133 こっそり恋バナ

「まあ確かに前々から、若くて可愛い巨乳の女が好きとは言ッてたよな……」

「地獄マッサージのチェンジの時に言っただけだけどォ!?」

「確かに、そう思うとメイは元々リョウに刺さるタイプなんですね……」


 酒を取りに来たという建前なのであまり時間は無いが、このまま戻ってもリョウがアレなので急ぎ作戦会議? を行う。


「つうか、でかさは気にならねえのか?」

「僕は気にならない! 寧ろ大きい! 素晴らしい……という気持ちで……!」

「それ身長の話ですか? 他のサイズの話ですか?」

「うわああああ……!」


 途端にリョウが頭を抱える。


「何だこいつ」

「これは――恐らく、私達が知らない何かがありますね。ほら、さっきのケンの揺さぶりでも絶対に言わなかった事があるでしょう。その辺りでは?」

「ああ、ラッキースケベの話か」


 カイが名探偵の顔をする。ガンが分からん顔をする。


「もう面倒臭えしさっさと話せよリョウ。おれもカイも黙ッててやるから」

「面倒臭いって酷くない!?」

「まあまあリョウ、秘密は守りますから……!」


 促され、二人にならと先程は隠し通したラッキースケベの話――もとい男だと思って気さくに話した二時間と、女だと解って頭が真っ白になったあれそれと、結局ラッキースケベの内容も話した。


「……はぁん、それであんな様子おかしくしてたのか。分かるよ、いや、分からんけど分かるよ。流石に絶望から救われて心底感謝してくれてる相手に勃起してんのはやべえッておれでも分かるわ。ほんとそれはバレなくて良かったわ」

「ガンさんなかなか抉る言い方してくるじゃない……!? だってもう生理現象なんだから仕方なくない……!?」

「まあ、まあ……そうですね……? 特にリョウは巨乳が好きですし、生身の女性の乳房に触れるのも久々ですし……」

 

「そうだよッ、それに人生最大最高の巨乳だったんだよ……! 顔も間近で見ちゃったらもう心臓鷲掴みというかさァ……!? 僕に他に何が出来たというの!?」

「勃起以外になんか出来る事がありゃ良かったなァ、リョウ……」

「せめて海上都市で夜の接待を受けておけばまだ……耐えられたかもしれませんね……まあ今更ですけど……」


 このネタは本当に今食卓に居る面々には聞かせられないので、友情に篤く良心的な二人は墓場まで持って行ってやろうと誓った。


「で、結局どうしたいんだよ。好きになるとなんか拙いのか?」


 何もかもが分からん顔でガンがカイを見る。視線を受けたカイは、悩ましい顔で片眼鏡モノクルをクイッして口を開いた。


「恐らく今のリョウの心境を推察するとですね……二時間話して意気投合し、これはいい友達になれそうだと思っていたら相手が予想外に女性だった。しかもラッキースケベで強烈に異性として意識してしまった。その上勃起してしまって顔向けできない罪悪感が凄い……という状態ですね……」

「はいぃ……! その通りでございますゥ……!」

「いまや相手は普通に意気投合した良い仲間と思って気さくに接してくれるのに、リョウの方は異性として意識してしまったが故の挙動不審。またそうなってしまう事への罪悪感もあると思いますね……」


「カイさんの僕の解釈と解像度が高過ぎるゥ……!」

「ああ……うん……」


 リョウは最早びくんびくん地面で悶えている。


「それではいけないと努めて普通にしようとしていたのに、着替えて現れた彼女の姿があまりにも眩しくてただでさえ見惚れてしまったのに、あまりに良い食べっぷりと笑顔にノックアウトされて耐えきれずこの様なんです、ガンナー……」

「この様って……言い返せない……」

「お、おう……」

 

「後は、会った初日に好きになってしまうなんて自分は肉欲と恋を混同しているのではないか!? もしそうであれば不誠実過ぎる! ちゃんと見定めなくては失礼過ぎる! という不安もありそうですね……」

