138 オトメの秘密
全員の仕事も決まり、村は通常運行だ。
最近の優先ごとは女子寮を建てる事であり、建設チームにはジラフとメイが加わって作業を進めていた。リョウとカイはタツを捕まえて色んな水を出して貰っては各々の仕事に役立てている。ベルは相変わらず神の図書館に通って探求に勤しんでいるらしい。
「アラッ! メイちゃんそれ良いじゃない~!?」
「へへぇ、ベルどんに野良着作って貰ったです!」
「これは褒め言葉なんだけどメイちゃんホンッット田舎臭い服似合うわネッ! ある意味才能だわヨッ!」
「わあぁ、そんな褒めんでくれぇ……! 照れちまう……!」
綿のブラウスに柄布のもんぺを作って貰ったメイが、嬉し気にジラフへ披露していた。三つ編みにほっかむりといういでたちで、完全に田舎娘だ。だが大変似合っている。ジラフの方といえば、ケンやガンと同じくベルに仕立てて貰った作務衣のような野良着を着ているのだが、色は蛍光グリーンで滅茶苦茶派手だ。ピンクと紫の坊主頭と併せて大変に派手だった。
「ジラフどんもカラフルで素敵だ。何処に居ても一目で見付けられるもんなぁ……!」
「フフ! 良いでしょう~!」
「おまえらキャッキャしてねえで仕事しろ」
「はっ、すまねえ……!」
「ハァイ!」
黙々作業をしていたガンに叱られ、二人とも慌てて作業を始めた。ケンの方は木材を取りに今は離れていて不在だ。
「ッとに、女どもはキャッキャすんのが好きだなァ」
「へぇ、すまねえ……! 嬉しくてつい……!」
「ガンナーちゃん……!?」
「すんのは別に良いよ、作業しながらやんな。……なに?」
「今アタシを女子扱いしてくれたの……ッ!?」
今は前に建てた雑魚寝小屋を潰し、土台を整えて柱を打ち込み、骨組みを作っている所だ。三人で協力して作業をしつつ、感動したようなジラフの声色にガンが首を傾げた。
「え、だッて。おまえ心は乙女なんだろ?」
「最初はアタシを乙女じゃないって何度か言っていたのに……! ついに認めたのネッ……!?」
「や、その数回で本当におまえは乙女なんだなと受け入れたんだが……?」
「良かったなぁ! ジラフどん……!」
「キャアッ! 嬉しいワ~!」
くねって喜びを表現しつつ、骨組みに乗っているガンに木材を届けていく。身軽なガンが高所での作業を行い、でっか組は一階部分を頑張っている最中だ。
「まあ元々おれは別に性別なんか気にしねえし――……、…………?」
喋りつつも作業をしていたガンの手が止まった。下のジラフを見下ろす。
「どうしたガンナーどん?」
「どうしたのガンナーちゃん?」
「え、おまえ、乙女なんだよな?」
「そうよ。心は曇りなき乙女だわネッ!」
再確認にジラフが曇りなき瞳で大きく頷く。
「おまえなんで……おれ達と一緒に風呂入ッてんだ……?」
「ジラフどん!?」
「…………ッ! 気付かれ……ッッ!」
今更気付いた矛盾点に解せぬ顔でガンが見下ろしている。メイは知らなかった新事実に動揺している。ジラフは舌打ちと共に目を反らした。
「おい何だよその反応は……ッ!」
「ジラフどん、男子と風呂に入っとったんか!?」
「ほほほほら、アタシ心は乙女でも体は男じゃなァい? だだだだからねッ!?」
「だども、心は乙女だろ!? ジラフどん恥ずかしい思いしとらんか!? 今からでも女湯に入った方が……!?」
「それは何か駄目だろ!? いやけど心が乙女なら女風呂のが正しいのか……!?」
「アアッ! 純真無垢が痛いッッ――!」
「何だどうした! 楽しそうだな!?」
「ケン……!」
素直な二人の動揺に、ジラフが胸を押さえてよろめいた。そこに山のように角材を担いだケンが戻って来る。
「ケン! ジラフは心が乙女なのにおれ達と一緒に風呂に入ッてんだ! という事に今気付いたんだがこれは大丈夫なのか……!? 女湯のが良いのか……!?」
「ブッフォ……! 何という話をしておるのだ!? だがそう言われるとそうだな……!?」
「アアアア……!」
不意打ちでケンが噴きながらも、半笑いで同意せざるを得ない。
「ジラフさん! 何も考えずに一緒に入っていたが大丈夫なのか!?」
「ケンちゃんまでやめてェ! アタシが、アタシが悪かったからァ――――!」
「!?」
「ジラフどん何か悪さを……!?」
ジラフが痛恨の極みの顔で、柱に凭れて打ち震えている。
「アタシは……ッ、アタシは
「一緒じゃねえか」
「いや、何か違う感じがするぞ!?」
「
響きは一緒だが何やら知らないニュアンスに三人がざわめく。
「アアッ、難しい……! 説明が難しい……ッ! 性自認と性的志向と性表現は多様性があり過ぎて今此処で全て説明するのが難しい……ッ!」
「ああ? セクシャリティー的な話か?」
「分かるのガンナーちゃん……!?」
