131 再お迎え

 リョウの地獄の時間とは対照、女子組は楽しい時間を過ごしていた。


「うふふ! わたくしと系統が違うから楽しいわね! 何を着せようかしら!」

『かみのおいろもすてきです! どうかざりましょうか!』

「モイモイッ! モイ~!」

 

 魔女の屋敷の一室。女小人達に加え、ちゃっかりとマーモットの神まで混ざってきゃっきゃしている。カピバラの神の方は男子という事で一度は集会所に混ざろうとしたが、近付くにつれ聞こえてくる男共の地獄を察し『急な用事を思い出しました……!』と一足先に天界へ戻っていった。危機管理能力である。


「あの……あのう、お風呂……頂きまして……」

「待っていたわよ!」

『おまちしておりましたっ!』

「モイ~!」

「!?」

 

 魔女の屋敷で風呂を借りた巨人族の女が、おずおず顔を出す。客人用かつ男性用の中でも一番大きいバスローブを貸したのだが、それでもつんつるてんだ。


「あのう、おら臭くねえですか!? ずっと風呂入っとらんかったもんで……! よう洗いはしたけども……大丈夫か……!?」

「大丈夫よ。そもそもお風呂に入る前から別に臭くなかったわ。呪塊を封じた時点で時が止まったような状態だったのでしょうね」

「へァ……確かに、封じた時から飯も食ってねえし、便所にも行っとらんです」

『のろいとどうかすることで、せいぶつのがいねんがうすれていたのでしょう』


 話している間にも、女小人達が踏み台に乗りてきぱきと女巨人の採寸をしていく。うろたえながらもされるがまま、ベルはどうしてくれようとじっと女巨人を眺め、マーモットの神は楽しそうに棚に並んだリボンや髪飾りを物色していた。


「所で名前は決まったの? いつまでも女の子を甲冑呼ばわりはしたくないわね」

「あっ、名前! 名前はさっきリョウどんと話した時に決めてあって……!」

『わっ、なんですか!?』

「おらの名前は『メイ』になったです。ケンどん達も剣から取ったりしたでしょう。おらはメイスが得意武器だもんで」

「メイスから…………メイね、分かったわ」


 リョウもまさか女子とは思わずメイスを採用したのでしょうね、と思ったがまあ響きとしては悪くないので何も言わない事にする。それから決断を下す為に更にじっとメイを上から下まで眺めた。


「そうね……此処はじっくり飾りたい所だけれど、今日は時間も無いし後日の歓迎会にまわすとして――うん、良いわ」


 頷くと、紙を取ってザザッとデザイン画をしたためる。覗き込んだマーモットの神がきゃあと歓声をあげた。


『ベルは、おしゃれなことがおじょうずなんですね。とてもすてきです!』

「オホホ! あなたもしたかったら今度プロデュースしてあげてよ!」

『わぁ、したいです……! けどわがともにおこられそうです……!』

「大丈夫よ。神を祀りたてる献上物にしてあげるから。加護の形で返してくれたら形式的に問題は無い筈……!」

『きゃあ! ベルかしこいです! それなら、おこられません!』


 カピバラの神が不在の為、知らず女子同士の強力なパイプが出来てしまう。デザイン画を女小人達に渡すと、モイモイと一斉に手分けし作業をし始めた。女小人達もメイの境遇を聞いて酷く同情したし、何よりおしゃれは大好きなので熱心に協力してくれている。


「ひとまず簡単な形にしたし、大勢での作業だからすぐ出来ると思うわ。――さ、あなたはこっちに座って」

「へぇ……ほんとに何から何まで……おら、頑張って恩返ししねえとな……!」

「うふふ、村の掟は聞いたのでしょう? お互い様よ」

「――……へぇ、嬉しいです。おら、此処に来れて良かった……」

 

 メイがじわりとまた目を潤ませて、深く頷く。ベルもマーモットの神もにこにことして、メイの髪にブラシを通し綺麗にしていった。



 * * *



「とりあえず、本格的な歓迎会は明日に延期という事でェ……今日は普通に夕飯を作りまァす……手分けして頑張りましょう……」

「モイィ……」


 もう辺りは暗い。もうすぐ女子組の用意が終わるという事で、やっと地獄から解放されたリョウが夕飯を作り始めていた。疲弊したリョウの様子に、いたましげに男の厨房小人達が頷く。


