135 歓迎会

 昼も近付き歓迎会は間近。女性陣はおめかしに魔女の屋敷に集まった為、男達だけで最後の準備をしていた。


「――で、リョウ。大丈夫か?」

「暗示のせいか昨晩はちゃんと話せていましたよね?」

「それがねえ……」

 

 離れた場所ではケンがマグロの解体ショーの準備をしている。ジラフは船上都市から戻りたがらないタツを呼びに行っていた。ガンとリョウとカイは宴会用のパビリオンの屋根の下、マグロ以外の料理を運んだり寿司の為のセッティングをしている。


「さっきもう暗示解けちゃって……」

「早くねえ!?」

「えっ、もう……!? 掛かりが不十分でしたか……!?」

「いや、カイさんの仕事は確かだったよ……もうさ、見た目オークなのに仕草だけで美しさとか感じちゃって……話も楽しくて……もうね、認めます。一目惚れでした。オークなのにときめいちゃって、寧ろ気持ちが確かめられたよ……ありがとう……」


「そ、そうですか……それは良かったです……」

「お、おう……」

「もう……性欲とか置いても一目惚れだったって自覚したんで……今後もときめきや胸の動悸はあると思いますが……罪悪感や不安で挙動不審になる事は無いかと思います……二人ともありがとう……」

 

 ガンとカイはどうしても『早くない?』という顔が拭えなかったが、まあ解けてしまったなら仕方ない。


「ま、まあ……自覚出来たなら良かッたのか……? 頑張れよ……?」

「うん、本人にも皆さんにも御迷惑にならない感じで頑張りたいと思うよ……!」

「私もこっそり応援してますからね! リョウ……!」

「ありがとう……! 後よくよく考えたらこのタイミングで解けて良かったんだよな。今からおめかしして出てくるじゃない? そんなの絶対見たいし……!」


「自覚した途端急に正直になりやがる」

「まあそれは分かります……」

「そうか、おまえもベルの姿が楽しみだったな。カイ……」

「えへへ……」


 等とコソコソ話す内、ゲート小屋の方からジラフがタツを引き摺って現れた。


「ウワーッ! 酒池肉林の桃源郷から引き剥がされる気分じゃあ~!」

「折角歓迎会をしてくれるんだから! タッちゃん我儘言わないのヨ!」

「わはは! 余程俺の船が気に入ったようだなタツさん!」

「おお、ケン殿! 最高じゃ! あの船は最高じゃよ! 永住出来る!」


 賑やかに本日の主役が二人揃ったので、リョウ達も手を休めて迎えに出た。


「タツ滅茶苦茶あのバカ船気に入ってんじゃねえか」

「だって最高なんじゃもの……! 進展も成長も無い存在だとしても! 女人が大勢居るじゃろ!? 夜も添い寝をしてくれるじゃろ!? 最高なんじゃあ!」

「あっ、進展と成長部分は目を瞑れるのですね……!」

「儂ちょっと恋愛沙汰で失墜しとるから……寧ろ進展せず女人を愛でられるという環境は最高でしかなく……!?」

「成る程、恋愛感情が不要となれば寧ろ都合が良いか」

 

 ケンがうんうんと訳知り顔で頷いている。


「それでも明るい内はこっちに居なきゃ駄目よ! 村の仲間としてのお仕事だってあるし、今日は歓迎会なんですからネッ! ほら、もうすぐ着飾った女子達が出てくるわヨッ!」

「儂労働はしたくないんじゃが~! 着飾った女子達は見たいんじゃが~!」

「正直なんだよなあ!?」


 わいわい騒ぐ内、魔女の屋敷の扉が開いて女子達が姿を現した。


「モモイッ!」

「おっ、来たぞ」


 最初に姿を現したのは小人女達で、全員揃いのドレスを着ていた。レースアップフロントにパフスリーブ、ウエストシャーリングの小花模様の可愛らしいサマードレスだ。頭に色とりどりの花冠が載っている所まで共通で、後は思い思いに髪を垂らしたり結ったり巻いたりと個性が出ているようだった。


「わっ、お揃いめちゃくちゃ可愛いねえ……!」

「モイィ……!」


 おめかしした女神達の登場に、最早物理的にフワッと浮足立った男小人達が慌ててエスコートしようと駆け出していく。すぐにそれぞれのペアが手に手を取り、広場に設置した歓迎会の席へと着席していった。


「ンマ! 小人ちゃん達エスコートぬかりないじゃない!?」

「小人界だとすげえハイスペックのエリート小人なんだッてよ、あいつら」

「そうなの!?」

「カイさん、リョウさん、ベル嬢とメイ嬢のエスコートは頼んだぞ!」

「えっ」

「あっはい」


 言われてリョウがケンを二度見する。

 

