132 お披露目

「おお、美しい娘さんではないか!」

「でけえだけでマジで女じゃん……!」

「おや、素敵ですねえ」

「アラッ! 可愛いじゃないの~!」

「うひょぉ! たまらんのぅ~!」


 次々に感想を男達が口にする中、リョウだけは口を開けて見入っていた。一度見たから見目形は知っている。だが服を着て外見を整えた状態を見るのは初めてだ。

 恐らく急いでベルが仕立ててくれたのだろう。襟と袖にタックレースの付いた、ゆったりと着心地の良さそうな生成りのワンピース姿だ。ベルト代わりに腰に巻いたリボンが可愛らしい。サンダルとハーフアップにした髪にはお揃いの小花が飾ってある。磨かれて高級感のあるベルとはまた違う、メイには素朴でほっとするような健康美があった。


「さ、改めて紹介するわ。メイよ。名前はさっきリョウと決めたそうだから」

「へぇ……メイです。皆さんほんとにこの度は……色々助けて頂いて……おら、ほんとに感謝しとります……! ありがとうございました……!」


 3m程の長身が深々と頭を下げる。リョウはまだぽかんとメイを眺めていた。改めて皆が良かった良かったと歓迎し、自己紹介をし直す間も見入っていた。


「おい、リョウさんの番だぞ」

「えっ、えっあっ」

「リョウは作戦前に話をしたから知ってるわよね」

「へぇ、リョウどんにはもう自己紹介頂いとります」

「んじゃリョウはとばすかァ」


 リョウを飛ばして自己紹介も終わり、最後にメイ自身が自己紹介をする。


「おらの事情は前にお話した通りで、他は……歳は26です。職業は『聖女』をしとりました。戦闘は神聖魔法と、メイスさぶん回すのが得意かなぁ」

「ほう、聖女か! 新しいジョブだな!」

「成る程、だから呪いへの抵抗も高かったのね」

「呪塊を封じる所から人柱になるまでの流れも何となく繋がりましたねえ」

「もう暗いし、メイさんの村の案内は明日にするか! ひとまず飯だ!」


 自己紹介の後は皆で夕食を囲む事となった。


「メイ、椅子小さくねえ? 大丈夫か?」

「へぇ、大丈夫です。ガンナーどんありがとなぁ」

「メイ殿、スリーサイズは幾つかの?」

「へっえっ」

「メイさん答えんでいい!」

「タッちゃんセクハラしないの!」


 背は高いものの横幅はケンらとそう変わらないので、椅子などは大丈夫そうだった。皆が着席すると、食卓に並んだ料理を見てメイが目を輝かせる。


「わあ、すんげえ! これ全部リョウどんが……!?」

「モイッモイ~!」

「小人どん達も一緒に作ったんだなぁ! ありがとう、美味そうだぁ!」

「あら、小人達の言葉が解るの?」

「へぇ、ある程度は妖精や精霊達と話せます」

「流石聖女! 精霊とも話せるなんて心が清らかって事ねェ~!」


 食卓にはローストチキン、フィッシュフライにポテト、ごろごろ野菜のシチューに焼きトマトのチーズ掛け、オムレツに魚介のパスタ、数種の焼きたてパンとサラダ等々、所狭しと腕を振るった料理が並べられていた。尚デザートには焼き林檎とチェリーパイが控えている。


「ええと、新入りさん達はもし食べられない物とかあったら、今後配慮するので教えてください……!」

「アタシ好き嫌い無いのよォ~!」

「儂も神はやめたから生臭も解禁じゃよ~!」

「おらも好き嫌いはねえです! 頂きます!」


 リョウが何処かぎくしゃくと取り分けなど始め、皆一斉に食べ始めた。


「うむ! 今日も美味いぞ! 特に肉と揚げた芋がいい!」

「この細い奴? 初めて食うな。美味えけど」

「それはスパゲティという食べ物ですよ、ガンナー」

「明日はマグロの解体ショーでしょう? 今日は少し控えめにしておこうかしら」


 いつもの面々は普通通り美味そうに食べてくれている。新入り達はどうだろう。こっそり様子を窺ってリョウが視線を遣った。


「うむ! 美味! 美味じゃよリョウ殿~!」

「ホント! 良い腕してるワァ! これがこれから毎日食べられるなんて!」

「……! ……!」


 タツとジラフは普通に美味しそうだった。だがメイの様子が可笑しい。口いっぱいに一口を頬張ると、電撃に打たれたように口を押えて顔を真っ赤にしている。


「メイさん……あの、大丈夫!? 口に合わないようなら無理しなくても……!」


 慌てて声を掛けるが、メイがぶんぶんと首を横に振る。顔を真っ赤にしたまま口を隠したまま咀嚼し一息に飲みこむと、きらっきらの眸がリョウを向いた。


「リョウどん! 美味え! 美味過ぎておら泣くかと思った……! おら、こんな美味え飯今まで食った事ねえです! リョウどんの料理は最高だ!」

「ウッ……!」

 

