126 大型新人

 めかしこみの最中に呼ばれたベルは機嫌が悪かったが、事情を聞くと納得してくれた。小人達も一時延期という事で、料理など保存できるものは保存して男女揃って広場に集合している。全員でひとまず二人を迎える為だ。


「気の毒ではあるけど、実際見てみないと何とも言えないわね」

「うむ。ではやはり、二人を迎えた後で三人目に会いに行こう」

『わがともよりれんらくがきました。もうとうちゃくするそうです』

「おっ」


 村の入り口に目をやると、ほどなくカピバラの神が新入りらしき二人と姿を現した。迎えるようにケンが前に出て、大きく手を振る。小柄なカピバラの神の後に続く二人は、前評判通り普通の人型だ。だが大きい。どちらもケン位の身長があった。


「まーたでけえのが……」

「ふぅむ、期待の大型新人という事か……!」

「大型部分、物理なんだよなあ」

「ハッ、よく見て下さい……!」

「あら、高位の竜族かしら? 神性を感じるわね」


 近付くにつれ、段々細かな特徴も見えてきた。

 一人はケンに負けず劣らずの筋骨隆々。重戦士のような甲冑に背負った大槍、身形もそうだが何より本人に歴戦の傭兵のような風格があった。オリーブ色の肌に彫りの深い濃い目の顔だち、外見年齢はケンより少し若い位だろうか、派手なピンクと紫のジラフ柄の坊主頭が特に目を惹いた。

 

 もう一人は背は高いがすらりとして、長い手足をカンフー着のようなゆったりした衣服が包んでいた。紐で括った酒壺を提げ、鬣のような白髪を三つ編みにして長く垂らしている。綺麗な顔だちをしており、外見年齢はカイと同じ位だろう。特筆すべきはこめかみの位置から生えた珊瑚のような形の角と、尾てい骨の位置から生える龍のような尻尾だ。


『皆さん、お待たせしました……! 事情は既にお聞き及びかと思いますが、先に此方のお二人を紹介させてください』

「ああ、聞いている。まずは先に二人とも、よく来てくれた! 歓迎しようぞ!」


 ワッと自己紹介の前に拍手が沸き起こる。歓迎された二人は、少し面映ゆいようにしながらも『どうもどうも』と感謝のジェスチャーをする。


『この世界の成り立ちと、この村がどういう場所なのか、村の掟までは既に説明してあります。お二人とも、喜んで村の仲間に加わりたいそうです』

「それは何より!」

『自己紹介もして頂くのですが、先にケン達からお願いしてもよろしいですか?』

「ああ! いいぞ!」


 ケンが鷹揚に頷き仁王立ちする。


「俺が村長のケンだ! 種族は人間! 前の世界では世界征服や覇王をしていた! 年齢は千歳と少し! 好きな食べ物は肉全般と芋を揚げたもの! 好きな事は剣を振るうこと! 好きなものは――」

「おい長えよ!」

「好物とか今要らなくない!?」

「む、そうか! では次!」


 来た順でいいか……と次はガンが手を上げる。


「ガンかガンナー、好きな方で呼んでくれ。種族は人間。前の世界では軍人やッてて、宇宙人と戦ってた。年齢は30。よろしくな」

「ちょっとケンさんの流れ引きずるじゃん……?」

「途中まで採用した。次リョウな」


 指名されて今度はリョウが手を上げる。


「僕はリョウといいます。種族は人間で前の世界では魔王をひたすら倒し続ける勇者をしていました。年齢は33歳です。お二人ともどうぞよろしく! 次はカイさんどうぞ!」

「あっはい」


 続けてカイが手を上げる。


「私はカイ。種族は魔族で、前の世界では魔王をやっていました。年齢は848歳です。以前は兎も角今は悪い魔王ではありませんので、お二人ともどうぞよろしくお願いします。 次はベルですかね?」

「よくってよ」


 ベルが頷き、新入りの二人に優雅な一礼をする。


「わたくしはベル。種族も前の世界での職業も魔女よ。年齢は女の秘密という事で明かさないけれど、二人とも良き仲間になれれば嬉しいわ」

「…………」

「………………」

「何?」

「何でもねえ」

「何でもないです」


 初期に比べて丸くなったなあと感慨深くするガンとリョウが睨まれ、慌てて首を横に振る。ベルがふんと鼻を鳴らして、小人達を示した。


「小人達はわたくしの元使い魔なのだけれど、今はこの世界の生物として登録されているわ。言葉が通じなくても、わたくしやガンナーなら通訳出来るし、沢山生活も助けてくれるから。小人達もよろしくね」

