139 プチ男子会
女子寮の建設は順調で、日に日に進捗が見て取れている。
タツの方も最初はあれこれ文句を言っていたが、水や雨さえ出せば後は自由にして良いので最近では素直に短時間働くようになった。
村人の数が増えた事もあるし、やれる事が増えて仕事が分散したのもあるしで、朝食と夕食は大体全員一緒に取るが、昼は全員揃う事はあまり無い。
今日の昼食はガンとリョウとカイが揃っていた。
「ケンさんとガンさんが別行動珍しいねえ」
「今日はメイとジラフ連れて海上都市だッてよ。もうすぐ女子寮の内装も始まるから、技術研修と内装の好みとか確認しに行くらしい」
今日のメニューは先日のマグロの中落ち丼に、血合いの竜田風味の唐揚げ、味噌汁に漬け物という東方料理ばかりだ。やはり口に合うらしく、ガンが嬉しそうに食べている。
「タツとベルは?」
「タツさんは水出し終わったら速攻海上都市に帰って行ったよ」
「もうあいつの棲み処あっちだろ」
「ベルは午前から神の図書館に入り浸っているそうです」
「神の図書館ッて何処にあるんだろうなァ」
「異世界っていうか異次元ぽいよねえ」
「そういえば小人さん達の新居って全部完成したの?」
「もう殆ど出来てんな。相思相愛が確定したカップルから移住してるらしいぜ」
「リョウも後で見てくると良いですよ。絵本に出て来そうな本当に可愛いお家ですから。私初めて見た時感動してしまいました……!」
「えっ、見に行く! 絶対見に行く!」
「リョウ最近海上都市と厨房行ったり来たりで、他あんま見れてねえもんなァ」
この三人でゆっくり喋るのも久々なので、食べつつ近況報告や他愛のない話をずっとしていた。
「そういえばリョウ、最近恋の調子はどうですか?」
「ゲホッッ」
「茶飲んでる時に言うなよカイ……!」
「嗚呼、申し訳ない……っ!」
「ゲホッ、いや……ゲッホ! いいけどぉ……!」
盛大に咽ながらリョウが何とか持ち直す。
「調子というか、進展は無いよ。けど自覚したお陰でこう、何とか平静を保てるようになってきた……! 今はほら、担当係も違うから食事時以外そこまで接点無いし……! 遠くから少しずつ眺めて慣れてる所……ッ!」
「おお、良かったですね……!」
「カイとベルはどうなんだよ?」
「ンン……!」
今度はカイが息を詰まらせる。僕を刺したんだからカイさんも刺されて当然だよねという顔をリョウがしていた。
「いえ、変わりなく……というか、変わりないですね……? ベルも最近は忙しいですし、あまりゆっくりお話は出来ていませんが、ええ、変わりないですね」
「そうかァ」
「ガンさん刺される話題無いからこういう時強いんだよなあ……」
「無えからな」
弱点無しの顔をしながら中落ち丼をかっ込んだガンが、ふと思い出したように箸を止める。
「思い出した。こないだ作業してる時に風呂の話になッてさァ……」
弱点が無い代わりの提供という訳ではないが、仲間としてジラフに対する理解は深めておいた方が良いだろうと先日の風呂問題の話をする。リョウもカイも、聞く内に箸が止まった。
「ああ、うん……今更かな……?」
「今更ですねェ……?」
「だよなァ……?」
何と言って良いか分からない顔はするが、感想は二人とも同じだった。食事を再開しながら、考えつつリョウが言葉を紡ぐ。
「こう……正直僕の世界ではあまり見ないタイプだから戸惑いはあるんだけどさ、逆の立場で考えてみたら、僕だって女の子なら誰でも良い訳じゃないし、女の子が好きってだけで警戒されたら嫌だと思うんだよねえ」
「うん」
「全然好みじゃない女の子に同席しているだけで、あなた女が好きなんでしょ気持ち悪い近寄らないで! って言われたら憤慨する自信はある……!」
「せめてそういう事は此方が狙ってから言って欲しいですね……!」
「んだなァ~」
「なので、性癖に限らないんだけどさ。カイさんが魔族なのだってそうじゃない? それはジラフさんの個性だと思うし、態度を変えるつもりも無いよ。……まあ御馳走様されてるのはちょっとアレだけど……! 実害は無いしね……!?」
「リョウ……! 私も丸っと同意ですねえ」
「あと女湯に行かれる位なら僕は永劫ジラフさんと男湯に浸かるね……ッ!」
「確かに……ッ!」
「それはメイとベルの裸をジラフに見られたくねえだけだな!?」
最後の言葉に笑ってしまって咽そうになった。ンンと咳払いして茶を飲む。
