごめんなさい本当に申し訳ないけれどカイは駄目! 絶対駄目カイはわたくしのカイなの……ッッッ!」

「この状況でごめんなさいだけど『わたくしのカイ』にキュンッとしたわ今!」

「カカカッ、カイどんじゃねえです!」

「えっ!? じゃあ小人!?」

「小人どんでもねえです……っ!」


「えっ!? じゃあ誰だというの!?」

「他に相手が居る人居なくないかしらッ!?」


 本気でメイが気になる人が分からなくなり、えっじゃあカピバラの神? そんな……? まで想像し掛けた時、漸くメイが口を割った。


「リョ、リョウどんが……おら、気になっとるんだどもぉ……っ! ううっ、絶対誰にも言わねえでな!?」

「良かったリョウだった……! 言いませんとも! けどリョウでしょ!? 相手なんか……」

「リョウちゃんにお相手が居るっていうお話聞いた事が無いんだけど……ッ!?」

「え、え……っ、そうなのか……? けど、だって……」


 メイまで混乱しながら、頬を押さえたままぐねぐねした。


「ちょ、ちょっと細けえ経緯は省かせて貰って……! こないだ……こないだ……っ、リョウどんがな? おらに食事を一生作ってくれるって言って、ドキッとしたんだども……!」

「ンマ!」

「プロポーズめいてるわね……! というかわたくし達から見てもリョウはあなたが気になっていると思うのだけど……!?」


「それが違うんだ……! それはガンナーどんのついでらしくて……っ! リョウどんはガンナーどんとそういう約束をしているからって、念押しされて……っ!」

「ああ、確かにそういう約束はしているようね」

「けどそれって照れ隠しじゃ……」


「だからおらは! リョウどんとガンナーどんが“良い仲”なのかと……ッ! リョウどんは優しいけども、よくドキッとさせられるけども、けど……全部おらの勘違いかと思って……! 確かにあの二人は仲が良いし……ッ、ガンナーどん小っちぇし……っ! だからおらは小さくなれねくとも、せめてもっと綺麗にと……っ!」

「!?」

「!?」


 リョウとガンが聞いたら白目を剥きそうな誤解をもって、急に安全だった筈の女子会は混迷し始めた。

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