「モイッモイッ! モイー!」


 小人達も元気よく挨拶をする。新入り二人は頷きながらにこやかに皆の自己紹介を聞き、最後に拍手も返してくれた。


『では、お二方なのですが。もう名前の方は大丈夫ですか?』

「あっそうか名前……」

「――――大丈夫よ。カピ神ちゃんから新しい名前の話は聞いてるし、アタシ達もちゃんと考えてきたから」


 問題無い、と坊主頭の方の新入りが野太い声で応じて前に出る。その瞬間全員『ンッ?』となった。


「初めまして! アタシは“ジラフ”と呼んで頂戴! 新しい名前はね、バタフライちゃんとかコットンキャンディーちゃんとかも良いなって迷ったんだけど、短い方が呼びやすいかなと思って!」

「!?」

「種族は人間で、前の世界ではゴリッゴリの傭兵王をしてましたぁ~! 年齢はベルちゃんと同じく乙女のヒ・ミ・ツ☆って事でよろしくネッ!」

「待て! 乙女じゃねえだろ!?」


『ンッ?』からいち早く復帰したガンが慌てて突っ込む。


「乙女よ? 体はオッサンでも心は乙女だからアタシは乙女なの!」

「成る程! それは乙女だな!?」

「心が乙女なら仕方ないわね。よくってよ」

「!?」

「!?」

「!?」


 まだ噛み砕けないガンとリョウとカイが宇宙猫のような顔になるが話はどんどん進んでいく。


「ありがとう! そうだ、男の子達は安心して頂戴ね! アタシいきなり無理矢理襲ったりはしないタイプだから! ちゃんと手順は踏みますからネッ!」

「!?」

「!?」

「!?」


「ちなみにジラフ、この中だと誰が好みなのかしら?」

「……そうねぇ、相撲を取りたいのはケンちゃん、可愛がりたいのはガンナーちゃん、困った顔が見たいのがリョウちゃんで、片眼鏡モノクルを汚してやりたいのがカイちゃんかしらっ!」

「そう、中々良い趣味をしているわ。よくってよ」


「相撲か! 相撲位ならまあ……!?」

「カイもう片眼鏡が本体になッてんじゃねえか!」

「他も聞き流せないけどカイさんの片眼鏡が一番気になるんだよもう……!」

「片眼鏡って……!」

「男共はおだまり。さ、次よ」


 ベルがジラフを乙女と認めてしまったので、動揺する男共はスルーされ展開を進められてしまう。番が来た竜族っぽい男の方も促されて前に出た。


「本名だと発音が難しいじゃろうから、儂のことは“タツ”さんとでも呼んでおくれ。種族は龍族。前の世界では龍王をしておった」

「ハッ、まともそう……!?」

「年齢はもう数えておらんからアレじゃけど、四千か五千歳位かの。好きな飲み物は酒で、好きな事、もの――儂、女人が好きじゃなあ。うん、女人が好きじゃ」

「これはまともなのかリョウ!?」

「ちょっとまともじゃないかもしれないねえガンさん!?」


 にこにこと外見は爺という程ではないが、好々爺の笑みを浮かべてタツがベルの前へ行く。

 

「――――時にベル殿は大変よき乳房をしておる。是非揉みしだかせて頂きたいと思うが如何じゃろう?」

「タツさん! 何と素直な……!」

「笑顔で聞く事じゃねえんだよ! リョウこいつただのエロジジイだ!」

「この人絶対僕よりエロいって! 間違いないよガンさん!」

「ちょッッ、駄目です! 絶対駄目ですよ……!?」

「アラアラ! タッちゃんたら~!」


 にこにことストレート過ぎる打診に、ベルもにっこり微笑み返した。


「うふふ、褒めて頂いて嬉しいわ! だけどこの乳房を揉みしだいて良いのはカイだけなのよ! 御免あそばせ!」

「何じゃあ~! 残念だのう!」

「ベル嬢!? もうそこまで進んで――!?」

「キャア! ベルちゃんとカイちゃんって“そう”なの~!?」

「ベル!? すすすッ進んでませんから――ッッ!」

 

 混迷を極める場に、ガンとリョウは呆然とした。


「おい……どっちもイロモノじゃねえかよ……!」

「え、ちょ……普通の英雄だって言ってたじゃん……!?」

『えっ、ふつうのえいゆうですよ……?』

『ちょっと個性が強いだけで、別に移住に問題は無いですし……?』


 きょとんとするマーモットの神の方は兎も角、目を反らしたカピバラの神の方は確信犯だろと二人は思った。思ったが、確かに移住に問題は無いのでそれ以上何も言えなかった。問題は、もう一人の方である。

 ひとしきり賑やかに自己紹介を終えると、小人は置いて全員で“戦場”の方へ向かう事にした。あちらにも、もう一人の英雄が移住して待っている。

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