「ぐうの音も出ません」

「分かったよ……! そろそろリョウが死にそうだから止めよう……!」


 何でカイはこんな手に取るようにリョウの事が解るんだ怖……とは思ったが口には出さず、結局難しい顔で首を捻った。


「で、問題は何処なんだよ。罪悪感なのか挙動不審なのか、好きになッちまう事なのか不安なのかさァ……! そろそろ戻らんと怪しまれるぞ……!」

「最優先は挙動不審でしょうかねえ……? この罪悪感や好意に気付かれた瞬間、リョウは羞恥で爆散してしまうかもしれません……」

「爆散はやべぇな……」

「間違いなく爆散する自信があるね……!?」


 既に酒を取って戻るだけにしては、怪しまれそうな時間が経っている。早急に手を打たなくてはならない。


「なあ、魔法かなんか無えの? ひとまずリョウからはメイがオッサンとか何かそういう……意識しなくて済むような感じに見えるやつ……」

「今を乗り切るには名案なんだけど、魔法だとベルさんとかの魔力持ち……タツさんやメイさんにもバレちゃう危険が……!」

「ふむ……成る程……」


 遣り取りにカイがハッと顔を上げ、取り急ぎ手近の酒樽をガンに預けた。


「おお?」

「魔力を使わず目くらましをする! これですよ……! 私はこんな事もあろうかと魔力を使用しない催眠術が使えるのです……! ガンナーは先にこれを持って行き、時間を稼いで下さい……! 私とリョウはまだ酒を選んでいるとか何とか言って貰って……!」

「いいけど何で!? おまえ催眠術使えるんだよ!? 怖えんだが!?」

「魔界の忘年会等の余興で使えるのではと習得した時期がありまして……!」

「流石カイさんだ……!」


 カイ怖ッわ……! という顔を最早隠さず、ガンが酒樽を受け取った。


「じゃあおれ行くけど――――なあ、リョウ」

「ありがとうガンさん……! なに?」

「小人達はさ、もし女小人達が自分を好いてくれなくッても、恋してくれるまでアタックするんだってよ。おまえももし、本当に好きになったんなら、頑張れよ」

「……ッ、……が、がんばる……!」

「骨は拾ってやるから……」

「不吉ゥ!」


 不吉な言葉を残し、ひとまずガンはツリーハウスの方へと戻っていった。カイが懐から穴あき硬貨に糸を通した物を取り出し、リョウへと向き直る。


「リョウ、催眠術というか暗示のようなものです。身体に悪影響はありません」

「う、うん……! カイさんを信じているよ……!」

「メイの外見がオークの女性に見えるという風に掛けるのはどうですか? それなら流石に興奮せずに済むのでは……?」

「そ、そうだね……! それでお願いします……!」


 カイが頷き、リョウの前で硬貨を揺らしたり語り掛けたり、目が閉じると数を数えたり色々とやり始める。


「――――この後、3・2・1で私が指を慣らしたらリョウ、あなたにはメイの姿がオークの女性に見えるようになります」

「うん……」

「この暗示は『あなたが心からメイに恋をしたら』解けますよ。いいですね?」

「えっ…………」


 目を閉じていてカイの表情は見えない。戸惑ったようなリョウに、小さく笑うカイの気配があった。


「……性欲ではなく、内面に恋をしてしまったのなら、もうそれは仕方が無いでしょう。足掻かず素直に認める事です。恋の行方はお相手がある事ですから、断言は出来ませんけど。誰かを好きになるというのは素晴らしい事ですからね」

「…………そう、そうだね……その時は僕も覚悟を決めるよ……」

「ふふ、よろしい。それでこそ私の親友です」


 それから数字をみっつカウント、指が慣らされ目を開くと――特に何か変わった感じはしない。それでもきっと、ツリーハウスに戻ればメイの姿に耐えられる筈だった。カイに礼を言い、二人で急ぎ酒樽を選んで戻る事にする。


「……カイさん、ありがとう。僕ほんと、恰好悪いなぁ……!」

「いやあ、同じ立場なら私も相当酷かったと思いますよ……! それにリョウらしくて、私は嫌いじゃないですね」

「わあん……! ありがとう……!」


 話しながら戻り、その後は何とか挙動不審にならず――違和感無く良い感じで夕食を終えられたと思う。そう、夕食は無事に終わった。

 だが翌日、真の試練が訪れる事をリョウはまだ知らない。

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