「じゃあ今後も問題無えッて事で。ジラフの好み知らんから、もしアタックされたら各々誠意を持って対応するように」
「はぁい!」
「はい!」
「ふん、ケンの時はケンだからで雑に放置してたけど、こうやッて新入りの個性に配慮出来るようになッたなんて、おれらも成長したな……」
ガンが満足そうに湯飲みを置いた所で、リョウがぎこちなく目を反らした。
「あっうん」
「え、なに……?」
「…………あっ……」
続けて察したカイもぎくしゃく目を反らす。
「え、なに……?」
ガンが戸惑い二人を交互に二度見する。
「…………あのー……、ガンさん懺悔していい……?」
「あ、私も同じ内容だと思うので一緒に懺悔を……」
「え、いいけど何……?」
ガンが大変不審そうな顔をする。
「ケンさん基本女好きだし、ケンさんだしとはそりゃ思ってましたけどぉ……」
「私も『王の中の王の世界征服』聞かされた時そう思いましたけどぉ……」
「ああ」
「もし万が一があってもどうせガンさんだしケンさんガンさん大好きだからァ! 自分は安全って思ってましたすいませんんん……ッッッ!」
「同じくですガンナー大変申し訳ありませんでしたあぁ……っ!」
「……………………へえ……」
聞いた途端、ガンが取り立てやくざの顔になった。二人とも打ち震えた。
「ぶたないで……ぶってもいいけどぶたないでガンさんごめえぇん……!」
「ぶってもいいです……! けどまあまあ強い力まででお願いします……っ!」
「…………ほんっと、マッサージの時もだけどよ、おまえらがおれを売った事忘れねえからな。覚えとけよマジで……ッッ!」
「ひい! いつもガンさんをケンさんのタンクにしてすいませんん……!」
「ヒィ……! いつもガンナーには感謝しておりますぅ……!」
身を竦めての謝罪が同時に飛び出した。だがまあまあ強い力での拳骨は降って来なかった。恐る恐る目を開くと普通に食事を再開している。
「……ふん、万が一がそもそも無えし、あいつはおれが本気で嫌がる事はしねえんだ。安心しろ裏切り野郎ども。反省しろ。此処でケンにも謝っとけ」
「は、はいぃ……! 反省しますぅ……! ケンさんもごめええん……!」
「ハイッ、反省しますぅ……! ケンも申し訳御座いませんでしたぁ……!」
「あと明日の昼飯はおにぎりだ。飲み物はこないだ飲んだ茶色いの美味えやつ」
「はい、最近ガンさんを虜にしたツナマヨおにぎり沢山握りますぅ……!」
「ほうじ茶ですね……! 心得ましたぁ……!」
「よし……!」
何とか許されたので、二人も食事を再開する。ガンは最近知ったツナマヨおにぎりとほうじ茶を大層気に入ったので、不機嫌どころか寧ろややご満悦だ。
「そういやさァ」
「なになに?」
「女子会ッてなに?」
「女子会……!」
「メイがジラフにやろうなッつってたんだよ」
女子会という響きにカイが怯えたように口元を押さえる。
「私の世界で伝わる女子会というものは、男子禁制で何が行われているかは一切不明、女子のみで行われる門外不出の秘密集会と聞いております……その謎を探ったものはもれなく殺されると言い伝えで……!」
「まじで、滅茶苦茶怖え会じゃん……!?」
「えっ!? 僕の世界では、女子さん達が親睦を深める為に集まって話す平和な会っていう認識なんだけど……まあ何を話しているかは分からないんだけど……」
「世界によって違うのか……」
謎が深まる『女子会』だが、メイが笑顔でやろうと言うからにはまあ平和な会なのだろうと思う。食べ終え箸を置いたガンが、湯飲みを取りながら考える。
「――――じゃあ、今度おれ達も男子会やろう。女子どもが親睦深めるなら、おれらも深めたっていいだろ。何したら良いかさっぱり分からんけど」
「ほう、男子会ですか……! 楽しそうですね!」
「いいかも! タツさんも海上都市に篭りっぱなしだし、そういうのあれば引っ張って来て親睦が深められそうだし……!」
「よし、やろう。やり方分からんから調べとくわァ」
リョウとカイから快諾を得て、女子会に対抗して男子会を開く事にする。
ただしやり方を知らない為、ガンが調べる先によっては地獄の会になる危険性がある事を二人とも気付けず任せてしまった――――。
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