「儂がしようか~?」

「タツさんとジラフさんは本日の主役だからな! もう着席していて良いぞ!」

「むう……!」

「ほらタッちゃんいらっしゃい!」


 ジラフに引かれてタツが無理矢理着席させられている。扉にベルとメイの姿も見えたので、慌ててカイとリョウも走って行った。


「うむ、うむ……!」

「…………?」


 その様子を眺めてケンが満足そうに頷いている。ガンが怪訝にした。


「……なあ、村の案内もリョウにさせたんだよな?」

「ああ、そうだぞ!」

「気付いて……いや、何でも……」

「ふはは! 何やらコソコソしているようだが俺とベル嬢にはお見通しだ!」

「まじかよ……!」

「寧ろあの挙動不審でバレてないと思う方が愚かでは?」

「そりゃそうだな!?」


 大変納得してしまった。


「まあ、その……あんま玩具には……」

「今回はナイスアシストしかしていないだろうが!」

「今回はな!? そのままいけよ! そのままだぞ……!?」

「善処する!」

 

 とっくにバレている事など知らないリョウは、カイと共に魔女の屋敷の門前で二人を待った。扉を潜った二人が出迎えを見ると、笑顔で歩いて来る。


「嗚呼、お美しいですよ。お二人とも……!」

「ほッ本日はお日柄もッじゃなくてっ! 凄く素敵だよ……ッ!」


 女小人達がお揃いだったように、ベルとメイもお揃いのサマードレスを纏っていた。女小人達は小花柄だったが、此方は袖と裾に大輪の花が刺繍されている。デザインも大人っぽいオフショルダーで、美しく肩や鎖骨が見えていた。そこまでは一緒なのだが、ベルの方は体にフィットした作りで袖も振袖のように長く、メイの方はウエスト以外ふんわりとして健康的に腕も露出しているという違いがあった。


「あら、迎えに来てくれたのね。ありがとう」

「わあ、リョウどんもカイどんも! わざわざありがとう……!」

「同じ生地で、デザインが少し違うのですね。どちらもよくお似合いです」

「ええ……これね、お互い似合うように調整したのよ……」


 髪も美しく対照的にセットされ、女小人達と同じく花冠が乗せてあってどちらも美しい。だがデザインの違いに気付かれると、ベルが少し遠い目をした。


「最初は仲良く同じデザインにしようとしたの……そうしたらそんな気はしていたのだけれど、やっぱり実際試すとお互い現実を直視する事になって……」

「えっ、一体何が……!?」

「ええと――ベルどんは高貴で洗練されとるでしょう。宮廷服のようなピタッとしてドカンとしたドレスはそれはもう似合うんだ。だども、おらが似合うようなダボッとした田舎風のワンピースだとかは、その……なんだ……」

「わたくしが着ると寝間着もしくは落ちぶれて見えるのよ……!」

「ああー……」


 実際見た訳ではないが、目に浮かぶ気がするし納得してしまった。

 

「逆におらがベルどんに寄せると、みっともねえ仮装になっちまう……あと膨らんだスカートが場所さ取り過ぎてテントか? ってなる……! 完全なお揃いは駄目だ、ベルどんの洗練さとおらの野暮ったさが事故するんだ……!」

「適材適所という言葉を思い知ったわね……!」

「そ、そんな事故が起きてたんだね……!?」

「いや、いやけどまあ! 皆違って皆良いのですし……!?」


 女性のおしゃれも中々奥深いのだな、と今此処でリョウとカイは学んだ。不幸な事故のお陰で緊張が抜けて、改めてめかしこんだ姿を眺める事が出来た。上から下までしげしげと眺める。眺めながら普通に見惚れてしまう。


「いや、けど……ほんと……似合ってるよ……。滅茶苦茶可愛い……」

「え……」

 

 心底、溜息のように出てしまった。途端恥じらうようにメイが頬を赤らめる。『おっ』という顔をカイがし、『ふぅん?』という顔をベルがした。

 

「――あ、や! ……いや、二人共!? 二人共ね!?」

「ふぅん?」

「ま、まあ! まあ! 皆さんお待ちかねですし! 行きましょうか……!」

「そ、そうだ! 早く行かねえとな!」

 

 誤魔化すようにカイがベルの手を取り歩き出す。遅れて、リョウもぎくしゃくしながらそっと腕を出した。


「お、お手をどうぞ……!」

「へ、へぇ……! 失礼しますです……!」


 顔を赤くしたまま、メイもぎくしゃくとエスコートに応じて歩き出す。

 背後の初々しい気配に、前を歩くベルが『うふふ』と口元を隠して密かに笑った。

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