どう説明しようか悶えていた時、ガンが怪訝に首を傾げる。
「おれの世界は同性婚も認められてて性の垣根は無えからな。多様性ッてのもまあ分かるよ。詳しかねえけど何か細けえの沢山あんだろ?」
「アラッ! なんて素敵な世界なの!?」
「騙されるなジラフさん! ガンさんの世界に性の垣根は無いが性行為も出産も厳重に管理されたディストピアだぞ! 男女平等に兵士にされる世界だ……!」
「オゥ……」
「そうだよ」
メイが混乱した顔をしているので、ガンが暫く考えてジラフを顎で促した。
「おまえの事だけでいいから説明しろよ。心が乙女だッつうから、おれはおまえが自分を女と思ッてるタイプかと思ったんだよ。そんなら男湯はきついだろ?」
「ウウッ……気遣い……!」
「今後また違う趣向の者が来るやもしれんが、ひとまずジラフさんだな。他はおいおい対応すれば良い。生き易いように出来る事はしようではないか!」
「クッ……! セクシャリティにも差別無い村だというの……ッ!?」
観念したように座り直し、ぽつぽつとジラフが白状し始める。
「アタシの場合はそうねえ、心は乙女で男の子が好きだけど、別に女体になりたいとか女装したいとかは思わないのよネ。今の自分が好きだし、つまり男であり女でもある……という感じかしら? オネエっていう分類が一番近いと思うワ!」
「その分類知らんけど何となく分かッたわ」
「女子トークや女子会はバッチ来い! なんだけど、男の意識もあるから流石に女風呂に入るのはベルちゃんとメイちゃんに申し訳ないわネッ! 感情的には女子扱いして欲しいけど性的には男扱いして欲しいかもッ!」
「そうかぁ、したら女子トークと女子会は一緒にしようなぁ、ジラフどん! 男でもあり女でもあるなんて、両方楽しめてお得だぁ!」
混乱していたメイもやっと理解が及んだらしく、にこにことジラフへ頷く。
「成る程、では風呂は――」
「アッ、お風呂は目の保養になるから今後も男風呂でお願いしますッ!」
「おまえそこだろ! さッき罪悪感抱いてたのそこだろ!?」
「言える訳無いでしょッ!? 心は乙女と言いつつ指摘されない事をいいことにさりげなく皆と一緒に入浴して裸体を堪能していたなんて……ッ!」
「急に正直になりやがる……ッ!」
「けど心が乙女なのも事実だから……ッ! 皆いつも御馳走様です……ッ!」
「御馳走様言うタイミングおかしいんだよ!?」
「わはは! まあガンさん達が良いならこのままで良かろう!」
「あァ…………」
どうしたものかとガンが考える間があった。性志向だのを差別する気は毛頭無いが、毎度御馳走様されているのが発覚したのでそれは当然考えるべきである。
「…………まあ、今更だろ。別に悪さする訳じゃなし……リョウとカイは気付きもしねえか、気付いてもおれと同じ今更だろうし……」
「ガンナーちゃん……! なんて寛大なの……ッ!」
「良いから言ったんだろうけど、ケンどんは良いのか……?」
『ガンさん達が良いのなら』と言ったケンに一応確認するようにメイが首を傾げる。
「だから今更なんだッて、メイ」
「……?」
「そもそもケンが男もいけるからさ。ほんと今更なんだわ……」
「!? ケンちゃん……!?」
「王たるもの! 稚児と衆道は嗜んできておる! どころか世のあらゆる色恋遊びはおおむね楽しんできているッ! まあ基本俺は女好きだがな!」
「まだおれとリョウしか居ねえ時か。ちょっと『王の中の王の世界征服』の話で――いや、これはいいや。まあ大分前から知ッてんだよ……カイも途中からおれらに聞かされて知ってんだよ……ほんと今更だろ……?」
千年分の世のあらゆる色恋遊びをしてきたストロング過ぎる『王の中の王の世界征服』の話を一瞬思い出して、ガンがうんざり顔をした。メイが居る場でとても詳細を語れるものではない。
「それは……ほんと今更だなぁ……?」
「今更過ぎる位今更だったわネッ……!」
「わはは! 俺は悪さをしとらんからな! ジラフさんも悪さはしないように!」
「はァい! しませんッ!」
「――――よぅし、良い子だ」
元気の良いジラフの返事にガンが笑った。ジラフも何処か晴れやかに笑った。
「ウフ、
「悪ィ事したら逃げるからな! 調子乗んなよ!」
「アラッ! せいぜいお尻を鷲掴みする位ヨッ!」
「ばか! 乙女はそういう事しねえんだよ!」
「ジラフどん! はしたねえ!」
「わはは! せめて撫ぜる程度にしておけ!」
それから四人で、女子のキャッキャに負けず劣らず騒ぎつつ作業をした。日が暮れる頃には女子寮の骨組みもすっかり組み上がり、明日からは屋根や壁に取り掛かる事が出来るだろう。
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