120 優良物件

「いやァ、意外とケンに勝てる種目あったな!」

「これは大きな発見でしたね……!」

「素直に嬉しい~!」

「悔しいが得手不得手はあるッ! 仕方あるまいッ!」


 体力テストを始め、色々と身体を動かした後の昼食は美味かった。折角の天気という事で、見晴らしのよい庭園で屋外ランチと洒落込んでいる。

 周囲では使用人達が目の前で肉や魚を焼いてくれたり、他にも色んな料理を運んでくれており、ビュッフェ形式で好きな物が食べられるようになっていた。勿体ない位の御馳走だが、もう船の仕様だと思って有難く頂く事にする。


「種目によっては割と平等っていうかさ、誰か一人が常に圧勝っていう事も無いし、これもっと人数増えたら村の行事にしても良いかもね」

「おや、楽しそうですね」

「それは良いな! 何か賞品でも付けるか!」

「おれの世界だと、大会とかで優勝するとメダルとかトロフィー貰えてたかなァ」

「おお、金品より名誉って感じでいいね!」


 いつか村に人が増えて、運動会をしている所を想像する。中々楽しそうだ。


「村の位置だとあまり季節感がありませんけど、四季がある場所でしたら秋の収穫祭なんかもありますね」

「祭りはいいぞ、祭りは……!」

「ケンさんの船のお陰で物資も揃うし、これから色々やりたいよねえ……!」

「人が……増える……」

「どうしたガンさん?」


 気に入ったらしく、ビュッフェにあった“おにぎり”なるものを齧っていたガンが何かに気付いて首を傾げた。


「神達が新人類は後回しにするッて言ってたじゃん?」

「うん、そうだね」

「例えばな、例えばだぜ?」

「うむ」

「例えばカイとベルの間にガキが産まれたりした場合はどうなるんだ?」

「ぶッッほッッ」


 スープを飲んでいたカイが盛大に咽る。


「なんかすまんカイ……! 例えだからさ……!」

「いえ、いえ……! 大丈夫です……!」

「ふぅむ。確かにベル嬢とカイさんは置いておくとしても、今後新たに別世界から英雄達が来て、そういう事が発生する可能性はあるか……!」

「確かに。そうなると移住した英雄でも、新たに神が生み出す新人類でもない人類が産まれる事になる……?」

「よな……?」


 一応神達は新人類を設計する時は相談するし、差別が産まれないよう強い命としてとは言っていたが、英雄側に産まれた子供が弱かったらどうなるのだろう。という疑問が生まれる。


「けどさ」

「おう」

「ほんとカイさんとベルさんで例えてごめんなんだけど、二人の子供って絶対弱くないよね? 強いよね?」

「確かにそうだな? なら問題無いか!?」

「ンン……!」


 今度はカイが喉を詰まらせそうになったので慌てて背中を叩いてやる。


「まあそれ言うなら、小人達だって強い訳じゃねえし大丈夫か。弱くて駄目なら鍛えりゃ良いだけだしな」

「うむ! どうせ俺達の遺伝子は強いだろう!」

「僕は自分の子供を見た事無いから、遺伝子強いか分かんないんだよなあ。そもそも生まれてるかも分かんないし……!」

「おれはデータ上なら見た事あるけど、どれもおれの劣化版ッて感じだったなァ」

「それは、ええと、性能が?」

「そう、性能。性格とか見た目は会った事も無えし知らねえや」


 おにぎりに付属していた“たくあん”が美味いらしく、ガンがぽりぽりと齧っている。美味そうだったので、ケンとリョウもぽりぽりやり始める。


「ケンさんの子供はどうだったの?」

「全部は覚えておらんのだが、大体ガンさんと同じく俺の劣化版という感じで――まあピンキリだな」

「全部おれらの遺伝子が発現する訳じゃねえし、母親の方が普通だッたらまあそうなるだろなァ」

「ちなみに……」


 カイが飲食物を口に含んでいないかを確認した上で、リョウがカイを見る。


「カイさんは……?」

「えっ」

「おれ達で伏線張っといてさりげなく切り込むじゃねえかリョウ……!」

「確かにカイさんのそういう話はまだ聞いた事が無かったな!?」


 全員の視線がカイに集まる。


「私が何です……!?」

「結婚してたのか、とか……」

「ガキは居たのか……とか……」

「これまでの恋愛遍歴……とか……」

「………………」


「ベルさんには言わないので……!」

「必要だとおまえが思った時にベルには言えばいいから……!」

「俺達は絶対に言わないから……!」

「いや、いやいやいや……! 隠すほどの事でも無いですが……!?」


 魔王の魔王の件があるしデリケートゾーンを踏んではいけないので、やや控えめにそっと囲い込むが割と普通の反応だった。それでも矢張り少しは恥ずかしいらしく、こほんと咳払いをして茶を飲んでからカイが口を開く。