 食事自体本当に久しぶりなのだろうし、余程感動したのだろう、泣く手前の潤んだきらきらの眸で、興奮で頬を真っ赤にして子供のような満面の笑みが浮かぶ。

 それを見た瞬間、発作のようにリョウが胸を押さえた。


「リョウどん!? どうした!? 胸の持病か!?」

「リョウそんな病気あったか?」

「なっ、ななっ無い! 無いです! 大丈夫です……! あの、ほんと、嬉しいよ! 食べて! いっぱい食べて! 幾らでもあるから……っ!」

「へぇ! ありがとう!」


 リョウが大丈夫そうなので、メイは満面で見ていて気持ち良いほど豪快に食べ始めた。食べる仕草は美しいのだが、食べる勢いと量が凄まじい。いつもは大量に作っても少しは残って明日に回したりするが、今日は残飯は少しも出ないと確信できる程の良い食べっぷりだった。


「わはは! よく食べる娘さんは気持ちが良いな!」

「ふへぇ……! おら大食いで申し訳ねえです……! けどリョウどんの飯が美味過ぎて止まらんです……!」

「身体が大きい分沢山食べたって仕方ないわよォ~! ねえベルちゃん?」

「ええ、今までの消耗だってあるでしょうし好きなだけお食べなさいな」


「すげえ……」

「見ていて確かに気持ちが良い食べっぷりですね……!」


 呆気に取られているガンとカイを、俯きがちのリョウがこっそりと引っ張る。


「あん? どうしたリョウ」


 他の面々はメイの食べっぷりに気を取られている。リョウが『しー』と人差し指を立てて、二人に来て来てと促す。


「…………そういえば、お酒が足りませんね。確か船上都市で貰った酒樽がありますから、取ってきます。ガンナーとリョウは運ぶのを手伝ってくれますか?」

「酒か! 儂は酒が大好きじゃぁ!」

「アラッ! いいわね!」

 

 察したカイが機転を利かせて、上手く三人だけ抜け出せるようにする。『カイさんありがとうううう』という顔をしたリョウを先頭に足早倉庫の方へと向かった。その背をケンとベルが目を細めて見ていた事は知る由もない。



 * * *



「――――で、どうした。何かあったのか?」


 ツリーハウスの方からは見えない倉庫の中。不思議そうにガンが聞く。


「も……無理ィ……! 助けて……!」


 リョウが苦しそうに胸を押さえ、大変辛そうな顔で地面に崩れた。


「何を!?」

「リョウ具合が悪いのですか……!?」

「…………がう、……違うんだ……!」


 瀕死の様相でリョウが絞り出す。


「……メイさんが…………っ」

「ああ、メイが?」

「メイがどうしました?」

「……可愛すぎる…………っ!」


 ガンが『ンッ?』という顔をした。察したカイは『嗚呼』と口元を覆った。


「可愛い、可愛すぎる……何だよあれ……っ! ただでさえ可愛くて普通にしてても見惚れちゃうのにぃ……! あんな笑顔と食べ方反則だよぉ……!」

「お、おう……」

「好きになっちゃう! まだ来た初日なのに好きになっちゃうじゃん! 二人とも助けてよぉ……!」

「嗚呼、嗚呼……! リョウ……」


 倉庫内に悲痛なリョウの叫びが木霊する。


「何で恋愛話でおれまで呼ぶんだよ! カイだけで良かったじゃねえか!」

「ガンさんだって友達でしょお!? あとガンさんはケンさんに強いからァ! ケンさんとかベルさんとか未知数だけどジラフさんとタツさんもォ! 知られると絶対玩具にされるからァ……! この人選なんですゥ……!」


「何でだよって思ッたけど聞いたら納得しちまったわ」

「的確なセレクトでしたね」


 まあそうだなと二人とも納得してしまう。そして仕方がないのでリョウの悲痛な相談に付き合ってやる事にした。

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