「……ありがとう。大丈夫、大丈夫だよ……! ちょっとケンさんに揺さぶられて詰問されてタツさんに泣かれて責められてガンさんに僕の黒歴史を解説されただけだからね……っ! 大丈夫だよ……!」

「モィイ…………」

「それより沢山作ろう! 今日は皆大変だったから! ねっ!」

「モイ!」


 慰めのぽふりを受ける内、リョウも元気が出てきて調理に熱を入れていった。本格的なお祝いは明日だが、自分の料理を食べてみたいと言った彼女の為に美味しい物を作りたい。見る間に食卓へ料理が増えゆく中、個室や村の案内に出ていた他の男達も戻って来た。


「あ、おかえり! 夕飯もうすぐ出来るよ」

「うむ、此方も大体の案内は終わったぞ!」

「個室すごく素敵だったわよォ! バルコニーまで付いてるなんて! 皆ありがとネッ!」

「あっ、そうそう。個室の話なのですが」

「どうかした?」


「甲冑、あいつでけえじゃん。作ってあったベッドだと小せえんだよな」

「ああ……」

「あと流石に、ジラフさんが居るとはいえ四階でタツさんと同じフロアはどうかという話になってな?」

「ああ…………」

「儂は一向に構わんのじゃが!?」

「タツさんが構わなくても駄目です!」


 タツ以外全員が『駄目だろう』という結論に達したので、同フロアではない方向で話を進める事にした。


「初期に使ってた雑魚寝小屋潰して、新しく何か建てるか?」

「そうだな。今後更に女子が増えるかもしれんし、それなら土地を広げて女子用の建物として建てるか」

「嗚呼、良いですね。天井だとか色々大きめにしておけば、今後もし大きい方が来た時にも使えますし」

「建設は賛成だけど、完成するまではどうする?」

「儂は同フロアで良いのにぃ~!」


「うむ、完成までは狭いやもしれんがベル嬢の所か船の方に――……」

「どうした?」

 

 言い掛けて、ケンがぽんと手を叩く。

 

「タツさんタツさん」

「何じゃあ?」

「俺が以前使っていた船を再現した施設があってな? 人では無いし今後の進展も望めぬ感じではあるが、そこなら女人が沢山居るのだ」

「何じゃと!?」

「夜の接待も付けられる故、暫く夜は其方で寝るのはどうだ?」

「素晴らしいぞケン殿! 暫くどころか永続で良いぞ! 大賛成じゃあ!」


 先程まで泣いたり拗ねたり忙しかったタツが、きゃっきゃとはしゃいで満面の笑みを浮かべる。ケンも大きく頷いた。


「よし、これでタツさん分のベッドが浮いた! ふたつ繋げれば甲冑さんでも寝られるだろう! ひとまず新築が出来るまでは、四階はジラフさんと甲冑さんで使って貰うとして!」

「女子寮が出来たらアタシもそっちに移ろうかしらネッ!」

「えっ」


「アタシがその内我慢出来なくて三階組にちょっかい掛けちゃうかもしれないし、タッちゃんがいつ女子寮へ夜這いに行くかもしれないし、女子寮に“用心棒”は居た方が良いと思うのよネ~!」

「おい前半!」

「それもそうだな!? 女子寮が完成したらジラフさんも引っ越しだ!」


 全員のデリケートな問題を考慮した結果、新規で女子寮の建設、更には完成後にツリーハウスの三階四階は男子寮として運用する事が決まった。


「いやあ、準備はしてたけど、実際来ると色々問題が出てくるねえ」

「わはは! すんなり行かんところが面白さだな!」


 相談している内にすっかり夕食の用意は整い、後は女子組が出てくるのを待つばかりだ。魔女の屋敷の方を窺ったタイミングで、丁度扉が開いた。


「おっ」

「皆、待たせたわね。――――さ、メイ。出ていらっしゃい」

「へぇ……!」

「……!」

 

 気配だけでリョウが急にそわつく。ベルの先導で、遅れてメイが扉を潜る。この時初めて、リョウ以外の男達はメイの本当の姿を目にする事となった。

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