「親が定めた婚約者は居りましたよ。ただ私は魔王として人間界の征服に忙しくしておりましたので、結婚や諸々は後回し――という感じで特に何事も無く」

「おい一番クリーンじゃねえか……!?」

「婚約者さんとはイチャイチャしてたの!?」

「愛人とかは作らなかったのか!?」

「ですからイチャイチャする暇も無いと言いますか、愛人を作る暇だってありませんよ……!」


 カイがそう言うならそうなんだろう。面白みがないと言っては失礼なのだろうが、無難な返答だったので『そっか~』という感じで全員たくあんをぽりぽりする。


「というか、私も皆さんのあれそれは聞いていないのですが。いえ、ケンの話は伝え聞いていますけど。リョウもガンナーも前の世界ではお子さんがいらっしゃるんです……?」

「あっ、そうか」

「カイが来る前の話だもんな」


「ああ、そうか。伝え聞いている通り? 俺はそれはもう世界中に子供を作ったが全員認知してちゃんと養っていたぞ……! ちゃんと! 俺は! 責任を! 取っている……!」

「責任を強調してくるじゃん! やめてよ……!」

「こいつ……!」


 リョウとガンが忌々し気にケンを見る。ケンはドヤ顔をしていた。


「僕はですね。えー……、夜の接待や旅先で……色々……ありましたので……ひょっとしたら、子供が出来ているかもしれませんが……、ちょっと真実は分からないですね……? 魔王を倒し終えた時に……僕の子だ! って色んな女性が詰めかけて来ましたが……それは全部違ったので……ほんと分かんないです……」

「改めて聞くと割とリョウ最低なんだよな……」

「認知どころか有無も分かってないからなリョウさんは!」

「リョウ……! よくない、それはよくないですよ……!」


 親友の下半身の最低具合にカイが嘆かわしい顔をした。


「おれは、えーと……提出した遺伝子とか精子で勝手に政府がクローンとか子供を大量生産していたので……全然把握してねえです……多分滅茶苦茶居る……」

「改めて考えるとさ、ケンさんより沢山子孫残してるかもしれないんだよなガンさんて……」

「そりゃ数はな? けどどうせ戦争ですぐ使い潰されてるッて……」

「ガンナー……! よくない、とてもよくないですよ……!」


 ガンナーの世界の最低具合にカイが義憤にかられた顔をする。


「つまり纏めるとだな。三人とも種は撒きまくったが、全員認知して責任まで取ったのが俺! 撒くだけ撒いて種の行方すら分からないのがリョウさん! 撒いて行方も何となく把握してるが自分は無関係です面しているのがガンさんだ!」

「悪意がある! 悪意があるよケンさんその言い方は……!」

「政府が勝手に作ッたんだから仕方ねえだろが!」

「まあまあ……!」


 女側からしたら、認知と責任を取っただけケンが少しましな位で世界中に女が居た時点でどっこいだろうと思ったが、口に出さぬ賢さがカイには存在した。


「……というか、まあ……そう考えるとさ」

「うん?」


 食事を再開したリョウが、ふとごちる。


「カイさんを選んだベルさんの目は確かだったんだなって……」

「そうだな、カイが一番まともだわ……」

「仕方ない。俺はもう殿堂入りだから、この優良物件勝負はカイさんにくれてやるとしよう……!」

「勝手に自分を殿堂入りさせてんじゃねえよ……!」

「ほんとだよ……! けどカイさんが一番優良物件なのは同意だよ……!」


「え、ええ……ありがとうございます……?」


 唐突な謎勝負の勝利に戸惑いながらも、一応光栄に受け取っておいた。

 その後、昼食を終えると午後は海で遊んだり等し、夜にはベルも伴って一度村へ戻る事にする。

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